- takenoko_madori
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@ts_p そのころには、森の化け物屋敷のうわさは国中にあまねく知れ渡っていましたので、旅人さえ近付かないはずなのでしたが、この旅人は盲目だったために自分が森に迷い込んだことも知らず、一夜の宿を乞うためにお城の中に入ってきたのです。
2010-09-28 15:47:08@ts_p 人の寄り付かなくなった森の中には、危険な獣達もたくさん棲んでいました。遠く近くにそのうなり声を聞くうち、心細くなった旅人は、お城の扉をたたいたのでした。ごめんください。どうか一晩、泊めてください」
2010-09-28 15:47:45@ts_p か細く呼ぶ声にお姫様はおそるおそる顔を出しました。長い年月のあいだに、お姫様のことを魔女だ悪魔だといってひどいことをする人に、少なからず出会ったからです。忍び足で近付く足音を聞き取った旅人はそちらに顔を向け、見えない目のかわりに、全身でお姫様のことを知ろうとしました。
2010-09-28 15:55:54@ts_p 「ここには何もありません。森を抜けて里に下りなさい。宿を貸すものはほかにおりましょう」つらい日々の中で、お姫様の声から高慢な響きが消え、つのる哀しみだけがありました。盲目の旅人は一夜の宿のためだけではなく、なにがこの歳若い女の人を悲しませているか知りたいと思いました。
2010-09-28 15:57:49@ts_p 「お願いです。どうか一晩だけこの扉の中にお入れください。このままでは森の獣に食い殺されてしまいます。それに高貴な方、わたしはしがない物乞いですが、すこしは世間というものを知っているつもりです。あなた様に、そのお話をしてさしあげることもできましょう」
2010-09-28 15:58:42@ts_p 自分の声さえ忘れるほど長いあいだ、人と言葉を交わすことのなかったお姫様は、旅人の言葉に気持ちを揺り動かされました。盲目の旅人は一夜の宿代のかわりに、自分が知ることの全てを語りました
2010-09-28 15:59:43@ts_p お姫様がいたずらに日々を過ごすあいだに王国はなくなり、それどころか民草は方々に分かれて交わす言葉さえちがうことを知って、嘆きのあまりお姫様は気が遠くなりそうでした。自分の美しさを鼻にかけ、あまりにも多くを望みすぎたために、お姫様は何もかもなくしてしまったのでした。
2010-09-28 16:01:08@ts_p 「旅のかた」お姫様の声は、涙をふくんでかすれてはいましたが静かでした。そして、自分の髪や額や指先から、ありとあらゆる宝石や金飾りを取り外すと、それらをすべて旅人に与えました。
2010-09-28 16:01:47@ts_p 私は慢心ゆえに、大切なものをすべて失いました。これらは、私にはもう必要のないものです。けれどそなたが旅を続けるには役に立つはずのもの。これを持って人の間に降り、このおろかな女のことを伝えておくれ。もう誰も、こんな間違いを犯すことのないように」
2010-09-28 16:02:22@ts_p その言葉が終わるか終わらないうちに、お姫様の身体は砂のようにさらさらと崩れてゆきました。今夜が、神様と約束した千年の、最後の夜だったのです。何事かと立ち尽くす旅人の耳に、神様の声がとどきました。「このおしえをあまねく伝えるために、お前の瞳に光を戻そう」
2010-09-28 16:02:53@ts_p そして、気を失うほどの痛みが旅人を貫きました。翌朝、旅人は生まれて初めて、日の光に目を覚ましました。すっかり古びた館の壁にかろうじて残った一枚の絵がなかったら、ゆうべのことはすべて夢だったと、旅人は思ったかもしれません。
2010-09-28 16:03:23@ts_p けれど足元に散らばる宝石と、見えるようになった目と、千年のときを経てもなお美しいその絵のお陰で、旅人はお姫様との約束を思い出したのでした。「捧げる花もなし姫、十五歳の誕生日に」
2010-09-28 16:03:53@ts_p そう裏書された絵の中には、輝くばかりに美しい少女が、高慢な目を光らせて立っているのでした。その後、旅人はその絵とともにあちらこちらを回り、人々に哀しい物語を語り伝えました。そして最後に付け加えることを忘れませんでした。
2010-09-28 16:04:26@ts_p 「それでもあの姫は、私を人間扱いしてくれた、初めての人だった」 やがて旅人もその身を天にゆだね、その後お姫様の絵も行方知れずになって、物語だけが残ったということです。
2010-09-28 16:05:12@ts_p 突然の参戦失礼します!タナ缶と申します。もりかさんの「捧げる花もなし姫」のお話に絵を付けさせていただきました。下記はURL。 http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=13797297
2010-10-10 21:37:38@kuromuku ときに橘先生、漆原先生のお姫様の肖像、口絵にいただいてもよろしいでしょうか?実は昨日表紙案をほかの方からいただきまして。
2010-10-11 19:15:55@kuromuku そちらの表紙と口絵を組ませていただけると、私にはもったいないほどの本ができそうな気配がするのですが。いかがでしょう?
2010-10-11 19:17:46鍵アカウントのためコピペ
@_molica_ 今パソコン引越し中なので、そちらを採用で構いませんよ^^こちらはまだ下書き段階でしたので。組版に間に合うようでしたらどうぞ口絵に使ってやってください。
kuromuku 2010-10-11 19:49:32
@kuromuku とても楽しみにしているので、ぜひ使わせていただきたいのです。もちろんじっくり描いていただいて。一人で二枚も絵を付けていただくのは贅沢だと分かっているのですが、よろしくお願いいたします(深
2010-10-11 19:57:16