選ばれなかった手

稜と創史の話。 血の境界線を見定める。
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高嗣創史 @inoust1

相馬綾は過激派/異能者/髪:青/目:金色/空間移動/思想に賛同している #現代異能ったー http://t.co/7eFtDy6nO2

2013-06-07 23:59:34
高嗣創史 @inoust1

「そーじっ」 心臓を射抜くような声だった。 可憐で姦しくて綺麗で可愛くて純粋な慈しみに満ちた声だった。 在るはずのない声だった。 聞こえるはずのない声だった。

2013-06-08 12:34:55
高嗣創史 @inoust1

振り返る。 空色のふわりとしたワンピースに、白い日傘をさして女は笑っていた。 「 」 ここは明るい。 日差しが照る、何の変哲もない日中の道端。 立ち止まっている自分たちを通りゆく人々が少し邪魔そうな顔をしてすりぬけていく。

2013-06-08 12:35:17
高嗣創史 @inoust1

「そーじっ。遊ぼっ」 誘う声に応じる間もなく、周囲の景色は一変した。

2013-06-08 12:35:33
高嗣創史 @inoust1

気付けば見知らぬマンションの一室に佇んでいた。 動揺して反応もできなかった失態を自覚しながらも、目の前の光を放つような金の瞳に対応が何も思いつかない。 空間移動をしたのだと気付きながら、武器を構えることすらできずに立ち尽くす。

2013-06-08 12:36:10
高嗣創史 @inoust1

「ねー、何飲む?紅茶でいい?」 そんな自分を差し置いて、女はダイニングキッチンへと入っていく。 一人暮らしだとするなら、随分と広い部屋だった。 「なんであんな往来で異能を使った?」 「えー?誰も気にしないよあんなの。ってゆーか、そーじはそんな事が聞きたいの?」

2013-06-08 12:36:42
高嗣創史 @inoust1

小首をかしげるその姿は実に不思議そうで、自分の馬鹿さを嘲笑われているような錯覚を覚える。 一度、うつむいて隠すように一息つくと、顔を上げた。 「生きてたのか?」 「死んでたらこうやってデートできないじゃん」 「デート?」 「そ、お家デート」

2013-06-08 12:37:17
高嗣創史 @inoust1

話がどうも噛み合わない感じがなんだか懐かしかった。そんな場合ではないというのに、この女相手にどう話を持っていこうと、無駄な事を知っていた。 何度も会ったのだ。 無駄話で馬鹿な事をすると思いながらも、話しかけるのをやめることはできなかった。

2013-06-08 12:37:57
高嗣創史 @inoust1

「そういや、お前今、」「彼氏はいないよ。っていうか、死んだよ。そーじが殺したんでしょ?そう聞いたけど」「……あー」そういえば、グループのリーダーらしく男と付き合ってたんだったか。明るくて何を考えているか分からない所も相変わらずで、そんなことをさらりという所も変わらない。

2013-06-08 12:38:38
高嗣創史 @inoust1

「変わんねーな」「そーじは変わったね」「褒めてんのか?」「ううん」 ワンテンポおいて、稜は言う。「弱くなった。前のそーじの方が好きだな」ため息をつく。喧嘩は強かったが異能が絡むと弱いのは知ってる。 「そーいう事じゃないんだけどな」 不満そうにそう言った意味はわからなかった。

2013-06-08 12:39:55
高嗣創史 @inoust1

「で。何の用だよ。っつーか、お前異能持ちで俺の昔の関係者なら、殺さないといけない決まりなんだけど」「え?」だるさを隠さずに髪をかき上げながらそう言うと、稜は驚いたようだった。「?なんだよ」「……そっか。変わったのって相手に寄るんだね」

2013-06-08 12:40:16
高嗣創史 @inoust1

寂そうな声音。感情に関しては分かりやすいのが、稜の特徴だった。隠しもしない。裏もない。付き合っていて随分と楽だったのを覚えている。自分の無感情に苛立ちもしない。むしろそこが気に入られていたようだった。だが。

2013-06-08 12:40:29
高嗣創史 @inoust1

「私ねー。そーじが生きてるって聞いて嬉しかったな」「俺はお前が生きてて死ぬほどびっくりした」「振り向いた時のそーじの顔面白かったよ」「しょうがねーだろ。さっきから聞いた聞いた言ってるけど、誰に聞いたんだよ」「『おじさん』だよ」

