ふみんさん作　猫と恩返し

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

ああ、ばあちゃんはテレビの番組表から録画が出来ない事、すっかり忘れていた。ついこの間教えた時に「これで見たい番組選べるね」って言ってたから安心していた自分が恨めしい。これも何度目かのやりとりだったじゃないか、大馬鹿め。 心内で自分を罵りながら下宿へと急ぐ #猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

猫をモチーフにした映画が今日テレビでやるんですよ、と教えてくれたのはゼミで良く話す女生徒だった。 先生猫好きなんですよねと教えてくれた彼女には感謝を。けれどそのレポートの添削に付き合っていて遅くなったことにはちょっとだけ恨みの気持ちもまあないわけではない。#猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

その場でばあちゃんに電話をしてみたが、結局困惑させてしまうだけだったから、諦めた。 ネクタイを揺らして走りながら、腕時計に視線を投げる。 21時30分。まだ始まったばかりなのだから、今からゆっくり見ればなんら問題はないだろう。最初の30分が若干勿体ないが。#猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

ガラリと下宿のガラス戸を開けると、奥からばあちゃんの「おかえりなさい、火村さん」と言う声が聞こえてくる。ただいまと返しながらいつもは一度顔を覗かせるのも後に回して、自室への階段を上った。 途中でじゃれついてくるウリや小次郎を両手に抱えて、足で扉を開ける。#猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

「よお、センセ。若干遅いお帰りやったやないか」 ――――先客がいた。 「なんだよ、来るなんて聞いてねえぞ、アリス」 「ご挨拶やなー。お前のピンチやっていうから、駆けつけてやったのに」 笑いながら缶ビールを掲げるアリスの言葉に、はあ？と聞く代わりに眉を顰める。#猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

「センセも可愛いとこあるもんやな、コレ、見たいからって走って帰ってきたんやろ？」 汗出とるで、と言いながら飲むかと誘うようにビニール袋から缶ビールをひとつ取り出して手渡してくる。 「…コレって…ああ」 ついているテレビを見ると二足歩行で歩く猫が映っていた。#猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

「…わざわざ俺のトコに来て見る理由があるのかよ、有栖川先生。よっぽど暇なんだな」 嫌味を吐きながら缶ビールを受け取り、胡坐を掻いてその場に腰を下ろすと、小次郎を膝の上に座らせてちょっと大人しくしてろな、と顔を向けて話しかけ、そのままアリスへと視線を流した。#猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

「えー、ちゃうわ。わざわざ火村ントコ来てまで見たないし、俺も其処まで暇じゃないっちゅーねん。…さりげなく失礼なやっちゃな」 けらけらと笑いながら缶を煽るアリスに、じゃあなんでここにいるんだ、という意味を込めて視線を向ける。視界の端で女子高生が猫に拉致された。#猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

「ふふ。ばあちゃんが「有栖川さんテレビの録画って出来る？」って俺に電話してきたんよ。火村が録画したいって言ってたけど出来ないからって」 ばあちゃん困らせたらあかんよと笑うアリスに思わず顔を覆ってしまいたくなった。ばあちゃん。何もコイツに言わなくてもいいだろ。#猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

「で、原稿も一段落しとったしばあちゃんからご飯のお誘いもあったし来とるっちゅうわけや。―センセ、顔真っ赤やで」 「うるせえ、黙って呑んでろへべれけアリス」 「ひっどいなー自分の弱み珍しく見られたからって」 コイツが酔わないことは俺が一番良く知っている。#猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

「なんやったらお礼貰ったっていいくらいやろ。…それこそ、恩返しってやつな」 「普通恩返しは自分からねだるもんじゃねえだろ」 酔ってんのか、と言いながら額を押すと、別に酔っとらんよ、とにやにやされたのを見て大きくため息を吐いた。言いたいことはなんとなく分かる。#猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

「…わーったよ、どうせ明日暇だろう。俺の講義が終わったら研究室に来い。河原町で奢ってやる」 「わーい、さっすが火村、俺が言いたいことようわかっとるやん！」 「そのかわり」 ザルで呑兵衛なコイツに奢るのだ。それなりの対価は頂こう。 ぐいと空いた手を引っ掴む。 #猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

掻っ攫うようにほんの一瞬口を塞ぐと酒精が脳を浸蝕した。 理解して蹴飛ばされる前に離れると、アリスの真っ赤な顔が見えた。 ざまあねえな、さっきまで散々人を揶揄ってっから悪いんだぜ、アリス。 「どうかしたか」 「………キミ、ほんま性格悪いな。変態性欲の塊め」 #猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

「そう言い続けて何年の付き合いだか数えたことあるか」 「…干支１周してもうたもんなあ。…キミ今からでも遅くないから、あの猫みたいに紳士的になってこいよ、惚れ直したる」 「じゃあお前はあの白猫みたいに可愛げを持てよ」 「オッサンが可愛げあってもいややろ」 #猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

其処まで言ってから、同時に顔を見て思わず吹き出して笑ってしまった。 「しゃーないわ、１４年付き合ったんやから、最後まで付き合ったるよ」 「そうかいそうかい、そいつは有難いことだな」 言いながら手にしていた缶ビールをアリスの其れに押し付けて、鈍い音を鳴らす。#猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

「河原町にな、忍者の料亭があるんやって。明日其処で食おう」 「………それ死ぬほど高いトコじゃねえか」 「大阪から北白川まで来てやったんやから、安いモンやろ」 にまりと笑うアリスの顔を見て少し考えたのち。 「…じゃあ、それに加えて、さっきの続きでチャラだな」 #猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

しれっとした顔で言うとアリスがきょとんとしたあと、顔を赤くした。馬鹿やろ、と呟いたのは聞こえないふりだ。 録画はしてあるのだから、テレビは消してしまってもいい。 ばあちゃんもそろそろ寝る時間だ。 ―猫たちを廊下へとそっと押し出してから、笑った。 #猫と恩返し #火アリ

仏壇フェスティバル！（ふみん） @insomnia_23

「おまけくらいはしてくれよ。いいだろ？」 セクハラめ、と笑うアリスを黙らせて、そっとテレビのスイッチを切った。 #猫と恩返し #火アリ #END