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小説:どんな夫婦にならなってみたいか。

昨日(2013/10/12)書いた話を読みやすくまとめたもの。
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夜路の深淵 @yas_wks

どうしよう。究極の萌えを追求したところ人が死ぬ話でかつ話の細部を考え出したら歩きながら号泣しそうになったのでもうBGMをめっちゃ明るいウルフルズにして耐えた。 あれ?どうしようも何もなかった…

2013-10-12 11:56:21
夜路の深淵 @yas_wks

20代〜30代半ばの女と45〜50前後の男が結婚する。女は寡黙なたちで、自分のことをべらべら喋りはしなかった。それが災いし、周囲からは年齢差を咎められ、口の悪い人は女を遺産目当てだの愛のない結婚だのと言ったが、それに逆上する風でもなく、どこ吹く風といった様子だった。

2013-10-12 12:11:06
夜路の深淵 @yas_wks

それが気に食わないのか、周囲は男に対し、女を悪し様に言ったが、男も穏やかな気質のせいか然程気にも止めず、それでもあまり口の悪い言い様の時は、若い嫁さんがこんな男のところに来てくれたんだから、有難いことだよ。と笑うくらいだった。実際、男はどれだけ言われても女を悪女には思えなかった。

2013-10-12 12:16:39
夜路の深淵 @yas_wks

確かに女の趣味は解らないし、料理も上手くはない。しかし言葉遣いも気にならないし、家事も失敗しながらもやってはいるようだ。何より、残業を持ち帰ったはいいものの寝てしまった男の肩にかけてくれる毛布とその手の温かさが、悪女のものにはどうしても思えない。男はやっかんでるんだろうと笑った。

2013-10-12 12:21:16
夜路の深淵 @yas_wks

そんな夫婦の凪にほんの僅か波の立つ事があった。ある時男が家に帰ると、女は珍しく声を荒げていた。電話が終わるのを暫し待つ間に、女は「酷い女で構わないわ、あの人のお金は私のお金でもあるんです!」と怒鳴って電話を切った。突然のことで男は、女に声をかける機会を逃し、そのまま家を後にした。

2013-10-12 14:23:46
夜路の深淵 @yas_wks

珍しく男は部下を数人誘って連絡なしに遅くなったが、女は別段咎める風でもなかった。男は酒の力も借りてわざと明るく、何もなかったかい?と言った。女は、表情を変えず口角を上げて、特に何も、と言った。男は床についてからもこの事が離れなかった。自分の知らない女を見たようで波紋を拭えずいた。

2013-10-12 14:32:46
夜路の深淵 @yas_wks

男はそれから暫く家を留守がちになった。事実抱えている仕事も難局ではあったが、男は何かを振り払うかのように没頭した。あれ以来どんな顔をして良いか見失い、女同様口角だけで笑うようになった。努めて善人であろうと若手を支え、同僚を鼓舞し、社内の士気も高まっていく中、男は突然に倒れた。

2013-10-12 16:39:36
夜路の深淵 @yas_wks

女が病室に着くと、ぞろぞろと社員が帰るところで、最後の一人が一枚の封筒を渡した。休業について、入院期間中の保険や待遇についての規約などが入っていた。病室では、眠る男の傍で看護師と医師が話していた。到着に気付くと医師は女を別室に呼んだ。医師が言うには、男は舌癌だという。

2013-10-12 16:54:57
夜路の深淵 @yas_wks

胃炎や胃潰瘍の類を疑っていた女は言葉を失ったが、手遅れになってから癌が発見されることを思うと正気を保てた。男は暫く入院することになった。数日して親戚の数人が見舞いに押しかけたが、その内の一人はかつて女を悪し様に言った。そしてやはり今度もお前の管理が悪いから倒れたんだと女を責めた。

2013-10-12 22:25:43
夜路の深淵 @yas_wks

女は何も言わず俯いているだけだった。男が自分が自己管理を怠ったせいで心配をかけたと詫びると、親戚は何となし口々に言いながら病室を出て行った。女は表情を変えず、花瓶を持って流しへ向かった。暫くして中学生の姪が花を持ってきた。お見舞いかとお礼を言うと、険しい表情で、お詫びだと言う。

2013-10-12 22:30:24
夜路の深淵 @yas_wks

姪が言うには、母が電話で酷いことを言っているのを聞いてしまった、恥ずかしいので謝りたいという。どうやら義姉が電話で男に金を貸すよう取り次げと言ったのを、女が断ったので逆上して暴言を吐いたようだ。以前にも男の知らない間に金の無心はあったらしく、それで怒鳴っていたのか、と合点がいく。

