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【twitter小説】標本の館#1【ファンタジー】

若い冒険者であるモアとクレインは、ある不思議な館の譲渡の話を聞く。奇妙なことに夫婦であることを条件として譲渡するというのだ。モアとクレインは夫婦ではないが――? 小説アカウント@decay_world で公開したファンタジー小説です。この話は#4まで続きます
書籍 文学 ファンタジー 減衰世界 Twitter小説
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減衰世界 @decay_world
 モア・ボーンは狭い納屋の中で資材を選別していた。冒険仲間のクレインと共に購入したこの小さい納屋は街外れの畑の隣にあった。モアとクレインは2年前から組むようになった若い冒険者だ。二人だけで数々の冒険をこなしてきた。 1
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 冒険の中でたくさんの戦利品や資産を手に入れてきた。この納屋は泥棒よけの金庫の魔法がかけられ、所有者であるモアかクレインでないと立ち入ることはできない。様々な貴重品やがらくたがこの納屋に押し込められていた。 2
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 しかし長い冒険の中でその所有物は膨れ上がり、狭い納屋はかなり手狭になっていた。最近は冒険に出る前にこうして納屋の空きを作らねばならなくなっている。 「これも……必要だしなぁ。これは……もうすぐ高値で売れそうな気がするし」 3
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 モアが納屋で格闘しているそのとき、納屋に近づくひとりの男の影があった。彼は青白いフード付きローブを着ており、手から鎖に繋がれた香炉をぶら下げている。香炉が左右に揺れるたび、魂が甦るという迷信のあるギズク香の香りが広がる。 4
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 香炉の揺れる音を聞きモアは納屋の外に出た。その男はモアのよく知る人物である。 「クレイン、荷物が大変だよ」  そう、彼女の冒険仲間であるクレインそのひとだ。クレインはフードの中から顔をのぞかせた。精悍な青年で、口を布で覆っている。 5
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「新しい家が欲しいね。ああ、モア。それは捨てちゃダメだよ」  クレインはモアの持つ陶器の人形を指差す。モアはむーっとして言い返す。 「これはいらないでしょ、これは……もう納屋がパンクしそうなの」 「どうしたもんかな……」 6
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 収入が多ければ納屋の一つや二つ簡単に手に入るだろう。そして冒険者という職業は危険と引き換えにいくらでも金を稼げるものだ。だが、この若い冒険者のふたりはいささか問題があった。 7
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 第一に、モアはそれほど強くない。ダンジョンで非合法に物漁りをしていた過去を持つが、彼女にあったのは運だけだ。正式に冒険者になってからも彼女は大変な目にあってきた。度々大けがをしてはクレインの看病で復活している。 8
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 そしてクレインだが、彼は珍しくも神を信仰する神官だ。クルクックスという彼の信じる神は信者に生物の殺傷を禁じている。そのため、まともに戦えないモアにわざわざ戦ってもらっているのだ。サポートはするが効率は悪い。 9
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 欠けた夫婦茶碗のような二人だったが、だからこそなのかその絆は深かった。すぐに金にならないようながらくたばかり積み上がっていくが、二人はそれで幸せだった。たまに喧嘩もするが、二人の絆は壊れることはない。 10
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「ん、そういえば……」  クレインは街をまわっている際、一つの話を聞いてきたのだ。それを話し合うため、この納屋で作業しているモアを訪ねたのだ。 「何、新しい冒険の話?」 「いや、ちょっと変わった話さ。聞いてくれ。あの丘の上に館があるだろう……」 11
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 その館は年老いた紳士の住む家だった。大きな屋敷で、紳士がひとりで住んでいるようだった。奇妙なことに、館の窓という窓にはカーテンが下ろされている。不思議な紺色の煉瓦で出来ており、暗い緑色の漆喰で固められていた。 12
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 館は昔からあったという。しかし年月を感じさせないほど館はしっかりした作りで、壁や屋根が崩れているというところはなかった。奇妙なのは外見だけではない。数年前、土地調査の一環で街の役人が館に立ち入った事がある。 13
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 そのとき役人たちが見たものは、館に所狭しと並べられた生物標本の山だったという話だ。噂話にすぎないが、街のひとはその館を気味悪がって丘に近寄ろうとしない。噂が噂を呼び、館に入った泥棒が骨と皮だけになって帰って来たとかまで言われている。 14
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「あの不気味な館がどうしたの?」 「あそこ……館を譲渡するって話が出てきてるんだ」  それは奇妙な話だった。館の主人が最近突然館を明け渡そうと言い出したのだ。しかしそれには一つの奇妙な条件があった。 15
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「ひと組の夫婦にのみ、館を明け渡すって言うんだ」  しかもそれは夫婦なら誰でもいいという話ではない。すでに何組かの物好きな夫婦が館を訪れたのだが、館の紳士は出会うなり追い返してしまったというのだ。 16
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「奇妙な話ね……何か条件があるのかしら」  街のひとは狂言の類かと思ったが、紳士はというと違う夫婦を連れてきてほしいと何度も頼んでいるという。しかも、資産まで渡すと言ってきたのだ。 17
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 全く持って不思議な話だった。何故夫婦なのか、何故追い返しているのか……しかしモアはここで意地悪く笑った。館はかなり大きい。もし館を手に入れることが出来たなら、この大量の荷物も何とかなるのではないか。 18
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「資産を渡すって、どれくらいなの?」 「100帝国ポンドはあるそうだ」  モアは飛びあがりそうなほど喜んだ。普通のひとより所得が高い冒険者、その冒険者ですら手にすることの少ない大金だ。 19
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 ニヤニヤが止まらないモアを見て、クレインは訝しんだ。 「モア、夫婦に限るんだよ? 婚活でもするつもりかい」  モアはそれを聞き、むっとした顔になってクレインに言った。 「何言ってんのクレイン。あなたにも協力してもらうよ」 20
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 クレインはまさかと思った。モアはクレインと夫婦になるというのだ。 「え、ええ、モア、君と!?」 「何照れてんの」  モアはやれやれといった顔で今回の計画を説明した。夫婦でないとダメならば夫婦になればいい。 21
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 ただし実際に夫婦の契りを交わす必要はないという。これは非合法に遺跡漁りをしてきたモアの知識だ。少し非合法な方法を使うのである。そう、偽装結婚だ。この館をもらうためだけに書類上で結婚をし、館の権利が移ってしばらくたった頃合いを見計らって離婚するという。 22
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「モア、君はだいぶしたたかに生きてきたんだね……」 「私が実行するのは初めてだけどね。そういう話はよく聞くよ。政府の補助金目当てだとか、遺産分配だとかで」  モアは仮とはいえクレインと入籍することに何のためらいも無いように見えた。 23
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