私のお葬式

鯖桜(@sv_sakura)の一周年企画です。6月15日から始めて、7月14日に終わりました。拙いものですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
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鯖桜 @sv_sakura

(先ほどの女が零した涙の上に、一滴二滴と涙が重なる。ごめんねと繰り返す男の顔面の左半分は奇妙に引きつっていた。体内に蟲を住まわせている証拠だ。ボコボコと蠢く肌に手を沿わせ、顔を覗き込み)もういいよ。おじさん。もう間桐から逃げていいよ。 #私のお葬式

2013-06-16 23:12:39
鯖桜 @sv_sakura

(雁夜おじさんが嗚咽を漏らし、左半身を引きずりながら部屋を後にした。その後、ちらほらと担任教師や何となく見覚えのある教師が私の写真に向かって手を合わせ、そそくさと帰っていった。お爺さまが視界の端で呵々と笑った。殺したはずなのに、生きていた) #私のお葬式

2013-06-23 22:03:58
鯖桜 @sv_sakura

「桜よ。お前ワシをすっかり殺した気でおったな。カッカッカ、最後の詰めが甘いのは父親譲りよのう。残念ながらまだピンピンしておる。あと三百年は生きられそうじゃ」 #私のお葬式

2013-06-23 22:08:03
鯖桜 @sv_sakura

(女はかつて自分だったものの遺影を嘲笑う化け物をぼんやりと、楽しそうだなあと思いながら眺めていた。そこには間桐桜も自分もいないのに、ただの写真相手によく楽しめるものだ。そろそろ目的地に行こうと考えた所で大きな笑い声が、ぴたりと止まり) #私のお葬式

2013-06-23 22:11:26
鯖桜 @sv_sakura

(ゆっくりと近づいてくる足音に、老人はそっと耳を澄まし)「喜べ、桜よ。お前の姉が来たようじゃぞ。積もり積もる話もあるだろうて。なんせ十年会っておらんのだからなぁ。おお!お前にはもう語る口も涙を流す目も無かったか!カッカッカ」 #私のお葬式

2013-06-23 22:14:11
鯖桜 @sv_sakura

(老人は蟲の大群となって窓から空へ逃げ、その少し後に長い黒髪をツーサイドアップにした少女が静かに部屋に入る。いつもの赤い服ではなく、喪に服した黒を身に纏った少女はどこか窶れたように見え) #私のお葬式

2013-06-23 22:17:58
鯖桜 @sv_sakura

「間桐さん、お久しぶりね。最後にあなたと話したのはいつだったかしら。昨日?一昨日?それともずっとずっと昔?……なんだかね、私、もう長い間あなたに会っていないような気がするの。不思議ね。あなたを殺したのは私なのに」 #私のお葬式

2013-06-23 22:24:19
鯖桜 @sv_sakura

「そうそう、士郎はね、寝込んじゃったから来てないわ。這ってでも行きたいって言ってたけど、とてもじゃないけど起き上がれる状態じゃなかった。当然ね。魔術師見習い程度の人間が、あんな大事……体がついていかないに決まってるわ。残念だろうけど我慢して」 #私のお葬式

2013-06-23 22:27:35
鯖桜 @sv_sakura

(少女はそこまで一気に話した。息をすれば死ぬとでも言わんばかりに呼吸を押し潰し、口元には最初から最後まで自嘲的な笑みを浮かべていた。そして大きく息を吸い、弱々しく震える溜め息を吐き) #私のお葬式

2013-06-23 22:31:09
鯖桜 @sv_sakura

「……あのね、桜。あなた、幸せだった?私はあなたのこと、忘れた日なんてなかった。私が耐えた分だけ桜は幸せになれるって信じて生きてきたわ。いつか幸せになった桜と再会して、リボンの貸しを返してもらって、一緒にお茶をするのが夢だった。叶うわけないのに、馬鹿みたいでしょ」 #私のお葬式

2013-06-23 22:36:29
鯖桜 @sv_sakura

満足なさいましたか、お爺さま(実体化し、空中に呼びかけるも返事はなく、おそらく飽きてどこかへ行ったのだろうと予想し) #私のお葬式

2013-07-14 03:30:01
鯖桜 @sv_sakura

それじゃあ、そろそろですね。聖杯の内側で泣いてる間桐桜に止めを刺しに行かないと(霊体化し、向かうはあの懐かしい柳洞寺の霊脈。今ならばまだ脆いあの場所から聖杯の中へ入ることができると感じていた。だってあれは自分自身なのだから) #私のお葬式

