ツイッター小説 お気に入りセレクト 2010/10/10
「修学旅行の写真、見せて」「ああ、うん」曖昧な返事に、これは何かある、と読んだ。「あまり上手く撮れてないよ」言い訳する彼から写真を奪い、私は予想通りの惨状に脱力する。「虫ばかりじゃん!」「初めて見る種が沢山いて、つい」昆虫好きには、修学旅行さえも観察の場なのか。 #twnovel
2010-10-10 00:11:48三つの願いを聞くというので、余りにも忙しかった彼は言った。「時間が欲しい」「プレイボールの声を聞きたくない」「悪魔は二度と俺の邪魔をするな」。世界にタイムがかけられた。誰もプレイ再開を宣言しない。世界は、こうして凍りついた。 #twnovel
2010-10-10 02:00:54#twnovel 僕はついに仇を追いつめた。「最後に一つ、言い残したことがあれば聞いてやる」「無いが、代わりに最期に1本、煙草を吸わせてくれ」僕は許した。「お前は煙草を持ってるか?」「僕は吸わないから持ってない」「俺もだ。一生に一回は吸ってみたかったんだが」それが彼の遺言だった。
2010-10-10 03:23:42#twnovel 雨の日には彼等が出歩く。しかし誰も気が付かない。彼等の足音は雨音にかき消されるから。彼等は何者なのか、誰も知らない。傘を傾けた時、雨の向こう、通りの向こうに人影が見えることがある。気が付けばもういない。どこか懐かしく愛しい。彼等は常に、影のままだ。
2010-10-10 09:24:17「指輪」聖誕夜、空から一個の指輪が十二丁目の交差点に落ちてきた。指輪がはねたとたん、あたりの街が巻き取られるように指輪に吸いこまれ、午前零時の鐘の鳴るころには街はもうなくなっていた。そこを通りかかった猫が指輪をくわえると、そのまま新月のほうへ歩いていった。 #twnovel
2010-10-10 09:25:13#twnovel 夜中の2時22分22秒に学校の廊下にある大きな古時計の前に立つと、死んだ者に会えるという。友達がどうしても行くというので、気になって付いてきてしてしまった。2時22分22秒。すると突然、友達が僕の顔を見て、目を信じられないくらいに見開いた。
2010-10-10 10:24:35「光と物質の捉え方はもっと。。。」博士が言っていたことを時々思い出す。そんな博士が失踪。有名な人だったんでニュースでも流れた。それを見ながら僕は複雑だった。居場所を知っているから。鏡の向こうの見えにくい角度、端の方でいたずらっぽく手を振る博士を時々見掛ける。 #twnovel
2010-10-10 12:07:26#twnovel 私は特異体質で五年に一度脱皮する。脱皮した後は肌がすべすべで、目元や口元もくっりきと彫りが深くなり脱皮前より美人になるのだが、脱皮直前が最悪。一ヶ月前から酷い日焼けの後のような茶色のかさついた皮膚が日に日に濃さを増し脱皮当日は二百歳の老婆のような皮膚になるのだ。
2010-10-10 12:09:15ため息をつく事を生業にしている。正確には、ため息の代行業だ。疲労、心配、不安。人がため息をつくその前に、私が代わるのだ。「顔色が悪く、今にも倒れそう」な顔でため息をつく私をみると、息を飲み込んで私のために言ってくれるのだ。「大丈夫ですか」うん、もう大丈夫だ。 #twnovel
2010-10-10 12:13:45#twnovel 貴方と同じ位大切な人が出来たと告げたら、どんな顔をするかしら。浮気だ、なんて膨れっ面したりしてね?だってどちらかを選ぶなんて私には出来ないわ。二人共、自分以上に大切だし愛しているの。きっと、貴方もそう思ってくれるでしょう?ほら。この子もお腹の中でお返事してるわ。
2010-10-10 14:23:09話を聞くときいつも「ほうほう」と言う彼のあだ名はフクロウだった。昨日は深夜までバイトだったから、と試験開始早々に居眠りを始めた彼の答案は、どういうわけか私よりも丸印が多く描かれて返ってきた。また居眠りをしていた彼の後頭部を私ははたいて、何食わぬ顔で通り過ぎた。 #twnovel
2010-10-10 15:05:41僕の大好きな年上のあの人は「この世のもの全てに興味がなくなっちゃった」と言う。それが僕にはとても哀しくて、何度も彼女の唇に僕の唇を押し付けてみたけれど、彼女はただ「ごめんね」って悲しそうに笑うだけだった。 #twnovel 生きながらにして眠り姫。その目覚めは、永遠に、来ない
