クリスタルダンディーの怖い話

中年男性えび担 @kusaihetima

【クリスタルダンディーの怖い話】 私が18の時の話だ。12年も前の事だが、今でも昨日の事のように思い出す。大学入りたての私は課題とグループワークに追われ、毎日多忙を極めていた。当時はまだ独り暮らしを始めていなかったので、千葉の実家から東京の西側まで2時間ほどかけて通学していた。

中年男性えび担 @kusaihetima

（承前）通学の時間だけで毎日4時間、それに授業が5,6時間、さらにグループワークで放課後遅くまで残るという生活で、充実はしていたが夜帰ったら風呂と飯を済ませて泥のように眠り、翌朝6時に起きるというパターンで生活していた。慣れない忙しさで疲労はピークに達していた。

中年男性えび担 @kusaihetima

（承前）ある夜のことである。眠ってから妙な感覚があり、全身に鳥肌が立って目が覚めた。息が苦しく、意識はあるのに身動きが取れない。腰のあたりに異様な重みを感じる。今までに経験したことのない感覚である。俗に言うところの、金縛りであった。

中年男性えび担 @kusaihetima

（承前）しかし、いくら私でも金縛りの原理くらいは知っている。要するに、脳の一部だけが働いている状態なのである。自分を観察する余裕すらあった。なるほど、これが話に聞く金縛りか。大して恐ろしくもないな。そう思った、次の瞬間である。

中年男性えび担 @kusaihetima

（承前）全身を万力で挟まれるような強烈な閉塞感と共に、胸の上を何者かのおびただしい数の指で掻き毟しられるような、異様な感覚に襲われた。違う、これは普通の金縛りじゃない。本能的にそう感じ、初めて恐怖に襲われた。しかし叫ぼうにも声が出ず、逃げようにも身体が動かない。

中年男性えび担 @kusaihetima

（承前）いつのまにか、心の中で「ごめんなさい！ごめんなさい！ごめんなさい！」と謝り続けていた。何に向かって謝っていたのか、そもそもどうして謝らなければならなかったのか、自分でもわからない。やがて金縛りは解け、胸を掻き毟られる感覚も消えた。ひどい汗と心拍数でしばらく寝つけなかった。

中年男性えび担 @kusaihetima

（承前）その2日後くらいから、母が「猫のフンが臭い」という話をよくするようになった。なんでも、近所の猫が最近、うちのまわりでトイレをするらしく、夏という事もあって臭いがきつくなってきているという。しかもひどくなる一方なのだとかが、私も忙しいので、臭いを気にする余裕はなかった。

中年男性えび担 @kusaihetima

（承前）そのさらに5日後、大学のグループワーク中に母から電話があった。「猫のフンの話したでしょう」と言い出すので、この忙しい時に何を……と思ったが、母はかなり興奮した様子だったので、続きを聴いてみると、隣の旦那さんが亡くなったという話だった。それも、家の中で、である。自殺だ。

中年男性えび担 @kusaihetima

（承前）その家の奥さんは子供を連れて家を出てしまっており、不在だった。で、ひどくなる一方の臭いの発生源はどうやら旦那一人で住んでいるはずの家からである、という結論に至ったご近所の誰かが、警察に通報したらしい。ドアが開けられた瞬間、今まで嗅いだ事のない異様な悪臭が放たれたという。

中年男性えび担 @kusaihetima

（承前）旦那さんが亡くなってから、1週間程度経過していたそうだ。一週間前。私は冷や汗が背中に伝うのを感じた。あの胸を節足動物の足のような動きで掻き毟った無数の指の感覚がよみがえる。あの瞬間、旦那さんはちょうどロープで首からぶら下がっていたに違いないのである。

中年男性えび担 @kusaihetima

（承前）もちろん、お隣さんの死と、私の金縛りとの間に、科学的に繋がりを示す証拠は何もない。全て主観によるものである。しかし事実として、旦那さんが亡くなった部屋は、姉の部屋のすぐ隣と言っていいほど近く、距離にして10mも離れていなかったのは間違いないのである。

中年男性えび担 @kusaihetima

（承前）それ以降、金縛りが癖になってしまったらしく、しばらくの間、意識はあるのに身体が動かせない、という状態を何度か経験した。しかし、胸を掻き毟るあの無数の指先が肌に触れる感覚は、あの時以降、一度も経験していない。

中年男性えび担 @kusaihetima

以上、心霊系で一番怖い思いをした時のお話でした。ご清聴ありがとうございました。