私のお葬式

鯖桜(@sv_sakura)の一周年企画です。6月15日から始めて、7月14日に終わりました。拙いものですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
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鯖桜 @sv_sakura

第四次聖杯戦争。血で血を洗うような欲望に塗れた痛ましい争奪戦。明日にもマスターの誰かを殺そうと、誰もが息巻いていた夜でした。 #私のお葬式

2013-06-16 21:00:38
鯖桜 @sv_sakura

そんな夜のことです。天が人に罰を下すように、聖杯は突然現れ、真っ赤な炎を地上に注ぎました。冬木は大変な火事になりました。死者が沢山出ました。けれども、聖杯戦争に参加したマスターは一人も死にませんでした。 #私のお葬式

2013-06-16 21:01:36
鯖桜 @sv_sakura

更に言えば、間桐からはマスターが出ませんでした。それに見合う人がいなかったからです。私の叔父は聖杯戦争開始の日に間に合わず、私は勿論幼い子供なので、叔父と二人で蟲蔵に転がっていました。 #私のお葬式

2013-06-16 21:04:55
鯖桜 @sv_sakura

ですから、私が生きた世界では死ぬべき人も生きるべき人も皆平等に生存していました。彼らを愛する人には天国のように優しい世界だったかもしれません。けれど、誰も愛さない私には地獄のような世界でした。 #私のお葬式

2013-06-16 21:07:10
鯖桜 @sv_sakura

大きなお屋敷に住む二人の美しい魔術師は、その後十年に渡って私の心を苛み続けました。硝子の破片が刺さったまま新しい皮膚が出来てしまった、そんな歪みを抱えて、私は間桐の子供として育ちました。 #私のお葬式

2013-06-16 21:08:51
鯖桜 @sv_sakura

叔父は優しい人でした。優しいフリが上手な人でした。本当は私を通して私の産みの親を見て、私を助ければいつか彼女が自分の元に走ってくるかもしれないという、淡い希望を捨てきれない馬鹿な人でした。それでも暖かい瞳をしていました。 #私のお葬式

2013-06-16 21:11:57
鯖桜 @sv_sakura

養父は朝から夜までお酒に溺れていました。いつも自分の部屋で何かに怯えていました。化け物の家に丸腰で暮らしているのですから、無理もないでしょう。酔っていない時は私の頭をそっと撫でて、飴を一つくれました。そんなことは本当に稀なことでしたが。 #私のお葬式

2013-06-16 21:15:01
鯖桜 @sv_sakura

幼い頃の兄は知りません。どこか遠くの国に留学していた、と聞きました。写真を見せて貰ったとき、養父にそっくりだと思ったことは覚えています。帰国してからは、私をとても酷く扱いました。何度も何度も、私は夢の中で兄さんを殺しました。 #私のお葬式

2013-06-16 21:17:53
鯖桜 @sv_sakura

お爺さまは立派な人です。もう何百年と生きているすごい方です。ですから間桐の人間は無条件でお爺さまを恐れて敬わなければいけません。幼い頃の私はそれを信じて、お爺さまの言いつけをしっかり守っていました。 #私のお葬式

2013-06-16 21:20:57
鯖桜 @sv_sakura

学校は楽しくありませんでした。みんな私が不幸なのに、そんなこと知らない顔をして幸せそうにしているからです。私は何時までも暗い所にいるのに、みんなは平然と明るい道を歩く。早く夜になって、ずっと夜のまま朝が来なければいいのにって思ってました。 #私のお葬式

2013-06-16 21:23:21
鯖桜 @sv_sakura

シャワーを浴びて、毒入りの朝ご飯を食べて、学校に行って、お弁当を一人で食べて、帰宅して、蟲蔵に入ったら食欲も湧かなくて、そのまま眠って。そんな日々を三年間続けました。今からじゃ考えられないくらい細い手足をしていました。 #私のお葬式

2013-06-16 21:26:01
鯖桜 @sv_sakura

進学して、先輩に出会って、楽しかった。先輩の側は安心できた。先輩のお家は暖かい匂いがした。ようやく私も人並みの幸せを味わえるんだって、思ってました。 #私のお葬式

2013-06-16 21:28:02
鯖桜 @sv_sakura

でも、私、忘れてたんです。ずっと閉じた世界にいたからすっかり忘れてたんです。大きなお屋敷に住む魔術師のこと。遠坂先輩もきっと衛宮先輩のことが好きでした。美人ってずるい。自分に自信があるってずるい。……結局、私は嫉妬と憎しみに塗れた化け物に成り果てました。 #私のお葬式

