選ばれなかった手

稜と創史の話。 血の境界線を見定める。
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高嗣創史 @inoust1

「あの人たちが俺なんかに殺されるわけねえだろ!」反射的に立ち上がり、叫んだ自分の声の大きさに驚く。「ほら、図星。私そーじの事なら結構鋭いんだー」「っ」「それに、『あの子』はわかんないよ?すぐ死んじゃいそうな子だよね」 「あの子?」「『蜂花さん』だよ。そーじ」

2013-06-08 17:02:54
高嗣創史 @inoust1

なにも口に出せなかった。ただ、その名前を出した稜の目を見つめる。濃い月の色。あの夜を否応なく思い出させる色だ。 「『蜂花さん』殺したくないでしょ?そーじ」 「俺、は、」 苛々する。略奪しに行った時と同じだ。自分に苛々する。なんでこんなに動揺していいようにされているんだろうか。

2013-06-08 17:04:06
高嗣創史 @inoust1

このまま黙らせてしまいたい。きっと簡単に殺せるだろう。空間移動されるよりもこの距離なら刺す方が速い。そもそも稜は過激派だといった。過激派を殲滅するのが仕事だと冴島さんが言った。 なのに、手が動かせない。 まさか、稜の言葉を真に受けていだろうか。わからない。

2013-06-08 17:04:28
高嗣創史 @inoust1

また『コレ』だ。周りの方が自分を分かっているだなんて、笑える話だ。そもそも暴走の話だって、生かされている理由だって、信じる根拠がない。 でも――、否定しきれる話でもなかった。呼吸を整える。落ちつけ。 ………………でも。 「彼女を殺したくない」

2013-06-08 17:05:34
高嗣創史 @inoust1

言葉は口をついて出た。「そうだよね。命がけでそーじが守った人だもんね。昔のそーじなら絶対そういうのなかったのに。私感激したんだよ?そういうのわかってくれるようになったんだって。でも劇的に変わったわけじゃないんだね」わからない。って言うのは変わらないね。

2013-06-08 17:06:23
高嗣創史 @inoust1

「ね、行こうよ。そーじ」 そういって華やかに笑う。 可愛い笑顔だ。 何も疑うところのない笑顔。 無意識に手を伸ばす。 伸ばさざるを得なかった。どうしても。 稜と違って、蜂花の笑顔は思い出せない。(そうだ。見た事がない)

2013-06-08 17:07:17
高嗣創史 @inoust1

『大事なものを作るなら相手をコロス覚悟で』来宮センパイの言葉が脳裏をよぎった。(死なせたくない) 嬉しそうに笑って、彼女も手を差し出してくる。 その手の上を通って、赤い槍が彼女の胸に吸い込まれるように、刺さった。 「っ、え?」 驚いたように自分の胸元を見る彼女を、ただ眺める。

2013-06-08 17:08:44
高嗣創史 @inoust1

即座に状況を理解した顔をして、彼女はより深く刺さる事も構わずに自分に擦り寄った。 「私の事は……助けてくれないん、だね」 自分の肩をぎり、とにぎった手からすぐに力は抜けた。 縋りつくようにして崩れ落ちる体を受け止めずもせずに見下ろす。 「稜は、大事じゃないから」

2013-06-08 17:09:27
高嗣創史 @inoust1

刺さったままの槍をそのままにして、身を翻す。 と、そこで自分の携帯が鳴った。 無言で通話ボタンを押すと、予想していた声がした。 『やあ、青年。傷の具合はどうかな』 「…………あんたか」 『やれやれ。君が関わると碌なことにならないね。また大切な部下を一人失ったよ』

2013-06-08 20:10:36
高嗣創史 @inoust1

「……あんたのせい。だろ。止めればよかったんだ。っつーか、俺の携帯にかけてくんじゃねーよ、疑われたらどーしてくれんの?」『その辺りの事はきちんと対処をしてあるとも。今回は身内の不始末だからね。私としても君のような青年が利用されて殺されるのは本意とする所じゃない』

2013-06-08 20:11:28
高嗣創史 @inoust1

「は、言ってろ」『そこのお嬢さんは戻ったら殺されるかも、と言っていたかもしれないが、それも心配する必要はないよ。まあ、戻れば分かる事だろうけど。その代わり、彼女の部屋はそのままにして、今回の件は黙っておいてくれないかな?それならお互いに面倒なことにならないし構わないだろう?』

2013-06-08 20:12:27
高嗣創史 @inoust1

「ああ。別にいいけど」『おや、素直だね』「そーいうの、『どうでもいい』んで。そもそも、生かされてるとかどうでもよかったし。……約束があるからもう切りたいんだけど」『約束ね。随分と他人と仲間への感情がかけ離れたようだね』 その言葉は的確に真実をついているように思えた。

