マスター・オブ・カブキ・イントリーグ #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
3
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

オーガニック樹木のエッセンスが配合された神秘的なスモークがホールを満たす。拍子木に掛け声。幕が上がり、舞台袖では厳めしい顔の老人がシャミセンを爪弾く。カブキ・ショウが再び幕を開けるのだ。 22

2013-11-20 22:34:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

舞台は溶岩流が吹き出す火山の裾野。この奥ゆかしいスモークは噴煙を再現していたのだ。「ウハハハハハ!ウハハハハハハ!」凶悪なサスマタを持った豚人間、ハカイが村娘を相手に暴虐の限りを尽くす。ブラックメタルじみた白塗りメイクと、洗練された大仰なムービング……それがカブキの特徴だ。 23

2013-11-20 22:42:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヨオーッ!」そこへ颯爽と現れたのは黄金の毛と赤い顔を持つマジックモンキー。「スゴイ!」「ヨンダイメ!」客席からは粋な掛け声!彼が破壊の武器ニョイボでこれを打擲すると、ハカイはあえなく降参した。「あいすまぬ!あいすまぬ!」「イヨオーッ!イヨ!イヨオーッ!」だが打擲は続く。 24

2013-11-20 22:48:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あいすまぬ!あいすまぬ!」「イヨオーッ!イヨ!イヨオーッ!」打擲は続く。彼は暴力に魅了されてしまったのだ。「あいや待たれよ!」偉大なるボンズ、サンゾが仲裁する。彼はマジックモンキーの主だ。「それなる豚は悔い改め、ロード・ブッダに帰依しようとしておるに、何故なおも叩くか?」 25

2013-11-20 22:55:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヨオーッ!イヨ!イヨオーッ!」なおも打擲は続く。サンゾは両手を合わせ、何やらネンブツめいたチャントを唱えた。するとマジックモンキーは頭に嵌められた輪を押さえて苦しみ始めたではないか。「シバラク!シバラク!アアアアアアアーッ!」その迫真の演技に、観客たちは思わず息を呑む。 26

2013-11-20 23:02:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『兄さん、なんでマジックモンキーは苦しみ出した?』『あれはボンズが唱えたパワーワードに反応して、頭に嵌めた拷問の輪がマンリキじみた力で締まり出したのだ』『全然説明が無かったな』『カブキってのはそういうものだ』観客席の中程で、その双子は声を発することなく意思を疎通させていた。 27

2013-11-20 23:08:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『そうだったな』弟はカブキから目を離さず、しかしすぐ近くに兄の存在を感じる。超自然的リンクだ。『こんなに楽しいものだったなんて』かつてザイバツの経営するホールで何度もカブキを鑑賞させられた。当時は抑圧された自由と恐怖と諦観だけがあった。『俺たちにはこういう時間が足りなかった』28

2013-11-20 23:20:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ここはガイオン中央カブキ・ホール。本日の演目は、大いなるマジックモンキーの物語。正体を隠し、一般市民や観光客に混じってこれを観劇するのは、アンバサダーとディプロマット……双子のニンジャである。彼らはかつてザイバツに強制的に仕えさせられ、引き離され、互いを人質に取られた。 29

2013-11-20 23:27:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だがネオサイタマの死神が振るった決死のカラテにより、キョート共和国を襲ったヘルオンアースは幕引きとなり、ザイバツ・シャドーギルドによる暗黒支配体制は瓦解した。自由を取り戻した双子はガイオンの外に庵を開き、ニンジャからもモータルからも隠れ、暫くそこで従者らとともに傷を癒した。 30

2013-11-20 23:35:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

舞台ではハカイがサンゾに弟子入りし、戒めを解かれたマジックモンキーは雲の上で不貞腐れていた。予定調和の結末。「スゴイ!」「ヨンダイメ!」だが観客は満足する。「「ヨンダイメ!」」兄弟もモータルたちの掛け声に混じる。彼らはささやかな幸福の中にあった。幕が閉じ、再び幕間となった。 31

2013-11-20 23:51:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヴァレイ・オブ・センジンにほど近い荒野。コールタールで塗り潰されたかのような暗雲が上空を覆っていた。雷光に続いてわっと降り出した重金属酸性雨が、死屍累々のがれ場を濡らす。そこに転がるのは、湯気が上がるほど真新しい死体ばかり。 33

2013-11-21 00:00:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

最新鋭の汚染防護服を着た4人のエージェントがその中を歩き、レポートを作成する。彼らは一様に大型ヘルメットを被り、顔を覆い隠す液晶グラス面には青色LED文字が流れる。「オペレイション・マジックモンキー、案件番号ほ33014号」「フェイズ13、クリア」「非常に素晴らしい経過です」34

2013-11-21 00:08:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガガガーガガガガガー。大型機械を背負ったエージェントが、手に持った計測器を四方に向ける。反応無し。「ニューク汚染なども確かに無いので凄いです」「ヤッタ」「エコそのものですね」「タールは燃えます」「そのくらいはいいでしょう」「理想的な兵器と言えます」青色LED文字が流れる。 35

2013-11-21 00:17:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「端子手術も完璧で安全です」「あの少女型も早く捕獲されればいいんですが」「アイエッ」斜面に立つ防護服男の一人が、百メートル先、災禍の中心を見下ろした。死体渦の中心で気怠そうに立ち尽くす人影を。「何か」「こちらを睨んだ気が」「気のせいです」「安全と解っていてもやはり不安ですね」36

2013-11-21 00:26:46