2013-10-12 22:38:15
夜路の深淵 @yas_wks

男は親戚の言葉に惑わされ一瞬でも女を訝った自分を恥じた。女は水の入った花瓶を片手に戻った途端、姪の謝罪攻撃をくらい、たどたどしく姪の頭を撫でては一緒に花を生けていた。男はそんな二人を見て、本当に久しぶりに心の底から笑った。周囲が何を言おうと、自分の目で見た女を信じることにした。

2013-10-12 22:44:04
夜路の深淵 @yas_wks

夫妻は医師から手術を勧められた。聞くと、薬で対処するには腫瘍が大きいとのことで、最悪の場合舌を失う恐れもある。妻は夫の意思に任せますと言った。その結果、数日後に手術を受けることになった。幸いにして腫瘍の位置のおかげで全損は避けられたが、舌の一部を失い食事や会話に少し支障が出た。

2013-10-12 22:50:24
夜路の深淵 @yas_wks

味覚が一部麻痺したことで食欲が減退した男は少しずつ痩せていった。それでも医師から差し入れが許されると、料理下手な女の手作りの歪なクッキーを笑顔で食べた。あまり言葉が上手く発語出来ない時もあり、少しずつ会話が減った。男はまだ、女に話したいことがあったが、なかなか言葉に出来ずにいた。

2013-10-12 22:54:42
夜路の深淵 @yas_wks

ある日、女が世話をしに病室へ行くと、男はにこにこと笑っていた。何か良い事があったのかと尋ねても、特に何も言わない。女もつられて笑うことが増えた。会話は相変わらず少なかったが、病室には笑顔が絶えなかった。男は、言葉にならないたくさんの感謝を笑顔で返し、笑顔で退院して自宅へ戻った。

2013-10-12 22:59:43
夜路の深淵 @yas_wks

それから半年ほど、二人は穏やかに過ごした。時折親戚や姪も訪れたりしたが、笑顔の絶えない半年だった。男はずっとすまなく思っていた。あの時女を見誤ったことを、対話せず仕事に逃げたことを。ずっと感謝していた。下手なりに必死に世話をしてくれたことや、たくさんの笑顔をくれたことを。

2013-10-12 23:03:42
夜路の深淵 @yas_wks

男がある日を境に笑顔でいた訳は、謝罪と感謝だけではなく、病で痩せていく自分ではなく笑顔の自分を覚えていて欲しかったのだということや、自分の死後はまだ若い女に次の幸せな人生を歩んで欲しいと考えていたことは、男の死後に手記から判明した。男は最期まで、ただただ優しい笑顔で眠りについた。

2013-10-12 23:09:48
夜路の深淵 @yas_wks

女は喪主を務め、親戚一人ひとりに男の手記の一部を送った。笑顔の自分を覚えていて欲しいという遺志に加え、親族の方々にも笑顔で日々を送って欲しいと代弁して書を認めたた後、女は男の墓前に立った。そして初めて、声をあげて泣いた。何度も何度も、こんなお金なんか要らないと嗚咽しながら。

2013-10-12 23:17:23

本編はここまでなから、あとがきっぽいもの。

夜路の深淵 @yas_wks

(このあと女が会社に行って辞表を出して、引き止められた際に「あの人だったからついて行こうと思ったので…」と言葉少なに会社を去って、半年ほど後に赤ちゃんを抱いて近所の公園を散歩する姿が目撃されたりするといいなぁ。万一再建する時は二人で墓前に笑顔で報告に来る。)

2013-10-12 23:25:24
夜路の深淵 @yas_wks

ずっと気丈に振る舞い冷静で居続けた妻が、夫の死後墓前に立った時に初めて子どものように泣き出す、てのがやりたかった。 外面が悪く夫にだけ不器用ながら尽くす可愛いツンデレ妻萌えるとかそんな話だった今朝の時点では。

2013-10-12 23:36:38
夜路の深淵 @yas_wks

速報:ツンデレじゃないらしい。 これは失敬。ギャップ萌えの方がしっくりくるか。泣き虫な人が泣く姿より、気丈な人が泣く方が、本当につらいんだろうな、と思う感じ。うん。

2013-10-12 23:57:44
夜路の深淵 @yas_wks

一部ノンフィクションと言っても、まさかの姪の位置で、かと言ってうちの母は暴言など吐かずおじさんをべた褒めですけども… 舌癌のおじさんが親戚にいるんす。

2013-10-13 00:29:31

以上、土曜の朝、どんな夫婦になら萌えるか、
ということを考えてみた結果でした。