【twitter小説】標本の館#1【ファンタジー】

若い冒険者であるモアとクレインは、ある不思議な館の譲渡の話を聞く。奇妙なことに夫婦であることを条件として譲渡するというのだ。モアとクレインは夫婦ではないが――? 小説アカウント@decay_world で公開したファンタジー小説です。この話は#4まで続きます
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減衰世界 @decay_world

 それが純情なクレインには少し奇妙に映った。クレインは神官として神殿で長い時間を過ごし、そういうことにはてんで不器用なのだ。しかし入籍が嫌というわけではない。良き相棒としてクレインはモアのことを誰よりも信頼していた。 24

2013-10-02 15:29:05
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「でもモア、いままで何組もの夫婦が追い返されてるんだよ。偽りの僕らが認められるとは……」 「あら、クレイン。あなたのその確信はどこから来るの? それは誰にも分からないはずだよ。ならやってみなくちゃ」  モアは愛用のゴーグル付きヘルメットを脱ぎ納屋にしまった。 25

2013-10-02 15:33:35
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「まともな服を着なくちゃね。ほら、前スーツを買ったでしょ。まだ納屋に眠ってるはずだよ。この衣装箪笥かな……」  モアはすっかり乗り気のようだ。早くも準備を始めている。モアの行動力にはいつも驚かされる。 26

2013-10-02 15:38:29
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「モア、とりあえず明日にしよう。今日はもう日が暮れてしまうよ」 「あらそう、じゃあ明日の準備を始めようよ!」  クレインは驚いたが、ふっと笑ってモアの好きにさせることにした。モアはいつだってクレインを引っ張ってくれるのだ。 27

2013-10-02 15:42:23
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 最初は些細な出会いだった。偶然の出会いは二人を木綿のような細い糸で結びつけた。しかし知れば知るほど、話せば話すほど、道を歩めば歩むほど二人はかけがえのない二人となっていった。 28

2013-10-02 15:49:42
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 まるで偶然隣に芽吹いた木の芽が根を絡ませ一つの大樹となるように、二人は強く結びついた。二人は男と女であり、恋愛する余地はあったが二人は何故かそこには踏み込まなかった。この点に関しては二人はお互いの領域を守っていたのかもしれない。 29

2013-10-02 15:54:34
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 だからこそ、今回の偽装結婚がクレインにとって少しルール違反のように思えてならなかった。嫌でもないし不快でもない。ただ二人の間にある微妙なバランスが崩れてしまいそうな、そんな危険行為に思えたのだ。 30

2013-10-02 15:58:59
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 クレインは思案した。自分のこの浮世離れした思考は自分でもどうかと思っている。悩ましい、悩ましいと思いながらも結局はモアの提案を呑むことにした。こういうときどうかしているのは大抵自分の方なのだ。 31

2013-10-02 16:02:14
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 モアはいつもよくやってくれる。これもまた二人の間にできたルールだったのかもしれない。 32

2013-10-02 16:06:01