王子が髪を切った理由

2013/11/23の妄想です。 これは僕と君の初めてのデートかもしれないし、新婚旅行かもしれないし、長い長いプロポーズなのかもしれない。 ※本人とは一切関係ありません。
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ちよこ @nmnmnm47

王様は経済的支援を求めて隣国の姫と自国の王子を結婚させようとしていた。姫も王子を愛し、隣国の国王も相手国王や国民の朗らかで明るい性格を認め円満な結婚が期待されていた。しかし、王子だけが浮かない顔だったのだ。

2013-11-22 22:53:12
ちよこ @nmnmnm47

王子は、彼女を愛していた。彼女とは城に仕えるひとりの掃除婦。掃除婦などこの城にまさに掃き捨てられるほどいるのに、王子はたったひとりの彼女に恋に落ち、またその彼女も王子のひたむきな愛に惹かれたのだった。

2013-11-22 22:56:43
ちよこ @nmnmnm47

王子も馬鹿ではなかった。姫とは愛し合うという“ごっこ遊び”を適当にした。廊下で彼女を見かけても話しかけはせず、周りの掃除婦と一緒になって、おはようございます、王子、と頭を深く下げる彼女に愛を込めた少しの微笑みを与えるだけだった。

2013-11-22 23:04:03
ちよこ @nmnmnm47

この城に住み込みで働く彼女は誰にも見つからないように離れの小屋を抜け出し、毎晩王子のところに会いに来ていた。ノックの音が聞こえるたび王子の胸は高鳴り、冷えた廊下を音を立てずにやってきた彼女をそっと抱きしめて、よく来てくれたね、と囁くのだった。

2013-11-22 23:09:54
ちよこ @nmnmnm47

このときばかりは王子がおもてなしをしてあたたかいハーブティーを淹れた。彼女ははじめそれに戸惑ってしまったが、いつも違う味がするハーブティーが心まで温めた。それから二人はソファに座って話をしたり、キスをしたりした。それから少し眠って、掃除婦たちが起きる時間までに彼女を小屋に帰した。

2013-11-22 23:18:32
ちよこ @nmnmnm47

『王子が髪を切った理由』

2013-11-22 23:20:44
ちよこ @nmnmnm47

彼女の今日の仕事は窓拭きから始まった。城には彼女の身長をゆうに越すガラス窓がたくさんあったし、水仕事で彼女の手はガサガサに皮がめくれていた。ふと外を見ると、テラスに姫とお茶を飲む王子の姿があった。僕は姫と結婚するつもりなんてない、君なんだよ、という台詞がよぎり、胸が痛む。

2013-11-22 23:28:36
ちよこ @nmnmnm47

あなた、仕事に集中なさい。背後から声がしてギョッと振り返る。掃除婦長の次に偉い女性だ。もしかして、王子に惚れるなんて、そんなことはありませんね?と恐い顔で訊かれる。それは、もちろん、王子のことは尊敬していますし、見惚れてしまうのは当然ではないでしょうか、と返した。

2013-11-22 23:38:24
ちよこ @nmnmnm47

そうですか、仕事はちゃんとするように。と立ち去った掃除婦に礼をしようとした瞬間、掃除婦のずっと向こうでこっちを見ながらこそこそ話をしているメイドたちの姿が見えた。 すべて、知られていた。

2013-11-22 23:41:12
ちよこ @nmnmnm47

それからというもの、メイドが運ぶお茶をすれ違いざまにかけられた。掃除が行き届いていないのを掃除婦たちが彼女のせいにした。掃除婦たちの小屋から彼女の持ち物がなくなった。何人かのメイドに連れ出されて罵られた。王子と会えなくなることが、何より辛かった。

2013-11-22 23:46:49
ちよこ @nmnmnm47

一晩彼女が部屋に現れないだけで、王子は心配でたまらなかった。彼女は掃除で疲れているのだろうか。彼女は風邪でも引いたのだろうか。…彼女は僕を嫌いになったのだろうか?…眠れなかった。国王に黙ってこっそり買ったロックのレコードを蓄音機に乗せて、おとをできるだけ小さくして聴いた。

2013-11-22 23:51:02
ちよこ @nmnmnm47

それから毎晩彼女は現れなかった。この広い城の中ですれ違うことなんて今までもほとんどなかった。最近様子が変よ、大丈夫?と訊く姫の声も耳に入らず、魂の抜けたような生活をしていた。

2013-11-22 23:56:47
ちよこ @nmnmnm47

これからは朝に城の中を散歩することにしたよ、ひとりで構わないから君は自由にしててくれ、と執事に命令し城をくまなく歩き回った。やっと、見つけた。5日ぶりに見たその顔は少し痩せていて、目元にはくまが目立った。制服も前より汚れたような感じがする。

