悪い男に騙される山城【最終章其ノ二『対』】

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

「喧嘩はしないでほしい。憎むなら、私にしてくれ」 彼が締め括る。凄い。本当にここまで全て、 彼が話していた通りに進んでいる。 榛名が肩を震わせて彼を睨んでいる。いい加減にして欲しい。このテーブルで顔を潰してやりたい。

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

「榛名君、言いたい事があるなら言って欲しい。君達を傷付けた事を、我々は重々承知しているのだから」 彼の真摯な言葉に、提督が辛そうに顔を伏せる。 私は空になってしまった湯呑みをテーブルに置いて、展開の知っている状況を興味無く眺める。

あの頃の榛名 @harunas_ward

「いいえ…。なんでも、ないです…！」 スカートを強く握り締める手が震える。奥歯がぎりりっと鳴る。 言えない。今言ってはダメだ…！ 奴の目論見に乗る事になる。ハメられた、先手を打たれ過ぎた。自分の浅はかさに目が熱くなる。 悔しい、悔しいよ日向…！ ごめんなさい扶桑さん…！

提督LOVEなのに振り向かれない金剛 @LeadShip_Kongou

@harunas_ward 榛名の隣で、私はこの場の雰囲気に取り残されつつありましタ。 先程榛名を諌めはしましたガ、明らかに違う山城サンの雰囲気と、見ない顔の男性。それに榛名のこの様子。 どうなっているのかが分からず、私はどうする事もできませんデシタ……。

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

それから提督が今後はより一層武器や兵器の使用や点検を強化する事、またそれらを艦隊のみんなに注意指導していくのを戦艦である私達に頼み、話を終える。 やっと終わったのね。溜め息をつく。 「ん？　おい、山城」 呼ばれる。返事をして提督を見る。

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

「泣くならちゃんと泣け。扶桑君に関しては本当に悪かった」 提督が胸ポケットからハンカチを出して渡してくる。 頬を触る。手が濡れた。 いつの間にか、理由もわからず私は泣いているみたいだった。

あの頃の榛名 @harunas_ward

失礼します…。

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

榛名が立ち上がり、目の前で姉が死んだかのような生気の無い顔で部屋を出ていく。 遠い遠いどこか別の世界で日向と姉様が私を呼んでる気がする。 気のせいだ。気のせいに 違いない。あの2人はもういないのだから。

あの頃の榛名 @harunas_ward

廊下をしばらく歩き、立ち止まる。 震える拳を、壁に打ち付け抑えつける。 数歩先を行き、音に気付いて立ち止まる姉さんを見詰める。 最悪の展開になったとしても、今なら金剛姉さんがいる。 殺される事は無い。殺される前にどうにかしてくれるはず。 首を傾げる姉さんから目を外し、振り返る。

金剛 @Kongou_limited

@harunas_ward 榛名、貴女が嘘をつく子だとは思えないわ…だから、私は信じマース　だからできる限り手助けをするし、危ないと思ったら貴女の止めにも入りますからネ？

あの頃の榛名 @harunas_ward

「ありがとう姉さん。信じてる」 諦めない。抗う。戦ってみせる。そう決めたはずだ。 日向と扶桑さんと、そう約束したじゃないか。 私がまだ「折れてない」事を突き付けてやる…！

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

彼と並んで部屋を出ると、廊下の先に榛名と金剛さんが立っているのが見えた。 さっきまでの様子が嘘のように、強い瞳で私達を睨んでいる。 あぁ…。 全部予定通り。

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

彼が2人に歩み寄りながら両手を広げる。 「どうした？　何か言いたい事がやっぱりあるのか？　言ってみな」 彼の後ろに続く。並ぶドアの数を無意味に数える。

あの頃の榛名 @harunas_ward

どうして…、どうして扶桑さんを殺した…！

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

榛名が叫ぶ。まだ。彼の合図を待つ。 「おいおい、その話はもう済んだだろ？　俺が殺した？　何を根拠に言ってるんだ？」 榛名の拳が握られる。反応しそうになるのをこらえる。

あの頃の榛名 @harunas_ward

ふざけないでっ！　私を利用して、山城を騙して、扶桑さんを殺しておいて「その話は済んだ」ですって…!? 絶対にあんたを許さない！　絶対に罰してみせる！

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

榛名の位置までの距離を測る。そのすぐ後ろの姉の位置も。 問題無い。 「くっくっ、俺を罰するか。それは怖いな。だから、こうしよう」 彼が笑い、榛名の眉がひそまる。

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

彼が大きく息を吸い込む。 「うわぁっ！　何をするんだ！　誰か助けてくれぇ！」 あらん限りの大声で彼が叫ぶ。榛名が驚きで身を固めたその隙に、私はすぐ目の前にまで一足で滑り込む。反応した榛名の瞳が私を捉えるよりも早く、整った綺麗な鼻に握り拳を叩き込む。

あの頃の榛名 @harunas_ward

つっ…、うあっ…!?

あの頃の榛名 @harunas_ward

鼻が折れた痛みと奥まで響く衝撃に、目が熱くなりすぐに涙が溢れる。 戦意を根こそぎ奪って尚余る痛みに、膝が震え立ち上がる事すら出来ない。

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

膝から崩れ落ちた榛名の頭部を見下ろし、このまま踏み潰したい衝動に駆られるが、我慢する。 そこまでしてしまうと、彼の計画に支障が出てしまうから。

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

背後で彼がぺたんと床に腰を降ろす。目線が同じ高さになった榛名を眺めている。 待つ事数秒。周囲のドアが次々と開いて、提督を始めとして色んな人達が何事かと身や顔を乗り出して私達を見る。 へたり込んだ振りをしている彼と、うずくまる榛名と、それを見下ろす私と金剛さんを。

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

一番に提督が彼の元に駆け寄る。 「ど、どうなさったのですか!?」 「突然榛名君が私に殴りかかってきて…。咄嗟に山城君が助けてくれたんだ」 指の隙間から覗く目を見開く榛名を、何の同情も無く見下ろす。

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

「『私の計画を邪魔して』どうのこうのと言いながら…」 「計画…？　榛名、やっぱりさっきの話は…」 彼と提督のやり取りのタイミングを計って、榛名の傍らにしゃがむ。 やっぱり姉様の武器に何か細工をしたのね！ 叫び、榛名の肩に両腕を掛ける。提督からはどう見えているのかしらね、榛名？

悪い男に騙されていた山城（完） @fd_yamasiro

「落ち着け山城！　気持ちはわかるが、一旦離れるんだ…！」 提督が私と榛名の間に割り込み、私を後ろに押しやる。提督の肩越しに見えた榛名の表情は、滑稽そのものだった。 「榛名、詳しく聞かせてもらうぞ」 周囲の人達も「状況」を理解して、怖いものを見る目で榛名を見詰めている。