2010-10-10 15:14:40要領よく流暢に語る必要はないから。凸凸と話すんでいい。オシャレでなくたって朴凸だって全然構わない。ただ掌を返すように凸然素っ気なくするのは凹むからやめてね。あなたが笑っていてくれるだけでわたしの気持ちは凸むんだから #twnovel
2010-10-10 16:51:37彼が出て行って一週間。気がついてみると、部屋の中はモノで溢れてる。洋服や靴やバッグや化粧品。私の知らないブランドばかり。きっと彼は、モノでしか愛情を表現できない人だったのだろう。だから私の許を去ったのだろう。そして、きっと次の女の子にも同じことをするのだろう。 #twnovel
2010-10-10 17:19:19#twnovel 大きな大きな団栗を見付けたので栗鼠達は大喜び、これで今年の冬は乗り越えられると思いました。何とか木の穴蔵に押し込んでから冬を過ごすと、団栗の中から虫が一匹出てきました。「僕も食べていてもいいよね」「うん」寒さは温かさを呼びます。みんなで仲好く春を迎えたのでした。
2010-10-10 17:31:30#twnovel 不思議なノートを見つけた。僕の子供の頃からのことが書いてある。過去だけでなく未来のことまで書いてあった。大学、就職、結婚、定年…一気に読み進んだ。ふと気がつくといつの間にか自分が老人になっていた。「おじいちゃん、また自分の日記読み返して驚いてるの?」
2010-10-10 19:45:11縁側に座って晩酌するのが好きだ。庭のハナミズキを見つめながら、父からくすねてきた日本酒を飲む。わん、と鳴き声。一匹の犬が迷い込んできた。「呑む?」聞いてみるが、木の下で警戒する顔。その顔と、つぶらな瞳と、黒い毛並みが三日前に別れた恋人に似ていて、少し寂しくなった #twnovel
2010-10-10 19:50:38#twnovel 私たちとあなた方はギブアンドテイク。あなた方は、雨風や犬たちから身を守れる住みかを与える。美味しくないバランスのいい食事をくれる。好き勝手にする自由は当然よね。ギブばっかり? 私たちの姿やしぐさ、ときどき撫でさせてあげる手触りで、どれだけ癒されてるっていうのさ。
2010-10-10 19:57:36「旅行どうする?」「そうね、誕生石ならルビーなの」「今の時期、京都とか素敵だと思わない?」「そうね、誕生石ならルビーなの」「あっ、ここ行きたい。豆腐が食べられるのよ」「そうね、誕生石ならルビーなの」 #twnovel
2010-10-10 20:05:24月曜の朝、慣れた気怠さでクローゼットを開けるとそこには宇宙があった。星々が煌き銀河が広がるその光景に私は息を呑んだ。私の毎日は楽になった。巨視が身についた私に日頃の苦しみなど瑣末な物でしかなかったのだ。そして私は仕事も人付合いも辞め今もクローゼットの前にいる。 #twnovel
2010-10-10 21:11:37目を醒ますと隣に彼の姿が無かった。先に起きたのかと思いつつ着替えて居間に移動しても彼の気配はない。ふとソファに視線を向けると走り書きのメモがあった。ごめん、仕事が入った。溜息をつく。長袖に着替えようか。半袖じゃ一人の時間は寒すぎる。それから別れの電話をしよう。 #twnovel
2010-10-10 21:44:22#twnovel 公園のベンチに並んで僕たちは愛を語っていたわけではない。隣の独居老人をどのように殺してあげるのがいいか。向かいの大学生にはどんな死がお似合いか。僕たちが命を絶つべき方法は。何十年毎日毎日語ってきた。そして今僕は一人で考えている。如何にして君の後を追うべきか。
2010-10-10 22:51:20朝の庭、新鮮な空気を胸一杯吸い込んでいると、足元でしくしく泣き声が。見ると小さな袋を抱えた小人達。「病の姫様に香袋をと思うたのに、雨が金木犀を洗い流してしもうた」「あー…」暫くううむと考えて、あ、「少し待ってて」その夜。「ね、トイレの芳香剤知らない?」「さあ?」 #twnovel
2010-10-10 23:16:33#twnovel 金木犀の香りが漂う季節になった。ふと気づけば金木犀の並木。小さな橙の花が音もなく道に降るのを見ると、高校の頃に付き合っていた彼女を思い出す。この香りの下で手を繋ぎ歩いた頃。髪に降った橙の花に訳もなく笑った頃。息子の方があの頃の歳に近いというのに、まだ、胸が痛い。
2010-10-10 23:37:29