2013-06-08 20:14:51
高嗣創史 @inoust1

『まあ、話はそれだけだとも。ああ、それと。こちらには血液変化の純血と、身体能力強化の純血がいる。異捜課よりもずっと訓練には適しているよ。もし君の『暴走』が『可能性』であるなら、私は君を歓迎するとも』 「勝手にしてろ。俺は『帰る』」 あの場所へ。戻るんじゃない。帰りたい。

2013-06-08 20:15:46
高嗣創史 @inoust1

ぶちりと通話を切ると、振り返る気にもならずに玄関へと急ぐ。靴は履いたままで良かった。すぐに『帰れる』 外に出た。

2013-06-08 20:16:12
高嗣創史 @inoust1

戻ってくると、出て行った時と同じ馴染んだ殺伐とした雰囲気が待っていた。どこに行っていたのかと揶揄するような声をあしらって、彼女の姿を探す。すぐに見つけた黒い髪に躊躇わずに近寄って行った。 「蜂花さん」 そういえば話しかけるのは久しぶりかもしれない。

2013-06-08 20:20:31
高嗣創史 @inoust1

随分と無駄な事を考えていた。わからないからこそ思考はいつもシンプルなはずだった。迷う事もなかった。でも原因が彼女だとしたら、そう悪いことでもなかったように思う。 振り向いた彼女のいつもの無表情に安心する。 「蜂花さん、遊園地、行きません?」 約束してたっすよね。

2013-06-08 20:23:27
高嗣創史 @inoust1

『その手』を差し出す。先ほど伸ばしたように、同じく差し出して、反応を待つ。「……はい」端的な言葉で、躊躇うしたその手を自分から掴んで、握りしめる。「そーいや、言いたいことがあるんすよ。……遊園地で話すんで、聞いてもらえます?」頷いた彼女が愛おしくて、『笑った』。

2013-06-08 20:29:43
異能鳩羽 @hato_ba_ss

@inoust1 高嗣くん編熱い…!!稜ちゃんが絶命する寸前まで高嗣くんを愛しむ目で、そこに僅かな嫉妬と寂しさを滲ませてたのかなと思うと胸が詰まりました。高嗣くんが何処かへ行ってたのを誰かが勘づいて、でも何も言わずに迎えそう。ご馳走さまでした!

2013-06-08 20:51:35
来宮真人 @krmy__

@inoust1 お疲れ様です〜あきさんの文すきです〜来宮は、なんだかんだ高嗣くんのことを気に入っていて、からかったり、柄にもなく先輩ぶったことしてそうです

2013-06-08 21:38:17
ほうか @n_houka

@inoust1 わああ……!!! 限定された相手に向けられる情とそれ以外への非情……なんだか対比がとても頭に残ります……わああ……!! お疲れさまです……蜂花も応えなきゃ……!!

2013-06-08 22:12:08
高嗣創史 @inoust1

今更だけど、創史にはそんな大層な能力ありません。武器作るのがせいぜいです。地面が血まみれで下から串刺しにするならともかく。そして純潔ならまだしも混血だし。でも『何か』あったら暴走するかもしれない。程度。

2013-06-09 08:41:27
高嗣創史 @inoust1

創史と稜の話は、蜂花ちゃんには一生知られることはないだろうなって。でも蜂花ちゃんがいなかったら戻ってこなかったかもしれないし、でもその事を彼女は知らないんだなあ。と思うと、すれ違いがせつないなあと。お互いの秘密になるのかなあ。

2013-06-09 23:58:58
ほうか @n_houka

この手を、久々に掴んだ彼は、なにかふっ切れたような表情をしていた。しばらく鬱いでいるようだったけれど、解決したか、それに近いことがあったのだろう。「……遊園地、何年ぶりだろうなあ」ほんの子供の頃に母と行ったきり、だ。途端に浮かぶ記憶に、僅かに胸の奥がざわつく。

2013-06-09 11:19:55
ほうか @n_houka

腕を回したおおきな猫の、その背中をぽんぽんとたたく。顔を埋めれば、穏やかな波のように眠気がやってきた。「……なんにしろ、元気になったみたいで、よかったですね」なんにも力になれなかったのが、すこし情けないけれど。

2013-06-09 11:23:21
ほうか @n_houka

今夜はピアノの音色になろう 群青色のワンピースを着て、わたしを愛する。 http://t.co/7c2pzaL7ej うまれるべきではなかったわたしを、愛してみる。振りにもならないただのおあそび。誰の心にも留まらないような、綻びのない単調な曲を、奏でる。

2013-06-10 20:17:25