2013-07-14 03:30:28
鯖桜 @sv_sakura

(底無しの闇の中で、実の姉と愛する人に殺された化け物が泣いている。あちこちがまるで地獄の釜のように沸き立ち、弾けた泡から怨嗟の声が溢れる。ここは聖杯の内側。この世全ての悪を育む揺り籠) #私のお葬式

2013-07-14 03:31:02
鯖桜 @sv_sakura

「……どうして?私は強くなったのに。もうお爺さまにも兄さんにも虐められない、姉さんにだって負けない、誰にも虐げられることもない、これから私は今までの人生に仕返しをして、やっと幸せになれるって思ってたのに……っ」 #私のお葬式

2013-07-14 03:31:27
鯖桜 @sv_sakura

「どうしていつも私なの!遠坂から追い出されたのも私!手に負えない体質を持って生まれたのも私!間桐で虐められたのも私!ずっとずっと苦しい思いをしてきたのも私!部活でも、教室でも……!どうして、いつも、私だけ、幸せになれないの?」 #私のお葬式

2013-07-14 03:31:49
鯖桜 @sv_sakura

(周囲の悪意に煽られるようにして、化け物はどうしてを繰り返す。理不尽な世界への尽きることのない疑問。化け物が憎しみを吐き出す度に、呪いの泥がぼこぼこと泡立った) #私のお葬式

2013-07-14 03:32:11
鯖桜 @sv_sakura

(そんな化け物の肩に血を感じさせない手がそっと触れる。泣き腫らした顔を上げると、まるで鏡を覗き込んだように瓜二つのサーヴァントがいた) #私のお葬式

2013-07-14 03:32:40
鯖桜 @sv_sakura

「わた、し……?あは、ははは、私とうとう、幻まで見てる。ここには私ひとりぼっちなのに、ふふふ」(サーヴァントは笑う化け物の体を抱きしめる。ひんやりとした死人の体温と、染み付いた鉄のにおいに微笑み) #私のお葬式

2013-07-14 03:33:08
鯖桜 @sv_sakura

可哀想に。結局報われないまま壊れてしまったんですね。あなたって、本当に可哀想。同情します(にっこりと笑いかけ) #私のお葬式

2013-07-14 03:33:32
鯖桜 @sv_sakura

ねぇ、今どんな気分ですか?大好きな先輩を姉さんに盗られて、どんな気分?悔しい?悲しい?それとも惨めで堪らない? #私のお葬式

2013-07-14 03:33:52
鯖桜 @sv_sakura

あなたっていつもそう。生まれた時から欲しいものは全部他の人に盗られちゃって。ああ、元からあなたは姉さんのスペアとして生まれたんですもんね。ふふふ、そうなるのも当然でした。 #私のお葬式

2013-07-14 03:34:19
鯖桜 @sv_sakura

「ばっ、馬鹿にしないでっ!私はもう聖杯なんですよ?あなたが幻覚だかなんだか知らないけれど、あなた一人をどうにかするくらい、簡単なんだから!」(一気に泥の嵩が増し) #私のお葬式

2013-07-14 03:34:46
鯖桜 @sv_sakura

ええ、知ってますよ。見ればわかると思いますけど、私もあなたと同じですから。私はあなたの未来なんです。ねぇ、幸せになれる方法、教えてあげましょうか。 #私のお葬式

2013-07-14 03:35:19
鯖桜 @sv_sakura

「いらない!聞きたくない!……もう期待して裏切られるのは嫌。私はここでずっと聖杯として生きるの。それでいい。それでいいから、早く消えてください…!」(言葉のすぐ後に、泥がまるで高い波のように襲いかかり) #私のお葬式

2013-07-14 03:35:41
鯖桜 @sv_sakura

(それに臆することなく両腕を伸ばし、耳を塞ぐ化け物の首にするりと回し、耳元で口を開き)実行してもしなくてもいいから、聞くだけ聞いてください。それに、あなたが幸せを願ってくれないと、未来の私が消えちゃいますから。 #私のお葬式

2013-07-14 03:36:07