#架空職業 記録13(『猫を盗ム話』~)
「ーーーマジで無い」優雅な猫脚のベンチに座った原は、他人から見れば絵になるその美しい景色とは裏腹に毒づいた。今日は御上のエージェントと定期接触の日だ。指定されたのはどこにでもある空中庭園。帝都のデパートの殆どは、屋上遊園地をこうした造りに変えているらしい。 #架空職業
2013-09-10 00:17:35平日の為か、園内に人はまばらだ。いたとしても定年を迎えた老人か、子供を連れた専業主婦程度である。それでも原はこうしてヒトがいる場所に来るのは不快で仕方がない。遠くから聞こえる子供のはしゃぎ声が耳障り。早く帰りたいのに、エージェントはまだ来ない。 #架空職業
2013-09-10 00:19:31自分達から呼び出しておいて、遅刻とか。「マジありえない」もう一度毒を吐き出すと、今度はため息が漏れた。定期接触は自身が行かなければならないと決まっていて、いつもの分身は使えない。 #架空職業
2013-09-10 00:21:09なるべく目立たないようツバ広の帽子にありがちなワンピースで身を包んだ原は、嫌々ながらも従うしかない自分の身の上を呪った。ああ、早く帰りたい。ここにいたくない。ここは私とは違うモノの場所ーーー。 #架空職業
2013-09-10 00:22:33「ヨぅ、子猫チャン」「!…あなたは…」声は突然降ってきた。いつの間にいたのか、ベンチの背もたれに後ろからほほ杖をつくような格好でその人物は原を見ていた。ショートヘアをそのまま伸ばしたようなざんばらなピンク髪に、特徴的なニヤリ笑い。ーーー監視屋ときお、だ。 #架空職業
2013-09-10 00:24:14自分の顔がみるみる真っ赤になっていくのが原にはわかった。「今日はズイブン雰囲気ちガうネぇ。デート?」「…あなたには関係ありません」ぶっきらぼうに言い切ったものの、顔の火照りは戻らない。うう、なんでこんな時に! #架空職業
2013-09-10 00:26:24「ふーン?」くりり、とときおが小首を傾げる。思わず原の顔が緩んだ。か、かわいい。ーーーっていやいや!ダメだろ私!!慌てて真面目な表情を作ってみせたものの、しっかりさっきの顔を見られてしまっている。クックッ、と喉をならすときおの隣で、原は成す術がない。 #架空職業
2013-09-10 00:29:07原にとってヒトは、相入れぬ存在だ。御上の施設にいた時も、酷いことはされなかったけど、職員は原の事を『研究対象』としか見ていなかった。彼らと自分は違うモノ。わかり合うとか、出来るわけない。ーーーけれどひとつだけ、原にはそれを超えてしまう『嗜好』があった。 #架空職業
2013-09-10 00:31:13実は原、美男美女に弱い。平たく言うと面食い。好みのタイプが相手だと、性別関係なくついつい甘くなってしまうのだ。そして目の前にいるときおも、原のストライクゾーンの人物なのである。しかも彼の場合、それ以外にも原が甘くなる理由がある。 #架空職業
2013-09-10 00:33:46しかもときおはそれをわかっていて、わざとこうして振舞って原をからかう。全くタチが悪い。もっとタチが悪いのは、それを悪くないと思ってしまう原自身だ。 #架空職業
2013-09-10 00:36:36からかわれて嬉しいとか、どこのマゾなの。そう自分で突っ込みつつも、好みを今すぐ変えられる訳もない。全てイケメンが悪い、と毎回責任転換する。「私になんの用ですか」努めて平静を装い、ときおに訊ねる。この人の場合、用が無くても原の元に来るのだが。 #架空職業
2013-09-10 00:39:13「ンー、ソうだネぇ」ときおは先ほどとは逆の方向に首を傾げ(ああもうやめて、また顔が緩む)、思案顔。「デートの相手来ナいヨウなラさ、逃ゲチゃわナい?」「は?」「サアサア遠慮なさラず」困惑顔の原をときおはひょいと横抱きした。「え?」そしてそこからが、早かった。 #架空職業
2013-09-10 00:41:48ときおは原を抱き抱えたまま走り出した。「しっカり掴まッテなネぇ」という言葉は原に届いたかどうか。原が返事をする間もなく、ときおは高いフェンスを乗り越えーーほぼ飛び越えたようなものーー屋上からダイブした! #架空職業
2013-09-10 00:43:52「ーーーっ?!?!」悲鳴は声にならない。突然の出来事に原は思わず目をつぶった。一瞬、ぐちゃぐちゃになった自分の姿が脳裏をよぎる。落ちる!!落ちるうぅぅ!!! #架空職業
2013-09-10 00:46:37だがしかし、原の予想通りにはならなかった。死を覚悟した瞬間、身に襲ってきたのは『ポウン』という不思議な音と、無重力空間に投げ出されたような浮遊感。驚いて目を開けると、そこにいたのは宙に浮かんだ沢山のメマメ達。 #架空職業
2013-09-10 00:48:23どうやら着地点にメマメ達がいて、クッションの代わりを果たしたようだ。ときおはトランポリンのように弾んだ力を利用して、そのまま地面へスタッと着地した。役目を終えたメマメ達は、蜘蛛の子を散らしたように何処かへ消えていく。 #架空職業
2013-09-10 00:51:13ときおが先程までいた庭園を見上げる。原もつられて見上げると、ある人物が目に飛び込んで来た。走ってきたのであろうか、息を切らしてこちらを睨みつけている。細身のサングラスに高級そうな黒いスーツ。ーーー御上のエージェントだ。 #架空職業
2013-09-10 00:53:02ときおはその姿を確認すると、原を抱えたままギャハははハ!、と笑いながら逃げ去った。悪戯に成功した子供のような笑みを浮かべて。 #架空職業
2013-09-10 00:56:48