藤野可織×ウラジーミル・ソローキン対談ざっくりまとめ
- thunderheadhour
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まずソローキンは外語大に12年前から2年務めていたことがあり、その時は吉祥寺に住んでいたそうだが、招いたのはあの亀山郁夫氏だったそうな。モスクワで「あなたの短編集訳してます」「外語大にきてロシア語と文学教えてくれませんか」といきなり言われたそうで。→
2013-10-10 21:58:38あまりに突然だったので断ったら「ウラジーミル、答えを急がなくていい」と言われ、ソローキンは一種の挑発と受け取った模様w。一週間考えてOKしたそうだが決して後悔していない、とのこと。ただ脂の話題で「トンカツ食べたか」と聞かれた時は「魚の方が好き」とのお答えw。
2013-10-10 22:00:53藤野さんから「肉体的なものを持ってくるとなると血と肉はすぐに思い浮かぶが、脂はなかなか思い浮かばない。脂というものをどう捉えているか」という問。一筋縄ではいかない問いだ、と前置きしつつ、ロシアで豚の脂(サーゴ)は広く食べられる庶民的な食べ物で、主に塩漬けにするもの、と。→
2013-10-10 22:03:17→ウォッカのつまみとしてもいいもので、しかも腐らないのだそうな。でもインテリからするとホントに平民の食べ物という固定観念があるそうで、青い脂、という言葉をロシア人が聞くと結構おぞましく響くものらしい。想像だが日本でいうと「青い牛スジ」みたいな感じかw?
2013-10-10 22:05:24→体と空気の間にあるもの、とも言ってた。で、そんなものが青い、となれば誰にも理解できないモノである、と。そこで言ってたのが「作家の持っているツールはひとつ。直感と、自分のスタイル。 ……ふたつですね」とスペイン宗教裁判のような言い方でさらりと名言w。→
2013-10-10 22:08:09→直感を頼りに、それを駆使して書き上げ、読者の助けを借りてそれが何かを認識する、とのこと。この「直感」という言葉は、彼の創作において非常に大きな意味を持つようで、その後も何度か言及してました。
2013-10-10 22:09:41今度はソローキンの方から藤野さんに最初の小説を書くのは大変だったかと質問。藤野さんは、日本では一般に文芸誌の新人賞に応募するもので、自分はバイトしながら書いて応募したらある時受賞した、他にいろんな仕事を目指して全部ダメで残ったのが書くことだったが、辛いことはなかった、との答え。
2013-10-10 22:12:33→ソローキンは出版社に応募して出してもらう、というのは自分の場合あり得なかった、大変厳しい検閲があったから、と。そして作家は辛い仕事である、重荷を運ぶ馬車馬のような心づもりでなければ、と語っていた。→
2013-10-10 22:15:43→それを聞いた藤野さんが「荷物を背負っていたり、役割を負っていると考えたことがなくて、今の所は幸せかなと…」と少し困り顔を見せると、ソローキンおじさん「あなたの年の時は私も全く考えなかったです」と大人の笑みw。
2013-10-10 22:18:05→その流れでソローキン曰く「作家が考えるべきことは自分のテキストの質のみ。何よりまず読者としての自分を驚かさねばならない。世界を変えてやる、というのは間違った考えであると思う」と。藤野さんの「自分の文章がその小説にふさわしいかを一番考える」との発言に「一番正しいアプローチ」。
2013-10-10 22:20:33権力の影響について問われると、「全体主義、暴力のことをよく考えていた。なぜ私たちの社会はこれほど暴力に依存しているのか。ロシアにおいて権力と作家が友情を育んだことは一度もない。地下に潜っていた最初の頃から明確に考えていたことがある」と。それは→
2013-10-10 22:23:45→「ロシアの、世界を良心に沿って描きたい作家には二つの道しかない。書くことと、怖がることだ。山登りに似ている。高いところが怖いなら、家でテレビに映る山を見ていなさい、ということになる。ロシアの作家という職業は相当危険な登山であり、かなりの人が渓谷に落ちてしまった」と。
2013-10-10 22:25:17「親衛隊士の日」にある「本はよく燃えるもの、とくに原稿は」というセリフがブルガーコフ「巨匠とマルガリータ」の「原稿は燃えない」という言葉と関連する、という話題からブルガーコフの話になったのだが、ソローキンさんエンジンかかったのかそこから10分くらいブルガーコフ語りw。
2013-10-10 22:28:09→印象的だったのは同作を「多面的な文学のクリスタルだ」と語っていたこと。読者に応じて必要なクリスタルの面を回していける、風刺小説・恋愛小説・神秘主義・歴史小説としても読める、と。最後は「戸建てに住んでるんだけど暖炉で一番よく燃えるのは新聞だね」とロシアンジョークをかましていたw。
2013-10-10 22:29:55ロシアで21世紀に流行り出した新しいリアリズムの流れについてはどう思うか、 と聞かれると、それはもうケチョンケチョン。のっけから「率直にいうと直近の20年、ロシアの現在の日々をまっとうな形で書き上げたリアリスティックな長編は一冊もありません」。→
2013-10-10 22:31:32→「私たちの世界をリアリズムの言語でもって線状のリニアな構造で描くのは不可能。20世紀ですら、私たちの世界はリニアに発展しているものではない。現在の作家にとって一番重要なのは、現実を描く言語を発明することだ」先生、キレッキレであります。ウェルベック、ペレーヴィンらは成功してると。
2013-10-10 22:33:53そこから造語の話に。「リプス」を作った経緯は説明不能とのことだったが、「造語を作るのに一番大きな課題は、古いシンボルを一切引きずってはいけないということ。トルストイにインターネットという言葉を見せてもきっと何も解釈できないように、リプスも一切の連想を引き連れてこないことが重要」→
2013-10-10 22:36:02→「ただ読者が、その言葉がさまざまな意味を持っていると感づくことが重要」と。彼自身、日本語で書かれた「リプス」という言葉の形が気に入ったそうで、それを書いた紙をポケットにいれ、「モスクワに帰ったらTシャツにしてもらおう」と言っていたw。
2013-10-10 22:37:34訳者の松下さんも登壇しており、リプスの訳は「説明も載っているが読んでもわからないので、どんな連想も働かないよう音をそのまま訳した」と。ソローキン、それを受けて「松下さんは本当に大変な作業をしてくださった。『作者』として取り組んでくださった」とねぎらう。
2013-10-10 22:40:41造語は、その言葉を使って今の世界、未来を描くことを試みる作業そのもの、とソローキン。「Lハーモニーって言葉は日常的に使ってます」と藤野さんが語ると、ソローキンは「あなたは素晴らしい容姿をしてるからよくないLハーモニーであるとは思えないね」とリチャード・ギアみたいな顔でニヤリw。
2013-10-10 22:44:11全部語るのもヤボなんでこの辺で。そのあとは質疑応答。真っ先に手を上げたおじいさんが渡部直己氏というまさかの展開があったり、ビジュアル表現と小説表現のつながりなどの話が両者から語られたりとか。もっとおふたりからいろんな話を聞きたかったが、充実した時間でありました。
2013-10-10 22:48:01