ストレイトロード:ルート140(1周目)
- Rista_Bakeya
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空の上から帰還し平原に降り立つ。忘れていた重力が体を縛り、目の前に迫る牙から逃れる術を奪う。仲間は食われた、次は自分だ…覚悟を決めた直後に目が覚めた。またあの夢。しかしやけに体が重いと思ったら、腹の上に見覚えのあるキャリーバッグが乗っていた。そして持ち主の、藍の姿が見当たらない。
2013-10-26 22:10:07藍は子供だ。誰の目にも疑う余地がなく、それ故に時折困ったことになる。身内でも養女でもない少女を連れた男は今日も警官に呼び止められた。「私が連れ歩いてるのに、なんであんな風に言われるの」当の藍は怒る。「何も知らないって決めつけて。他の可能性も予想してよね」大人には少々無茶な注文だ。
2013-10-27 23:35:27視界の端に閃光を見た直後、雷鳴が車内の空気も震わせた。藍が小さく悲鳴を上げ、わずかに開けていた助手席側の窓を閉めながら聞いてくる。「ここ危ない。どこかに避難して」「大丈夫ですよ。むしろ車から出ない方が安全です」「車に雷落ちたらどうするの!?」さて、勉強嫌いの彼女にどう説明しよう。
2013-10-28 23:25:01今夜の宿では部屋にキッチンがあった。明日の朝食の下ごしらえをしていると、いつの間にか藍が横から私の手元を見ていた。「どうしました?」「覚えたいの。最近思ったんだけど、料理も出来ないまま大人になるってカッコ悪いでしょ?」教えて、と言えばいいのに何故かそうしない。ただじっと見ている。
2013-10-29 23:04:43訪れた家は静まりかえっていた。藍は呼び鈴を鳴らし、少し待ってから迷いなく踵を返した。理由を聞くと、留守だと言う。「人が暮らしてる空気が流れて来ないの」それは一般的に“読まれる”空気とは違う意味だろう。「また信じてない顔してる。証拠欲しい?中で水道か何かのメーター見たら分かるわよ」
2013-10-31 00:24:00平原を貫く線路を列車が駆け抜ける。私達の車はその左側に敷かれた道を並走している。藍は窓を大きく開け、客車に向けて懸命に手を振っているらしい。私は顔の右側に風とはしゃぎ声を浴びながらハンドルを握る。もうすぐ分岐点だ。列車は南へ直進、車は東へ左折。藍は直射日光を目に浴びることだろう。
2013-11-01 09:12:55藍が急に走り出し、路地裏に入っていった。石畳を軽快に駆ける靴音は坂の下へと向かったようだ。私は一度彼女を見失ったが、坂の中腹にいた子供たちが目を丸くして脇道を見つめる様子に気づき、程なく見慣れた後ろ姿を見つけ出した。「あなたのせいで見失った」声をかけようとして、悔しげに言われた。
2013-11-01 23:57:53喫茶店の一角に居座ること一時間、私達は一言も話していない。藍が衝立の裏側に聞き耳を立てているからだが、残念ながら私に彼女の目当ての会話は聞こえない。自分の真後ろに座る顔も知らない人の声、誰かの悪口が全てをかき消す。藍の表情を見ると、どうもそちらもあまり気分のいい話ではないらしい。
2013-11-03 00:06:55「この世界に生まれてきて、恩を感じてる?それとも怨み?」「何です急に」「昔聞かれたことがあるの。ゼファールはどっち?」「そうですね、良い事も悪い事もありましたから一概には…」「そう。わたしは怨んでる。何もかも思い通りにならないから面白くない。だから一度この世界に痛い目見せたいの」
2013-11-03 22:34:36140文字で描く練習、45。恩。 問題は動機の善し悪しではなく、それがどれだけ強い原動力になるのかということ。
2013-11-03 22:35:55「わたしも生まれた時は普通の子だったのよ」藍は助手席の窓を開けた。止まった空気が彼女の一呼吸で風に変わる。「ある程度育ってから目覚めるんですか。土の中で育った蝉が地上に出てくるのに似ていますね」「え?蝉って一生木の上にいて、下に落ちたら死ぬんでしょ?」一瞬目の前が真っ暗になった。
2013-11-04 21:31:47140文字で描く練習、46。蝉。 今回のテーマは紙箱みど(@middleady)さんから頂きました。えーと、何というか、ごめんなさい(…
2013-11-04 21:32:27人間とばかり向き合えばすぐ欺瞞に直面する。生きる為に出し抜き、守る為に陥れる。そんな言葉の応酬の記録に目を通した藍は一言、「都合のいいことしか書いてない。使えないわ」ここは図書館だ。私は声が大きいと注意してから肩をすくめた。口先でどうとでもなる存在など彼女の眼中にはないのだろう。
2013-11-05 22:21:01140文字で描く練習、47。欺瞞。 くー(@Ku_373)さんから頂いたお題でひとつ。 大きいテーマほど字数制限との戦いは熾烈になる。
2013-11-05 22:21:57ホテルのフロント前で従業員の女性に周辺の道路のことを聞いていたら、藍が急に割り込んできた。「何してるの。急ぐんだから早く行かないと」手を引かれ連れて行かれる途中、その女性に小声で言われた。「娘さん、ヤキモチ焼いてるみたいですよ」間柄の話はともかく、何への嫉妬なのか見当がつかない。
2013-11-06 22:12:35