ヨウカイスレイヤー短編集「シュート・ザ・バラージ！！」より「ガーストリィ・アンジュレイション」

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ZBR中毒の魔法使いによってある程度の自由が約束されたため、彼女は館内を思いのままに動くことができるようになった。それでも、数百年ぶりに封印の解かれた部屋へ流れ込んだ風は、彼女フランドール・スカーレットの本質を変えるほどの力はなかった。1

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彼女は自分の意志で外に出掛けていくなどということはせず、めったに来ない来客があった時のみ館から外に出る程度である。それゆえゲンソウキョウの住民のほとんどが彼女の存在さえ知らない。実際彼女は刑務所の独房めいた自分の部屋をたいそう気に入っていた。2

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短編集「シュート・ザ・バラージ！！」より「ガーストリィ・アンジュレイション」(3)

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「……アンタの新聞に載せる文章にしてはちょっと硬すぎないか？」「そうでしょうか？」紅魔館、時計台上空に一人の人間と一人のヨウカイあり。タカギ・マリサとアヤ・シャメイマルである。彼女らはもはやただの飾りとなっている門と門番の上を飛び越え、簡単に敷地内へと侵入していた。4

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「もっとこうさ……なんだ、うまく言えないンだがよ。なんかいつもより面白くないというかだな……」「言いたいことは分かります。ですがなにせ情報源が少ない故、どうしても面白みに欠ける情報しか手元にないものでして」「それで道案内しろってか。全く、今日は図書館にしか用はないッてのに」5

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「いいじゃないですか」アヤは含みのある笑みを作る。「それに面白みがどうあれ、一面を飾る写真は新聞には不可欠です」「……依頼料は？」「ZBRガム1箱で」「オーケイだ、乗ったぜ」6

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窓のほとんど無い屋敷の隅にひっそりと穿たれた物理的窓から、二者はしめやかに内部へと侵入する。マリサが掘ったこの穴は地下の図書館と直結しており、館を仕切るヨウカイの、いや、ヨウカイじみた人間のジツによって迷路と化した館内を彷徨う必要もない。8

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穴から地下に降りると、マリサは正面の壁を捲り本棚の隙間に滑り込んだ。アヤが続く。「なるほど、カケジクの裏に隠し通路とは。考えたものですな」「魔法で隠すと逆にバレかねないからな。ブッダの知恵だぜ」「今後私も使わせていただきたいものです」「取材するンなら正面から入れよな」9

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マリサとアヤは館内に仕掛けられた対泥棒用トラップを躱し、必要に応じて見張りのコアクマ達に後ろから口封じを仕掛けながら進んだ。やがてカビて緑みがかった扉の前に到着する。「ここからは自分で行きな。右側の階段を下りた先の扉の向こうがアンタの目的地だぜ」マリサは振り返って言った。10

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「おや、案内はここまでですか。少し不親切では？」「オイオイ、ブッダ！私まで巻き込む気か？」アヤの言葉にマリサはオーバーなリアクションで答える。「その辺の野良ヨウカイとじゃれ合うのとは違うんだ」心臓に悪いぜ。マリサは心の中で悪態をついた。11

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本泥棒と別れたアヤは、図書館から無断で持ち出した吸血鬼関連の本を読みながら、教えられた道順を辿る。階段を降り、頑丈な結界が施されていたであろう数十枚もの破れたオフダが張られた扉を開いた。生臭い臭いが流れ込んでくる。扉の先には、長く続く螺旋階段が下方向に向かって伸びている。12

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壁面や階段には剥がされて間もないと見られるステッカーの剥がし跡が多数見受けられ、その上から大きく「平気」「時間は静止する」「クロスファイア」などといった文字が血のようなもので書かれている。13

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アヤは最深部に降り立つと、「イヤーッ！」眼前の鋼鉄製フスマを素早く開いた。その先は短い通路になっており、もう一つ鋼鉄製のフスマ。「イヤーッ！」これも素早く開き、アヤはその先へ足を踏み入れる。だが、セキュリティが簡略化されたその先に彼女の目的であるヨウカイはいなかった。14

