【24】「一体何事ですの、騒がしい…」かちかち山の麓、戦場となっている場所、新たに1匹のケモノが現れた。
2010-09-18 22:05:03【25】「主が帰ってきたぞー!?」「汚ねぇ、ってか、臭えぞ下水でも潜ってたのか!?」「うっわ、援軍だけど役に立つかどうか…」皆が歓声とも奇声とも取れる叫びを上げる中、「本当に、騒がしいですわね…」――狸だった。
2010-09-18 22:06:52【26】「おい狸、見ての通りだ。この変な緑ゲル野郎にこの山が襲われてんだよ。手を貸してくれ!」狐が叫ぶ。「…まぁ、仕方ありませんわね。私は一応、この山の主ですから」そう宣言し、爪を振りかぶった。その背後。――音が、響いた。
2010-09-18 22:08:54【27】その音に、ケモノ達は皆、一様に身体を固くした。聞き覚えのある音だった。その音はどんどん大きくなる。そして、それが現れた。――真っ赤なF1カー。爆音を轟かせ、一直線に。
2010-09-18 22:12:18【28】「…ん?何か轢いたか…?」運転席のテリアは疑問詞を吐き、だが、「まぁ、どうでも良いか。…それより、待ち合わせの場所はどこなんだ…」
2010-09-18 22:15:03【29】走り去った真っ赤な車を、ケモノ達は歓声を上げて見送った。道路一杯に広がっていたゲルは飛び散り、ほとんど動く気配もなくなっていた。ついでにこの山の主の姿もどこかに消えていたが、気にするモノはどこにも居なかった。
2010-09-18 22:17:25【30】ソウジョウは、風薬を抱き締めて離そうとしないヒヨコを前に、怒鳴っていた。「こんの馬鹿者めが!オマエが犠牲になる必要なんかないんだ!それ以外の方法を俺らが探してるってのに、何で、オマエは…っ!」
2010-09-18 22:22:51【31】「何で、オマエは、何で…っ!」言葉に詰まってそれより先を言えなくなったソウジョウの後を、第1小隊長のくれないが継いだ。「俺達が、絶対に何とかする!そう決めたんだ!だから!だから、絶対に大丈夫だ!中隊長の意志を、想いを無駄になんかしないでくれ!」
2010-09-18 22:25:53【32】そこに口を挟むのは第2小隊長のタスラムで、「そうだなぁ。あの竜巻ん中に突っ込むなんてのはちょっと勘弁とは思うが、まぁそれが俺達の仕事だ。任務だからなぁ。だから、ここは一つ頼むわ」力強い笑みを見せた。
2010-09-18 22:27:39【33】そして第3小隊長のベクトルが続く。「さて、ここでこのお方に御登場頂きましょうか。あちらも、未だ途上で未熟とは言え、『竜』です。ならば、こちらとしても対等な存在が必要でしょう?」
2010-09-18 22:31:23【34】いつの間にその場に居たのか。ソウジョウのくれないも、誰もが気付かなかった。「あぁ、どうも。人の世では虹蛇』だなどと呼ばれていて、『竜』だなどと名乗るのも、呼ばれるのもおこがましい程度の存在ですが」ワムナビ、と名乗る青年は、そう自己紹介をした。
2010-09-18 22:35:45【35】ワムナビは沈黙の輪の中で言葉を紡ぐ。「さて問題は、どうやってあの『竜巻』の中心部まで行くか、ですが…」皆が固唾を呑んで続きを待つ最中、声を掛けてくる者があった。威勢の良いその声は、「おいおい何だ何だ、このシリアス雰囲気はよぉ。…俺の出番かぁ!?」
2010-09-18 22:40:58【37】「そんなのは絶対在り得ないのん。行ったところで、吹き飛ばされてまた自転車壊れるのがオチに決まってるのん」自転車の荷台に座ったパスタ猫耳が嘲笑し、「んなの、やってみなきゃわかんねーだろが!」自転車乗りが騒ぎ出す。そして、「も、もちこーぅ…?」前の籠から、不安げな声がした。
2010-09-18 22:44:51【38】「おぉ、忘れてた、大丈夫か?」籠に収まっていたのは、緑と青と黒と白とが混ざり合った、何だか凄いことになっているお餅だった。若干、干からびて居る様にも見えた。「さっきまで煎餅になってたもんな…。すまねぇ、誰か水分とか持ってねぇか?」
2010-09-18 22:47:06【39】「あ、これなんかどうかな?すぐそこの薬屋で大安売りしててさ」その声にいち早く反応したのは、レールだった。差し出されたのは1.5Lのペットボトル。「お、3ツ矢サイダーか。悪くねぇな、さんきゅ」礼とともに受け取り、自転車乗りは籠の上でぶちまけた。「も、もちこーぅ…」
2010-09-18 22:49:36【40】「よっし、これでちったぁ回復しただろ。…行くぞ!」自転車乗りがペダルを漕ぎ出そうとする直前、「心中する気はないのん。私が降りれば軽くなるのん。――行け」パスタ猫耳はひらりと自転車から飛び降りて、自転車を見送った。そして、皆に告げた。
2010-09-18 22:52:53【41】「ま、自転車馬鹿は痛い目見るといいのん。で、話は粗方聞かせて貰ったのん。で、ここはやはり人海戦術だと思いますのん」言うが早いか、パスタ猫耳は懐から携帯電話らしき何かを取り出して、操作を始めた。
2010-09-18 22:54:31【42】「――さぁ、行くよみんな。集合場所は、この時間線上に居るみんなが、私達を見ているみんなが見ている、みんなが見えている、あの場所」
2010-09-18 22:56:30【43】「――見えている人は、応答を。どんな言葉でも良いから。アナタの言葉を。――応えて、答えて、こたえて欲しい。この呟きに、リプライを。――お願い」
2010-09-18 22:58:05