2013-06-08 12:40:49
高嗣創史 @inoust1

全身から血の気がひいた。

2013-06-08 12:40:59
高嗣創史 @inoust1

「お、まえ……」「あはは、これでも過激派なんだよ?私」楽しげに笑う彼女の態度に変化はない。顔色が変わった自分を目にしようと、ペースが崩れない。この感じは似ている。『あの男』に。 「私あの時あの場所にいたんだよね。本当なら死んでてもおかしくなかったけど」

2013-06-08 12:43:23
高嗣創史 @inoust1

あの時のそーじ凄かったよ。敵も味方もお構いなしに串刺しなんだもん。しかも、相手の血液を触りもしないで体内からざくって」「……ちょっと、待て。俺が?」嫌な汗がにじみ出る。暗闇と赤い色。自分の血でそまった地面が脳裏で揺れる。「そうだよ。触らないで相手の血液を操るって、凄い事なんだよ」

2013-06-08 12:44:17
高嗣創史 @inoust1

「そんな事をきいてんじゃねえよ!」思わず怒鳴ると、稜はきょとんとした。 「どうしたの?そーじ、仲間がどんな目にあっても顔色ひとつ変えなかったのに」稜には視線を向けられずに苛々と周囲を見渡した。青と水色で統一された綺麗な部屋の様子も苛立つ。敵意や悪意があるならまだ対応できるのに。

2013-06-08 12:45:31
高嗣創史 @inoust1

「俺が、全員?聞いてない。そんな話。触らないでどうのってのも」「それはそうだよー。あれって異能が暴走した結果でしょ?そんな危ない能力もってるなんて話、同僚にもそーじ自身にも知らせられないよ。」「……」「あ、創史今、本当に自分がやったんじゃないか?って思ったでしょ」

2013-06-08 12:46:58
高嗣創史 @inoust1

あの夜の奇妙にぶれた揺れる視界に、血の色が被る。覚えてない。 それよりも妙に動悸がする。異能の暴走?限定的な武器しか作れず、形状を保つのに揺らぎがあるだけかと思っていた。それが、見境なく串刺し?俺が?カチャンと音がしたのにはっと顔を上げると、稜がカウンターに紅茶をおいた所だった

2013-06-08 12:47:33
高嗣創史 @inoust1

「玄関先に立ってないで、こっちにおいでよ。そーじが知らないそーじの事教えてあげるから」「それは、その『おじさん』の情報か?」「んー、それはどうでもいい話になっちゃうな。前のそーじなら気にもしなかったよ」 足を踏み出す。甘い香りのする部屋だった。横に座ると、稜は満足そうに笑う。

2013-06-08 12:48:22
高嗣創史 @inoust1

「そーじと話せるのやっぱり嬉しいな。そーじ死にかけてたし、実際死んじゃったって話だったから」「そのあたりの話は俺もよくしらねーよ」そういうと、稜は考え込むようにする。「『おじさん』が言うには、そーじが生きてるのって私が居るかららしいよ?」「は?」「だったらなんか嬉しいな。それ」

2013-06-08 12:51:17
高嗣創史 @inoust1

「私、結構大きい組織に所属してて、純血の空間移動の持ち主だから重宝されてるんだよね。それでそーじから私、そして組織をひっぱりだそうって話なんだって」「信じられるか、そんなの」「だとしたらまんまと私ひっかかっちゃったね」とんでもないことを平然と言う。

2013-06-08 12:51:54
高嗣創史 @inoust1

笑う。 楽しそうに笑う。 自分が何を言っても、いつも楽しそうに笑っていたのを、あの時は別段不思議に思わなかった。今は、それが『おかしい』ことが分かる。何故笑っているのか『わからない』。 そしてふと、笑わない無表情の彼女の事を思い出した。(彼女の方がいい)

2013-06-08 12:52:23
高嗣創史 @inoust1

「そーじ、もうこっちにおいでよ。私のせいだけど、もどったら殺されちゃうかもよ?だって過激派とこんなに楽しくおしゃべりしてるんだもん。『おじさん』もそーじの事そんなに嫌いじゃないみたいだったし、おいでよ」「何言って、」「……そーじ、戻るの怖いでしょ?」

2013-06-08 17:00:23
高嗣創史 @inoust1

怖い。の言葉に少し頭が冷えた。それは散々言われたことだ。「怖くはねーよ。殺されるって言われても、もともと死んでるようなもんだし、いつ死んでもおかしくないし」「違う違う。そーじが怖いのは、その暴走で仲間を殺しちゃうかもしれないってことでしょ?相変わらずそういうのわからないんだね」

2013-06-08 17:02:27