2013-11-23 00:00:24
ちよこ @nmnmnm47

廊下で王子とすれ違ったときの決まり通りにおはようございます、王子と頭を下げかけるのを制止して手を取って誰にも見られないところに移動した。何があった?僕が嫌いになった?愛が怖くなった?そんなに聞いても答えられないのはわかってる。彼女は王子の目を見て、涙を零した。

2013-11-23 00:05:15
ちよこ @nmnmnm47

全部知られていたのです、彼女が絞り出した言葉はこれだけだった。彼女を抱きしめて頭を撫でた。王子まで涙が出そうだった。落ち着いたころ、人目がないのを見計らって誰も来ない地下室に彼女と降りた。そこで少しずつこの5日間のすべてを話し始めた。

2013-11-23 00:11:13
ちよこ @nmnmnm47

掃除婦もメイドもシェフも、知っていたようです、もはや知らないのは執事と国王様と王妃様と姫様と…掃除婦長くらいでしょう。掃除婦長に知られてはわたしはすぐやめさせられていました。知らせずにわたしのことを虐めて、楽しんでいたのだと思います、でもきっと、やめさせられるのも時間の問題です。

2013-11-23 00:16:39
ちよこ @nmnmnm47

そう彼女は俯き気味に王子に伝えた。どんな虐めを受けていたかなんて、彼女の姿を見ればわかる。王子は何も言葉がかけられない自分が情けなく思えた。いますぐにでもこの部屋を出て彼女を虐めた全員に職を辞するよう命令したかった。それでは王によって彼女ひとりがポイと棄てられることは目に見える。

2013-11-23 00:22:27
ちよこ @nmnmnm47

二人で、ここを出よう

2013-11-23 00:23:45
ちよこ @nmnmnm47

彼女の冷えた、かさついた手を握って、王子は言った。二人でここを出て、一緒に暮らすんだ。どんなに貧乏だって構わない。僕には君がいればいい。それでいいんだ。彼女は王子の決意の目を、その強くて涙ぐんだ黒い目を見た。決行は夜でも少し明るい、明後日の満月の夜だ。そう言って王子は微笑んだ。

2013-11-23 00:31:19
ちよこ @nmnmnm47

まだ虐めを受けるかもしれないが、明後日までの辛抱だと思って仕事をしてほしい。明後日の夜12時に庭の茂みに隠れた花時計の前で待ち合わせよう。わかったね?じゃあ、仕事に戻って、とおしい気持ちを抑えて王子は言った。キスをして、彼女は出て行った。

2013-11-23 00:38:08
ちよこ @nmnmnm47

掃除の持ち場に戻った彼女はただ、明後日の夜が晴れることを祈った。ゴミの入った袋を運んでいるとき、掃除婦長が彼女の名前を呼んだ。こちらに来なさい、と。

2013-11-23 00:40:58
ちよこ @nmnmnm47

駆け落ちが明日に迫った。彼女と夜に会えなくなってから毎晩聴いているレコードをまたかける。いつも大声で歌い出したくなる。昨日までは悲しみで、今日は、明日への希望で。窓を開けて外に向けて歌ったらバレないかな。王子は勢いよく窓を開けた。下を見ると、よく見覚えのある背中が目に入った。

2013-11-23 00:47:42
ちよこ @nmnmnm47

彼女だ。駆け落ちの日付を間違えているのだろうか?急いで階段を降りて外へと向かう。上着も着ずに外へ出ると、彼女は大きな門扉を開けるところでだった。どこ行くんだ?と大声で彼女の名前を呼ぶ。王子の部屋からかけたままのレコードの音がぼんやり聴こえてくる。

2013-11-23 00:51:13
ちよこ @nmnmnm47

来ないでください!そんな大声を出す彼女は初めてだった。無視して近づいて、腕を掴んだ。彼女は逃げなかった。なんで、と掠れた声で王子は訊いた。辞めさせられました、ついに、王にも知られたんです、ごめんなさい。彼女は静かに王子の手を払った。

2013-11-23 00:54:58
ちよこ @nmnmnm47

王様と掃除婦長に、王子には言わずに出て行くよう言われました、当たり前ですよね、まあ、失敗しちゃいましたけど…続けようとした彼女を止めるように王子は、わかった。変更だ。今日にしよう。駆け落ちは今日にする、と言った。ただし、準備がいる。君にも手伝って欲しい。と手を引いて部屋へ招いた。

2013-11-23 00:58:48
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