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「おや？留守である可能性はゼロだと聞いていたのですが……」アヤはダンマク警戒しながらサップーケイな部屋を軽く見渡す。アドバンスド・チェスの駒や白い皿が散乱し、床や壁面に掘られている魔方陣めいたものが幾何学模様を作る。部屋の四隅にカラフルなアクセサリーの意匠が見られる。15

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「これは一体」「イヤーッ！」KABOOM！突然腰に吊られていたテング・オメーンが爆発四散！それを合図に部屋の四隅から静かにダンマクが展開した！弾がアヤの立つ部屋の中心を飲み込むように波紋めいて広がるが、不意に爆散したテング・オメーンに気を取られている彼女は気付いていない！16

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しかし彼女は自らの身に迫る危険を感知出来ない程度のサンシタでは当然ない！「イヤーッ！」恐ろしい波動を感じたアヤはオメーンから思考を切り離し、右腕を大きく振る。すると彼女を中心に竜巻が発生、ダンマクの波紋を乱す！さらにアヤは肩にかけられたカメラを手に取り、そのシャッターを切る！17

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すると、おお、ゴウランガ！彼女を飲み込まんとしていた波紋ダンマクは空間を切り取られたかのように消滅したではないか！これぞまさしくアヤの武器、オーバーテクノロジーカメラの真髄！空間上に存在するダンマクを記録し消滅させるというハイ・テックな取材道具である！18

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アヤの目線の先、部屋の片隅でカラフルなアクセサリーがゆらりと動き、アクセサリー……羽を身に持つコウモリが姿を見せた。「今日はアナタが遊んでくれるのね？嬉しいわ」「なかなか良いアンブッシュです。とてもずっと一人で過ごしてきたとは思えない程」アヤは拍手しながら答える。19

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「それは、当然」同じ声が後方から。「私は一人で四人だから」右隅から。「私は四人で一人だから？」左隅から。「私は独りだから。当然よ」四つの声は一箇所に集まり、一人の少女の形を作り出す。「あは。アナタはアヤ＝サンだったっけ？ドーモ。フランドール・スカーレットです」20

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「ふむ……、覚えてくれているとは実に光栄。ドーモ、フランドール＝サン。アヤ・シャメイマルです」アヤもアイサツを返す。そしてカラテでは無くカメラを構えた。フィルムが巻き切れていないためすぐに再使用することは出来ぬが、十分牽制になる。21

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「もっと凶暴な方だと聞いていましたが、どうやら見も蓋もないただの噂だったようですね」「当たり前よ。こんなイタイケな子供を捕まえて言う言葉ではないわ」フランドールはやれやれといった風に掌を振った。「では確かめさせてもらいましょうか」アヤがフィルムを巻き切る。22

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「手加減して遊んであげますよ」閉鎖された部屋に風が渦巻く。「いいの？ワタシのジツはゲンソウキョウを数百兆回更地に出来るのよ？」フランドールも挑発を返す。「ハ、子供じみた発想ですな」「たった495年しか生きてない吸血鬼なんて、ただの子供でしかないわ！」「来なさい」「イヤーッ！」23

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フランドールは十字架じみたダンマクを投擲！クルクルと回転しながらアヤめがけ飛来する！カッ！高下駄が床を鳴らす音がした瞬間、アヤの姿が霞んだ。高速回転する十字架ダンマクの間隙を、あたかも回転ドアを通るがごとく通過！そしてシャッターを切る！十字架ダンマクは消滅！ワザマエ！24

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「イヤーッ！」フランドールはタタミ3枚分の距離にまで急接近してきた敵めがけ再度十字架ダンマクを展開！先程よりも回転速度が増し、躱しにくさと殺傷力が上昇！「イヤーッ！」アヤは背面飛行で素早く後退し、ヒット・アンド・アウェイ戦法をとることでカメラのフィルムを巻く時間を稼ぐ。25