2013-06-16 21:30:54
鯖桜 @sv_sakura

私の中には第四次聖杯戦争の時の聖杯の欠片がありました。私が育てた悪い子の部分が、それを育む養分になりました。私は兄さんを殺して、お爺さまを殺して、夢じゃないんです、夢じゃなかったんです、本当に殺して、そうして、私は、姉さんと先輩に壊されました。 #私のお葬式

2013-06-16 21:34:37
鯖桜 @sv_sakura

(簡素な式場の門をくぐる。いたって普通の通夜会場。死んだはずの兄がぶすっとした顔で立つのを見かけて、目を見開く。側に寄り、耳を澄ませるとキィと鳴いたのを聞き)……なんだ、お爺さまの作ったお人形。 #私のお葬式

2013-06-16 22:24:45
鯖桜 @sv_sakura

(妹の葬儀に何故兄が来ないのか、という疑問を避けるために用意されたであろうそれは、とても精巧に作られていて、ちょっとやそっとでは蟲の塊だとは気づかれないだろう。まじまじと観察していると、向こうから部活の先輩の集団が来るのを見つけ、すっと霊体化し) #私のお葬式

2013-06-16 22:29:15
鯖桜 @sv_sakura

「あの子、残念だったね」「猟奇殺人の被害者だって?」「ま、まだ決まった訳じゃないんですから」「でもさ、だって……決まりだろ。血の海の中にほんの一部の肉片だけが残ってたって。しかも心臓の……」「いい加減にしな!早く行くよ」 #私のお葬式

2013-06-16 22:33:51
鯖桜 @sv_sakura

そう、私、そういうことになってたんだ。(聞こえてくる会話にどこか納得がいったように、ぽつりと呟き) #私のお葬式

2013-06-16 22:35:05
鯖桜 @sv_sakura

(親族も少なく、友達も決して多くなかったため、式場の中はすかすかだった。だから一層泣き崩れる人の声がはっきり聞こえた。さくら、さくら、と悲痛な声を振り絞って泣きじゃくる、空っぽの棺の側に座り込む女の方へ目が行き) #私のお葬式

2013-06-16 22:39:06
鯖桜 @sv_sakura

(ああ、この人は知っている。黒い髪が豊かな人。いつも優しく微笑んでいた。私があの家を出る日も変わらず微笑んでいたあの人が、今こうして泣いている。私はこの人を知っている)……おかあさん。(口にしたものの、まるで実感が無く、首を傾げ)私って、こんなに薄情だったっけ。 #私のお葬式

2013-06-16 22:42:55
鯖桜 @sv_sakura

「さくら、桜、さくらぁ……っ、どうして死んでしまったの。あなたは間桐で、しあ、幸せにっ、なるはずだったのに、どうして、桜、ああ、わたしの」「……葵。それ以上はいけないよ」(彼女の夫が肩に手を置き、言葉を遮る。棺に落ちた涙をなぞればそれは既に冷たく) #私のお葬式

2013-06-16 22:50:24
鯖桜 @sv_sakura

私の、何。言ってくれなきゃ、わかりませんよ、お母さん。(震える肩を夫に抱かれ、さめざめと泣く女の後ろから声をかけるも、それは届かず) #私のお葬式

2013-06-16 22:52:52
鯖桜 @sv_sakura

(睦まじい夫婦と入れ替わるようにして、一人の男が棺の側に立つ。顔をフードで隠し、左半身を引き摺るように歩いていた。桜ちゃん、と掠れた声がする。先程の女の泣き具合に近寄りがたいものを感じたのか、部屋の中は無人で) #私のお葬式

2013-06-16 22:56:19
鯖桜 @sv_sakura

「……桜ちゃん、ごめんね。おじさん、また間に合わなかったよ。君の味方になるって言って、結局何もしてあげられなかった。苦しかっただろう。痛かっただろう。どうか天国ではゆっくり眠ってて」 #私のお葬式

2013-06-16 23:02:37
鯖桜 @sv_sakura

(犯人には絶対に償ってもらうから、と意気込む男を見て、この人は本当に何も知らないんだと思った。聖杯が一度完成したことは確かにしばらくは極秘扱いにしたくもなるだろう。でも、仮にも身内であるのに知らないなんて)雁夜おじさん、可哀想。……ごめんね。(謝らなければと感じた) #私のお葬式

2013-06-16 23:08:22