オレの妹がカリフなわけがない！#18-19

カリフラノベ『オレカリ（略称）』 @caliphnovel

「オレの妹がカリフなわけがない！」#１８

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この先生は変だ！時の徴を読み解くことなど出来ないオレにも、それだけは直ぐに分る。 「まぁ、お茶でも入れよう。お茶請けはバクラヴァがいいかな。それともルタブ？」 「ばく…？るた…？」 「あぁ、今時の高校生はこんなことも知らないのか。受験にでないからだな。呪われよ、文部科学省！」１

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文部科学省を呪うことに異議はないが、おれがその「ばく…」、「るた…」を知らないせいで呪われたとしたら文部科学省が少し気の毒な気がする。 「バクラヴァはトルコ風のシロップ漬けパイ、ルタブは半乾燥ナツメヤシの実だよ」 あったのか？、この国の高校生がそんなものを知っていた時代が！ ２

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「バクラヴァでいいね？この時期のルタブはあまり美味しくないから」 先生は勝手に見慣れぬ塊を小皿に乗せる。 「バクラヴァはトルコ語、アラビア語ではバクラワ。アラビア語のワーゥはトルコ語ではヴァーになるからね。ペルシャ語も同じ。ヴェラーヤテェファギーフ、って、あぁ気持ち悪い」３

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「あの～…」 オレが恐る恐る話しかける。話がまるで見えない、というか、どうしてオレはこの先生の話を聞いているんだ？！ 「あぁ、失礼。君は私に用があってここに来たんだね」 オレは昨日のように煙に巻かれず理路整然と説き伏せられるよう、妹がカリフになれないわけを教わりに来たんだ。４

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でも、オレは思わず尋ねてしまった。 「先生があいつ…愛紗にカリフになれと唆したのですか？！」 「ひとから教わったことになど何の意味もありません。ただ自分で見いだしたものだけが、真の知識、生きられる知なんです」 先生はやっぱり焦点の定まらない目で虚空を見つめて歌うように言った。５

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「私は誰にも何も教えません。私はただ、求める者に、テキストを厳密に読むことができるようになるよう、お手伝いするだけです。私利私欲、我執を離れ、真理を求めてテキストの正確な意味に耳を傾ける時、テキストは初めて、その人だけの世界の真実を開示するのです」６

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「愛紗さんは、永遠の過去から永遠の未来に至る世界の中で、ただ彼女独りだけのために語りかけられたテキストの真の意味を自ら見出したのです」 「何なんですか、その真の意味というのは？！」７

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「言ったはずです。ひとから聞いたことになど何の意味もないと。ただ自分で見いだしたものだけが、真の知識、生きられる知だと。私は何も教えません。求める者に、テキストを厳密に読むことができるようになるよう、お手伝いするだけです。君にはテキストに耳を傾ける用意がありますか？」８

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先生は相変わらず焦点の定まらない目で、しかしオレの目を真っ直ぐに覗き込んでそう言った。８ （#１８ 終わり　#１９に続く）

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「オレの妹がカリフなわけがない！」 #１９

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こうして「Noと言えない日本人」なオレは週に４日白岩先生からアラビア語を習う羽目になってしまった。１

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これまで部活もせず彼女も作らず、ひたすら真面目に放課後も授業の復習、予習に明け暮れて、それでもブロンズクラスで落第しないために四苦八苦という暗黒の青春を送ってきたというのに、何が悲しゅうて週に３日も履修もしていないアラビア語の勉強をせにゃならんのか…　２

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「愛紗さんは優秀な生徒でした。毎日日の出前から１時間をアラビア語の学習に費やして半年で独りでアラビア語の古典を読めるようになりました。飲み込みが早い彼女はペルシャ語とトルコ語は１日文法を教えただけで独りで読めるようになりました。君は…アラビア語だけにしましょう。何日来ますか？」３

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「…では３日で…」 プラチナクラスの妹が毎日アラビア語の講義を受けていたと聞いて、ブロンズクラスの落ちこぼれのオレが３日以下なんて言えるはずがないじゃないか。 オレのことをKYだなんて言う奴らがいるがとんでもない。オレは元来気配りのA型なんだ。気を配った上でのボッチなんだ…４

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なんだか自分で言ってて悲しくなってきたぞ… ともあれなんだかんだでオレは白岩先生からアラビア語の講義を受けることになったわけだ。 「お茶請けは、今日もバクラヴァでいいですね？」 オレの返事も待たずにバクラヴァの小皿をオレに差し出す。 バクラヴァは頭が痺れるような甘さだ。５

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「脳の活動は糖分のみによって支えられています。アラビア語は難解な言語です。君の脳の場合、アラビア語を理解しようとするなら莫大な糖分を消費しなければならないでしょう」 なにげにバカにされたような気がしたが、口を挟む暇もなく、先生はたたみかけてきた。６

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「アラビア語は世界でも最も難解な言語の一つとも言われています。尤も、私はそうは思いませんがね。それはともかく、アラビア語が難しい言葉なのは確かです。右から左に書くアラビア文字は君が知っているローマ字とも漢字とも全く違う系統の文字です。だから私は君に文法の梗概を１日で教えます」７

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「えっ？！アラビア語は難しい言語なんですよね？」 「その通りです」 「だから、それを１日で教えるって？！」 「難しいからこそ１日で教えてしまわないといけないのです。教えたことを全て記憶し学ぶことに迷いもブレもない愛紗さんには文法に７日をかけることができました」７

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「しかし記憶する量が忘れる量を殆ど上まらない君の脳では、１日以上をかけてはザルで水を汲むように何も残りません。だから文法の梗概を、君が記憶ではなく理解できるギリギリまで縮減して一日で君の脳に刻み込まなくてはならないのです。分かりますね？」 分るか！！　 (*｀Д´*)　８

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「一日でアラビア語文法の梗概を理解すれば、後は全て例外規則と応用です。それらは講読の中で忘れる速度を超える量の反復練習で少しずつ記憶していけばよいのです」 「…」 まぁ、ともかくこうして成り行きで、バクラヴァで脳にエネルギーを送りながら、アラビア語を学ぶ生活を送っていた。９

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まるで虫でも見るような憐れみの目で先生に見られ、何を勉強しているのかもよく分からないままに、殆ど全ての単語をアラビア語英語の辞書をひき、さらに英和辞書で調べるという、つまらないながらも平穏な日々をオレは送っていたわけだ。あのプラチナクラスの藤田のヤツが教室にまた現れるまでは。１０

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（#１９ 終わり　#２０に続く ）