ぬるぬるくんは、きをきるのはからっきしでしたが、のこぎりでおじさんがきったきをいたにするのは、おもったよりじょうずにできました。「ほうれ、なにかとくいなものはみつかるものだ」「でも、うまくまっすぐにきれないよ」「こんきよくやることだ」
2011-11-10 00:32:41そのひから、ぬるぬるくんはのこぎりびきにいっしんふらんにとりくみました。きをまっすぐにきる。これだけのことが、どれだけむつかしいことか。ただいたのめだけにきもちをあつめて、まいにちまいにちくりかえします。
2011-11-10 00:33:57のこぎりのあつかいに、ようやくなれてきたとき。ぬるぬるくんは、いつしかじぶんのてがぬるぬるしていることも、すっかりわすれてしまっていたのでした。
2011-11-10 00:34:11「きょうは、できあがったざいもくをはこぶぞ」あるあさ、べとべとおじさんはしまってあったおおきなとらっくをもちだすと、しごとにでてきたぬるぬるくんにいいました。「どこまではこぶの?」「まちはずれのつるつるでらだ」「えっ」つるつるでら。たしか、すべすべちゃんのいるおてらです。
2011-11-12 16:00:08なんだかしらないけど、ぬるぬるくんのむねのなかがきゅうにどきどきしてきました。「ふるくなったおどうのしゅうりをやっているんだ。いままでのざいもくのちゅうもんぬしだよ」ぬるぬるくんとべとべとおじさんは、とらっくのにだいにざいもくをつみこみました。
2011-11-12 16:00:56おおきなにだいからはみだしてしまいそうな、すごいりょうでした。べとべとおじさんは、それがはちきれてしまわないように、ろーぷでくくりながらいいました。「どうだ? これがおまえのはたらいたしごとのりょうだ」ぬるぬるくんは、なんだかとてもうれしく、そしてほこらしくかんじました。
2011-11-12 16:01:51おだやかなひざしのなかを、べとべとおじさんのうんてんするとらっくは、みずうみのほとりをひたはしりました。やがて、いわやまのうえにへばりつくようにたつ、つるつるでらがみえてきました。きりたったがけのふちに、かわらやねのはがされたおどうがみえます。「あそこだ」
2011-11-12 16:50:55べとべとおじさんは、つづれおりのさかみちでとまりそうになるとらっくをじょうずにうんてんして、おてらのさんもんのまえにのりつけました。「いらっしゃい!」ぴょこりと、もんからすべすべちゃんがかおをだしました。「あら、やっぱりきたのね。いつかくるとおもってた」
2011-11-12 16:52:01すべすべちゃんは、ぬるぬるくんをみつけると、そういってにっこりとわらいます。「おやおや、もうしりあいなのか」べとべとおじさんは、にがわらいをすると、おてらからでてきたおしょうさんとふたりで、なにかはなしをはじめました。「おどうにいってみましょ!」「え? うん。でも、いいのかなあ」
2011-11-12 16:53:14「きょうはまだだいくさんはきていないから、じゃまにはならないよ」べとべとおじさんにきくと、ざいもくをおろすまでにはじかんがあるからかまわないといわれました。「けれど、なにしろがけのうえにたっているんだ。きをつけてな」「あたしがついているから、だいじょうぶ。いきましょ!」
2011-11-12 16:54:20おどうはたかいたかいがけのとちゅうの、おおきなくぼみのなかにたてられていました。とんでもないながさのいしだんを、すべすべちゃんはいきもきらさずにいっきにかけあがってしまいます。ぬるぬるくんは、へとへとになりながらようやっとのぼることができました。
2011-11-12 19:48:14「あーら、だらしない。まあいいや。こっちにきてごらんよ」おどうのまえにたって、みずうみのがわを見ると、とおくとおくはるかまでみわたせます。 かすんでしまっている、みずうみのむこうのきし。おぼろにうかぶとおいやまやま。たしか、ぬるぬるくんのいえはそのほうこうです。
2011-11-12 19:48:48そちらから、まるでさそうような、きもちのよいかぜがふいていました。おもわず、てすりからみをのりだしそうになりましたが、しかし、したをみるとすごいたかさです。はるかしたのほうで、あおいみずがひたひたとがけをあらっています。おちでもしたら、とてもいのちはありません。
2011-11-12 19:49:32「うひゃっ」まっさおになったぬるぬるくんのかおがおかしかったのでしょう。すべすべちゃんは、けたけたとわらっていいました。 「だいじょうぶだいじょうぶ。ここはじょうぶにできているから……あれっ?」すべすべちゃんが、てすりにもたれこんだとき、くさったきがおれるおとがしました。
2011-11-12 19:50:17そのまま、がけのほうへたおれこんでいきます。「きゃあ!」「すべすべちゃん!」ぬるぬるくんは、とびつくようにして、とっさにすべすべちゃんのてをつかみました。 ――そのとき、ぬるぬるくんのあたまのなかに、こんなかんがえがつぎつぎとうかびました。
2011-11-12 19:50:56ぼくのてはぬるぬるしている。すべすべちゃんのては、すべすべしている。つまり、ぬるぬるとすべすべで、つかんでいるこのては、つぎのしゅんかんつるんとはなれてしまうんじゃないか? ずるり。てがすべります。ちゅうぶらりんになった、すべすべちゃんのひめいがみみをつきました。
2011-11-12 19:51:35――そうじゃない、そうじゃない、そうじゃない! ぬるぬるくんは、こんしんのちからをてにこめながら、ひっしにおもいました。ぬるぬるとか、すべすべとか、そんなことはかんけいない! だいじなのは、このてをはなしちゃいけないということ。そうじゃないと、つるつるちゃんがしんじゃうんだ!
2011-11-12 19:52:26ふたりのてが、すいつくようににぎりかえされました。「ええい!」 からだじゅうにびりびりとしたいたみがはしります。うでが、ちぎれるようです。 ぬるぬるくんは、あたまのなかがまっしろになって、もうなにもかんがえられません。 ただひたすら、おどうのほうへとあとじさりをしました。
2011-11-12 19:53:23……ふっと、きゅうにてもとがかるくなって、つぎのしゅんかんつるつるちゃんのからだがうでのなかにとびこんできました。ただただ、なきじゃくっています。「……よかった」 たすかったんだ、とおもうとぬるぬるくんにもなみだがわきあがってきました。「ほんとうに、よかった」
2011-11-12 19:54:16