キノの旅 「おちんちんの国」  ― want to lick. wonder ―

わぁい
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伊月遊 @ituki_yu

益々興奮ぎみにまくし立てる男性。 キノは苦笑いを愛想笑い隠しながら、男性に気付かれないようエルメスに囁く。 (なんか、変な人だね) (キノ、本当に良い国なんだろうね?なーんか無性にいやな予感がするんだけど) (さあ・・・師匠が言ってた事だから)

2013-07-15 11:21:57
伊月遊 @ituki_yu

愛想笑いの表情を崩さずに男性を見つめるキノ。 相変わらず男性は鼻息を荒くして話し続けているが、キノには何のことだか良く分からなかった。 少し経つと、男性の知り合いだろうか。大きな女性の顔が描かれたシャツ、頭に迷彩柄のバンダナを付けた男達が旅人の男性に声を掛けてきた。

2013-07-15 11:22:38
伊月遊 @ituki_yu

それで男と二、三言なにかを話したと思ったら、急に全員でキノに向かって敬礼をした。 それから益々キノには理解のできない言葉が飛び交い、甲高い早口の中で度々現れる「ブシロード」という単語がキノの思考を満たしきったあたりで、 唐突に草原の中にサイレンの音が鳴り響いた。

2013-07-15 11:23:54
伊月遊 @ituki_yu

その音を聞いた周囲の人間はみな一斉に並んでいた列の先端へ顔をやる。 古ぼけたサイレンの音が数秒鳴ってから、続いてマイクの入るノイズ、それから『あー、テステス』と嗄れた老婆の声が聞こえてきた。 先程までの喧騒が嘘のように静まり返った。皆固唾を飲んで、じっと次の言葉を待っている。

2013-07-15 11:25:27
伊月遊 @ituki_yu

「ねえキノ、なんだい?何が始まるんだい?」 「ボクに聞かれても分からないよ。そこの旅人さんに聞いてみたら?」 「えー、いやだよ。近付きたくない」 そうこうしていると何度目かの”テス”の後で、老婆は大きく咳をして、それから言葉を続ける。

2013-07-15 11:26:09
伊月遊 @ituki_yu

『えー。長らくお待たせいたしました・・・これより、第238回ショタケットの開催を宣言します』 老婆の声に皆拍手をし始めた。 皆一様に満面の笑みを浮かべ、誇らしげに手を叩いている。 キノもなんだか分からないが、取りあえず周りに合わせて真似をしてみる。

2013-07-15 11:27:14
伊月遊 @ituki_yu

数十万の雨のような拍手音のシャワーが草原中に降り注ぐ。 その音が止み切らぬ内に、老婆は二の句を続けた。 「ではーーー」 ごほん、と大きく咳をして一呼吸。 それから老婆は言った。 「おちんちんランド、はじまるよー」

2013-07-15 11:29:46
伊月遊 @ituki_yu

瞬間、世界は音で埋め尽くされた。 「わぁい!わぁい!」 「フォーメーションB!デルタチーム応答せよ!」 「祭じゃああああああッッッ!!」 「ピチピチピッチ!生足ジャニ顔美少年!!」 「てめぇ追い越しとかマナー違反だろ!畜生これだからJ勢は民度が低いって本スレが荒らされるんだ!」

2013-07-15 11:30:54
伊月遊 @ituki_yu

全速力で走る音。押しのき合う音。 叫び声。怒鳴り声。嬌声。叫声。凶声。 怒っている者も居た。笑っている者も居た。泣いている者も居た。多種多様の人達が居た。 だが皆の唯一の共通点は、ただひさすら、前に向かって走りつづけていることだった。

2013-07-15 11:32:17
伊月遊 @ituki_yu

キノとエルメスは呆然と立ち尽くし、地平線に浮かぶ土煙を見つめていた。 そしてそれらが見えなくなった後には、広い広い草原の中にはキノとエルメスだけが残った。 「・・・すごいね、キノ」 「・・・うん」

2013-07-15 11:32:53
伊月遊 @ituki_yu

「・・・なんだろう。なにかさっき、さらっと凄い単語がスピーカーから流れてなかった?」 「・・・うん。ボクにも聞こえたよ」 「・・・行く?」 「・・・いや、やっぱりいいや」 キノはエルメスに乗り、エンジンを付ける。 すぐに独特な排気音が空気を揺らす。

2013-07-15 11:33:39
伊月遊 @ituki_yu

「・・・行こうか」 「・・・うん」 そうしてキノはアクセルをひねる。 ゆるゆるしたスピードで、キノ達は土煙の上がっていた方向とは反対側に走り出した。 やがて彼らも地平線の向こうへ消えて、見えなくなる。 辺りには何も無い。ただのんびりとした風が、静かに草原を揺らすばかりだった。

2013-07-15 11:35:07