♮1　間奏曲 ♪ - 白意のターゲット -

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（中学一年生の少年・浅空勇矢は、新渡町に迫る魔術師組織ＵＡＲ達を殲滅し続けてきた。 二度と祖国の土に帰れぬよう跡形もなく、数十人を灰にして埋めた。 彼等の計画を阻止する為だけでは無い。 復讐と、そして新たな犠牲を出さぬ為に。 白衣の戦士、ホワイトナイトの仮面を纏い戦った）

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（4月に戦いを始め既に9月2周目。 彼等の計画で決して犠牲は出さぬ、との誓いの通りに、敵を殺し尽くし人々を守ってきた。） （だが、7月には部の仲間が巻き込まれ、自身も致命傷を負って入院した） （そしてつい先日、彼の幼馴染である七橋裕岐の周囲にまで害が及んでしまった）

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（浅空勇矢が魔術師にして、謎のヒーロー・ホワイトであることを知る者は少ない） （部長である観崎智明と、彼に従う隆光や湊、仲間の魔術師宵羽拓渡、同じ小学校出身にして戦術アドバイザーたる子安星護） （同年代では彼らしか知らない筈だった） （七橋裕岐には教えていない）

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（彼に教えていないのは、特別彼を信用していないからでは無い） （浅空勇矢はそもそも誰も信用していない。自分も含めて） （他の者に教えていないのはリスクとメリットを天秤にかけた結果か、もしくは向こうが見抜いて来ただけだ） （裕岐に秘密にする理由は別にある）

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（七橋裕岐は、厄介ごとに自ら首を突っ込む性質だからだ） （過去にも友人や知り合いのトラブルを解決すべく活躍し、時には勇矢も巻き込まれた） （だが非魔術師が魔術師の戦いに関わるのは危険過ぎる。戦力がどうの、という以前に戦いにもならない危険がある）

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（ホワイトの正体を知れば、彼は必ず関わろうとして来るだろう。敵わない相手にも。 それは彼の人生最後のショータイムの開演となる） （だから戦いが激化するにつれ、彼や他の仲間との接触を減らしてきた。 それで縁が解けるならそれでも良かった）

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（だが彼を巻き込み、ホワイトの姿で接触してしまった。 今日にでも正体がばれるかも知れない…そうなれば…） （そして） ―木曜日朝 勇矢は自分を心配する生徒会長を宥めて帰した。 そして部活塔の外に出ると…七橋裕岐がいた。 「…げ」 嫌な予感がした。

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♮1 間奏曲 ♪ ―白意のターゲット―

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足音が迫る。 「『げ』は無いだろユウ…会長と何かあったのか？」 後ずさる。 「体は大丈夫か？…今週部活休んでたけど」 「…いつものことだろ」 「堂々と言うなよ…でも普段は週２は顔出してただろ？明日は来れるのか？」 裕岐の口調は普通だった。 普通に心配している様に聞こえる。 1

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だが８年来の付き合いの勇矢にとっては違う。 ナイフを首に当てられながら、問い詰められているのも同然だった。 その証拠に話の流れが飛躍した。 「なあ、ユウ…俺４月に言ったよな？」 「な、何を」 「『本当にお前が危険だと感じたら、俺は首を突っ込むぞ』って」 2

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「い、いつ」 「4月21日22時5分頃、日館との市境辺りで」 裕岐の記憶力の前に誤魔化しは無意味。 「それが…どうしたよ？」 「7月」 「！」 「怪我で入院したよな、ユウ？…大会でも調子がおかしかった。まだ治ってないんじゃないか？今も」 「……」 3

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「それに舞悠と梢だ」 「……」 「ユウはいつも、俺や周りを影から守ってくれてた。それは知ってる…」 「なのに舞悠はあんなことになって、俺も梢も危ない所だった」 つい数日前、裕岐の幼馴染である入須舞悠に害が及んだ。 裕岐と梢にまで危険が波及した。 言い返す言葉が見つからない。 4

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「…ごめん」 「そのことは良い。ユウのせいじゃない。でも…」 裕岐は、彼女達と自分に危険が及んだことなどで、勇矢に怒りはしない。 「何でそんなになってまで！相談してくれないんだよ！」 『事態』が勇矢の対処能力を超えてなお、助けを求めないことに対して、怒っている。 5

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「アレは悪かったと思ってる。どうしてもって言うんなら今年中に自殺してやるよ」 「の馬鹿っ！」 自分を軽んじる勇矢の言葉。 何時ものことではある。 が、今は我慢がならなかった。 右拳で左頬を殴りつけていた。 『怪我人』相手だというのも忘れて。 勇矢の体が飛んだ。 6

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勇矢は光速を越えてマッハで察知出来てはいた。 だが敢えて無防備に受けた。 全身が左二回転し天地逆転。 部活塔玄関横の、壁に叩きつけられた。 勇矢は片手で顎を調整すると、逆大の字姿勢のまま続けた。 「大丈夫、アレはイレギュラーだから」 「7月の…事件もか？」 「そうだ」 7

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「いつもサボるのも？」 「そうだったり、じゃ無かったりだな」 「じゃあ、それも？」 『傷』を指す。 「…まあな」 先程の会長の言葉を思い出す。 見る人間は見ているらしい。 「…で、今事件って言ったよな。7月の事故のこと」 「…！」 アレは、実際には魔術師による事件だ。 8

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今のは言葉のアヤだ、と言い逃れる手は浅空勇矢には使えない。 嘘を吐くと心臓が1時間程止まる。 …ばかりか１週間も大幅に能力が下がる。 ケルトのゲッシュに似た対価型誓約だ。 制約を守る限りは能力が数％底上はされる。 しかし嘘が使えないデメリットのほうが圧倒的に大きい。 9

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それでも普段から奇妙な言動の彼のこと。 普通なら、相手が勝手に疑心暗鬼になってくれる。 …それも彼が嘘を吐かないと…或いは吐けないと知っている相手には無意味だ。 裕岐は大事な時はいつもそこに付け込んでくる。 「事件のこと…いや、これまでのこと…聞かせてくれよ…！」 10

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裕岐の声色には、疑問の色は殆ど無かった。 確信の色が色濃い。 ……入須舞悠の件で彼は魔術の存在を目撃している。 どう遅く見積もっても、彼はあの時には知ってしまっている… …この世に超常存在がいというる事実を もうホワイト＝勇矢と気付いているかも知れない。 11

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それを否定する根拠は、彼がその旨の発言をまだしていないという事実しかない。 実際には気付かれた時点で終わりだが、勇矢にはその言葉が出た時こそが終わりのように感じられた。 ホワイトがただの超人では無く、身近な人間と知れば、裕岐は間違いなく手を貸そうとして来る筈だ。 12

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彼は、昔から厄介事に首を突っ込んできた。 勇矢も放置出来ずにフォローしたものだ。 だが今回ばかりは彼は死ぬ。 預言書も言葉を重ねてそう警告している。 それを知ったとしても、彼は構わずに関わろうとするだろう。 手足が動く限りは。 …じゃあ壊そう。 13