メイキング・アゴニィ・フェイタル・ガール #2
「あ……が……」金魚のようにぱくぱく動く口から、呻き声が漏れる。そして仁夏の頭がだらんと傾いだ。相変わらず彼女の体は燃え続けている。首を握る光彦の両手も焼けているが、まだ手を緩めるわけにはいかない。このまま彼女の体の再生が止まるまで締め続ける。20
2013-06-10 20:04:37そう思った矢先に、近づいてくる音があった。思ったよりも早い、パトカーのサイレンだ。見つかったら面倒なんて言葉では片付かないことになるだろう。田神は仕留めた。この不死身の少女に危険を冒してまでトドメを刺す必要はない。21
2013-06-10 20:07:34「……クソッ」既に抵抗しなくなった仁夏の体をどかして、光彦は立ち上がる。馬乗りにされた腹の部分が酷く焼け焦げている。ヤクザゾンビたちに受けた傷も浅くはない。痛みをこらえながら光彦は路地に入り、姿をくらました。22
2013-06-10 20:10:00数日後。駆け込んだ馴染みの病院で気を失った光彦が目を覚ますまで、それだけの時間がかかっていた。「ああ、割に合わん仕事だった。呪術師どころがネクロマンサー、おまけに護衛の魔法使い。そもそも田神がヤクザのボスをやってたなんてことも聞いてなかったからな。訴えてやろうか、協会の連中」25
2013-06-10 20:14:12「そうねー。紅谷ちゃんが貧乏になったら、ウチも儲けが減るからねえ。いい弁護士、紹介しようか?」「……マトモな人間だよな? この病院、変人しかいないから不安なんだが」「だいじょーぶ。弁護士さんはマトモよ。じゃなかったら裁判に負けちゃうでしょう?」26
2013-06-10 20:17:08軽快に話しながらも、医者が包帯を取り替える手は素早く、正確で、全くの無駄がない。最後にポン、と左腕を叩くと、「はい、おしまい」彼の治療は終了した。27
2013-06-10 20:19:35「治癒魔法はかけないのか?」「ああ、それは看護師の子にやってもらうわ。ひと月ぐらい前に、いい子が入ったのよー」「……変人か?」「ええ」「わかった、それは諦める。腕は確かなんだろうな?」「それは安心して。みっちり研修してあげたから。じゃ、今から呼ぶわね」28
2013-06-10 20:22:58そう言うと彼は携帯を取り出した。「もしもし、吾野ちゃん? そう、306号室の患者さん。すぐ来てチョーダイ」「吾野?」光彦が眉をしかめる。最近どこかで聞いたような気がする。思い出そうとしているうちに病室のドアが開いた。29
2013-06-10 20:27:14聞き覚えのある、いや、忘れもしない不自然な声がする。恐る恐るドアの方に目をやると、つい先日絞め落としたはずの仁夏がいた。ラバースーツも着ていないし、針も刺さっていないが、喜悦に歪んだ顔とどんより濁った目は見間違えるはずがない。31
2013-06-10 20:29:42「チェンジで」とっさにそう言ってしまった。「……ウチ、そーゆーお店じゃないんだけど?」「違う、そうじゃない。そうじゃないんだ。おい動くな! それ以上部屋に入るんじゃない!」「部屋に入らない、と、治療、できませんよ?」「嘘をつくな! 大体お前、何でこんな所にいるんだ!?」32
2013-06-10 20:33:32「どーしたの、紅谷ちゃん?」「さっき話しただろ! あのヤクザに雇われてたのが、コイツなんだよ!」「あらまあ、それでこの前、休んでたの?」「スミマセン、どーしても、イタミが、足りなかったので」謝りこそするものの、仁夏の顔は全く反省していない。34
2013-06-10 20:40:50「……少しは反省しなさい。紅谷ちゃんの手当ては私がやるから、アナタはいつも通り回診に行ってちょうだい」「ぐう……わかり、ました」物凄い不満そうだが、一応了解したようだ。体を色々イジられることが無くなって、ほっとため息をつく。35
2013-06-10 20:45:21「デスケド! 治った時は、ちゃんとワタシに言って下さい、ね! まだまだ光彦、サン、には斬られ足りないんデス、から!」物凄い捨てぜりふを吐いて、仁夏が走り去っていく。そして、廊下の遠くの方からガシャンと派手な音と、「アーイイ!」ついこの間も聞いたしょうもない叫びが聞こえてきた。36
2013-06-10 20:48:30「……なあ、退院する時はアイツに内緒にしておいてくれ」「善処するわ」 二人が同時に頭を抱え混みそうな、どんよりとした雰囲気だけが病室の中に残っていた。37
2013-06-10 20:51:17与太話
唐突に女体化アゴニィでバトル物の電波が来て、じゃあどう倒すかって考えた結果が今回のSS。ヤクザとヤクザボスとヤクザゾンビは 全 て 噛 ま せ 犬 #あるいは趣味
2013-06-10 20:58:03