「館もの」ミステリ講義
@naohikoKITAHARA どうも、直接メンションではほぼはじめまして。アニメ『氷菓』中のホームズの小説で気になることがあったのでお伺いします。『氷菓』では「館もの」と俗に言われる話が劇中劇として展開するのですが、ホームズでそれに類するものはありましたでしょうか。
2013-08-20 19:33:22@sandletter1 ホームズの正典の中に館ものがあるか、というご質問ですか?正確な館ものの定義は知りませんが「館で次々に殺人が起こって…」という話はないですね。「本格」成立以前の作品ですから。屋敷の中で奇怪な事件が起こる、というところまで広げれば「ぶな屋敷」がギリ入るかな。
2013-08-20 19:46:33なるほど、どうもありがとうございます。やはりないですよね。アニメ『氷菓』の中では、「叙述トリック」と関連して「館もの」の話が出てくるんですが、ホームズ読んだだけでは書けないですね @naohikoKITAHARA https://t.co/AVkkYGfGCC
2013-08-20 20:02:03ミステリーのサブジャンルとしての「館もの」の起源って何なんだろうな。「館の中で人が死ぬ」んじゃなくて「連続殺人が起きる」のほうね。クリスティだと、『そして誰もいなくなった』が1939年、叙述トリックの例のあれが1926年なんで、10年位上も古いんだけど…。
2013-08-20 19:37:20アニメ『氷菓』の自主制作映画の元ネタ的には『黄色い部屋の秘密』(1908年)とかありますが、本格ミステリー好きな人ぐらいしか読んでない。本郷さん日本のミステリーの館ものぐらいは読んでるか。
2013-08-20 19:40:18@ashibetaku どうも、メンションではほぼはじめまして。少し気になることがあったので、本格ミステリーの専門家にお伺いできればと思った次第です。いわゆる「館もの(館で連続殺人が起きる)」の世界的な起源というのは何なんでしょう? 『そして誰もいなくなった』(1939年)ですか
2013-08-21 01:40:02@ashibetaku 館ものの起源が『そして誰もいなくなった』(1939年)というのは、感覚として少し新しすぎるような気もしますが、ネットで日本語のサイトを調べていても限界みたいです。館で殺人が起きて密室、というのは『黄色い部屋の秘密』(1908)を筆頭にありますが…。
2013-08-21 01:42:40①まずお考えいただきたいのは「館」なるものが今日考えられがちな仮想空間ではなく現実の生活の場だったということです。英国伝統のマナー・ハウスを舞台にした人間ドラマで殺人が起きれば、それはただちに館ものとなるわけですが、当時の人にはそんな意識はなかったはず。 @ontheroadx
2013-08-21 02:58:03②当時は移動手段が限られること、フィクションの中心に演劇があったことからドラマの舞台は固定されがちだった。しかしこれらが完全な閉鎖空間になることはなかったと思います。ヴァン・ダインの『グリーン家殺人事件』にしても、ああいう屋敷は実際NYに多数あったのです。@ontheroadx
2013-08-21 02:58:15③たとえば、本格ミステリでありませんが、一軒家にアクの強い一団が集まり、遺産相続をめぐって怪事件が起きる舞台劇に「猫とカナリヤ」があります。映画版→http://t.co/hroCIYOJmO こういう物語の伝統があったのです。@ontheroadx
2013-08-21 02:59:30④飛行機や自動車や無線が発達し本格ミステリのパターンも確立した時代、あえてそれらを排除し「名探偵+警察+被害者+容疑者たち」という人物配置さえ崩したところにクリスティの創意があったのでしょう。実は『そして誰も』のトリック自体はフランス作家に先例があります。@ontheroadx
2013-08-21 03:00:04⑤ただしこれは閉じた人間関係内の殺人で空間的には開放されていました。一軒家に探偵をふくむ関係者がとじこめられる例は『シャム双子』がありますが、以前はクローズドサークルと意識されなかった記憶があります。新本格以降の「クローズドサークル・インフレ」下ですね。@ontheroadx
2013-08-21 03:00:25⑥ここでお気づきではないでしょうか。「館もの」の規定があなたの中で混乱していることに。単に一軒家の中での事件を描くものなら、その歴史はそれこそミステリ誕生以前までさかのぼる。一方、探偵も警官もいない特殊空間が舞台なら『そして誰もいなくなった』が元祖かと。@ontheroadx
2013-08-21 03:00:40⑦ただ、クリスティの『アクロイド殺害事件』にスウェーデンの先例があったりするので保留にしておきます。僕自身は何でもクローズドサークルにし、読者もそれを要求する現状を好ましいと思っていません。そこにはミステリの系譜への誤解があり、自閉が感じられるからです。@ontheroadx
2013-08-21 03:00:53⑧以上です。新本格以降のある種歪んでしまったミステリ史観に抗してもしょうがないと昨今ではあきらめているのですが、一応はお答えまで。 @ontheroadx
2013-08-21 03:01:52おおむねRTに賛同する。一言でいえば、新本格を経た現在の読者がしばしばイメージするような「館」は、別段、本格推理小説の伝統ではない。
2013-08-21 12:19:22「一軒家にアクの強い一団が集まり、遺産相続をめぐって怪事件が起きる」なら、むしろ、『オトラント城』以降のゴシック・ロマンスまでさかのぼりうるかもしれない。いずれにしても、推理小説、とりわけ本格謎解き物の中で生成した趣向ではない。
2013-08-21 12:21:48むろん、古びた館を推理小説の舞台にすることで、読者がスリルを感じるということは、昔からあったろう。しかし、そのことと、いま一部でいわれているような、あたかも「館」が本格推理小説必須の要素であるかのような錯覚は、全く別問題である。
2013-08-21 12:24:54ただ、『グリーン家』については、作者が意図的に「奇怪な館」をウリにしようとしている姿勢がみられると思う。そこで、「特殊な趣向としての館」というヒントが与えられたところから、日本の推理小説における、観念的な「館」志向が出発した。
2013-08-21 12:26:56といっても、日本の推理小説で「館」が登場する作例は、微々たるものといわないまでも、決して主流ではなかった。「館」「クローズドサークル」「館を利用した仕掛け」の三位一体が定着したのは、やはり綾辻以降というべきなのだ。
2013-08-21 12:29:25むろん、『呪縛の家』や『十二人の抹殺者』(クローズドサークルではない)はどうかとか、『殺しの双曲線』はどうかとか、個々的に取り上げてゆけば、いろいろ話すことも出てこようが、大きな流れはいま書いたとおりである。
2013-08-21 12:33:03こうした流れは、新本格が「メタ本格(@我孫子武丸)」として、過去の作例の中の、自分にとって魅力的な部分を強調し、理想化することで生まれたことと不可分の問題である。
2013-08-21 12:39:06