王子が髪を切った理由

2013/11/23の妄想です。 これは僕と君の初めてのデートかもしれないし、新婚旅行かもしれないし、長い長いプロポーズなのかもしれない。 ※本人とは一切関係ありません。
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ちよこ @nmnmnm47

王子は早速クローゼットの中で一番ぼろぼろの鞄を取り出して、服を何着か入れた。レコードを入れようかと思ったが、入らなくて諦めた。お金も少しばかり入れた。ふう、と息をつくと、王子は微笑んでこう言った。よし、ここからが君の出番だ。君に僕の髪を切って欲しい。

2013-11-23 01:04:23
ちよこ @nmnmnm47

長く延びた襟足を指差す。いいんですか?と縮こまって、彼女は訊く。いいよ、このままで外に出れば簡単に国民にばれてしまうよ。変装さ。なんなら付け髭でもつけようか?妙に王子はおどけていた。さあ、切って。彼女にはさみを手渡す。真っ黒な髪にはさみを入れると、いとも簡単に落ちて行った。

2013-11-23 01:09:14
ちよこ @nmnmnm47

王子は荷物を持ち、彼女の手を引いて城を後にした。

2013-11-23 01:12:31
ちよこ @nmnmnm47

城が見えなくなったころ、どうかな?似合う?と王子は満面の笑みを彼女に向けた。似合います、とっても!と言うと、もう、敬語はやめてくれ、僕達は今日から夫婦なんだ、とささやくような声で言った。持ってきた付け髭は案外役に立ち、王子だとわかることなくホテルに泊まることができた。

2013-11-23 01:16:10
ちよこ @nmnmnm47

彼も彼女も、ホテルのせまいベッドだったが久々にぐっすりと眠った。先に目が覚めたのは彼だった。目が覚めて、カーテンを少し開けた。朝がきた。今日から死ぬまで、僕と彼女は一緒。両手を挙げて伸びをして、その場でくるくる回って、喜びを噛み締めた。使い慣れないテレビをつけてチャンネルを回す。

2013-11-23 01:33:22
ちよこ @nmnmnm47

朝から、大ニュースになっていた。王子と掃除婦が駆け落ち。王からのコメント。掃除婦を見つけた者には大金の報酬を。掃除婦は見つけ次第、磔の刑に処する。これくらい予想はしていた。きっともう、騎士たちが彼たちを探しに出ているだろうことも。

2013-11-23 01:36:45
ちよこ @nmnmnm47

テレビの音で彼女が目を覚ましたようで、やっぱり、もう動いているんですね、と彼の背後から声を掛けた。まだ敬語が抜けない。いち早く遠くに行こう。今日の彼は頭にバンダナをまいて、丸メガネをつけた。いままでの彼とは全く違っていた。彼女はホテルの忘れ物の化粧品で可愛く化粧をした。

2013-11-23 01:43:24
ちよこ @nmnmnm47

いままではみすぼらしい格好だったから、それくらい綺麗なほうが変装になるさ、本当に綺麗だよ、彼はそう言って彼女の髪を撫でた。ホテルを出てすぐ、乗合の馬車に乗った。朝が早かったから、まだ乗客はちらほらとしかいなかった。すこし進むと、市街地についた。人混みにいれば、目につきにくい。

2013-11-23 01:47:15
ちよこ @nmnmnm47

少し綺麗すぎて目立つなぁ、と彼は笑う。褒められすぎて彼女は萎縮してしまう。市街地について、少し奥まったところにあるカフェに入って、朝昼兼用のご飯を食べることにした。彼はこんな街中でご飯を食べるのは初めてでお金を払うのさえ戸惑ったが、彼女のフォローでなんとかなった。

2013-11-23 01:51:27
ちよこ @nmnmnm47

ちょっとお手洗いに行ってくるね、と彼女が席を立った。どこにも行かないよね?と彼に尋ねる。もちろん、と彼は頷く。周りにはきっと、付き合いたての少しも離れたくないカップルに見えただろう。国の威信を捨てて駆け落ちした王子と掃除婦になんて、少しも見えなかっただろう。

2013-11-23 01:56:51
ちよこ @nmnmnm47

彼女がお手洗いから出ると、彼がすぐ近寄ってきて、彼女の手を握った。まずい。外に騎士がいる。案外手が早かった。すぐにここを出よう、そこの表通りまでは普通に歩く。裏に入ったら走るんだ。そこからは賭けよう。電車に乗る。電車に乗ってるのがバレたら終わりだが遠くに行ける。

2013-11-23 02:01:33
ちよこ @nmnmnm47

計画通り、不思議な恰好の青年と美人な女性は騎士の隣をすり抜けた、と思った。しかしうまくはいかない。王子だ!!背後から声がする。作戦変更。二人は走り始めた。駅まであと数百メートルある。裏道でどれだけ撒けるだろうか。手に汗をかいても、絶対彼女の手を離さないと彼は誓った。

2013-11-23 02:05:09
ちよこ @nmnmnm47

駅について急いで切符を買う。まだ追手はきていない。一番早く出発する電車を選び飛び乗る、と同時にドアが閉まり、発車した。彼と彼女は顔を見合わせてふぅ、とため息をついて、それからククク、と声を殺して、笑った!

2013-11-23 02:08:37
ちよこ @nmnmnm47

ラッキーなことに、電車は特急電車でグングン進んでいった。どこまで行けるだろうか。席についても、手は離さなかった。この電車に乗る誰が敵かもわからない。車掌が切符の確認にやってきた。彼女が切符を手渡す。ああ、お兄さん、お姉さん、この切符じゃこの電車に乗れないよ?

2013-11-23 02:13:21
ちよこ @nmnmnm47

二人は顔を見合わせた。彼はもちろん、ずっと城で働いていた彼女も電車の乗り方なんて忘れていた。仕方なく次の駅で降りる。ずっと電車でじっとしているのも嫌で、この街を少し歩くことにした。店の中を覗くと、テレビ画面が見える。そこには不思議な恰好をした青年と美人な女性が映っていた。

2013-11-23 02:17:29
ちよこ @nmnmnm47

逃げ場はなくなった。人混みにまぎれることもできない。二人は走って街を出た。走って、走って、どこまで来たのかわからないくらい走って、住宅がまばらにあるところまでやってきた。

2013-11-23 02:20:18
ちよこ @nmnmnm47

そこに、一軒のボロ屋があった。もう足が疲れただろう、こんなところまで騎士は来たりしない。今日は一晩ここで過ごそう。ご飯も何もないけど、と彼は彼女に笑いかけた。笑った時に彼の頬にできる猫のひげみたいな皺が彼女を癒してくれた。

2013-11-23 02:23:09
ちよこ @nmnmnm47

軋むドアを開ける。 「あっ」…誰かいる?

2013-11-23 02:24:22
ちよこ @nmnmnm47

彼と彼女は、その誰かとバッチリ目が合った。とっさに彼は彼女を後ろに隠す。その誰かは二人と目を合わせたまま固まって、まずい、ここ誰かのおうちだったんだ…!と静かに言った。 その男は金髪だった。

2013-11-23 02:28:02
ちよこ @nmnmnm47

埃をかぶった家具が並ぶこの家が誰かのおうちのはずがない。この男は埃をかぶった書棚を動かして後ろにあるものを探っているようだ。すると書棚の後ろから、なにいってんの、こんなとこ人住んでるわけないじゃんうるさいよ、とまだ幼さが残る顔つきの青年が出てきた。

2013-11-23 02:30:59
ちよこ @nmnmnm47

君たち…ここでなにをしてるんだ…?とドアを閉めて彼が男たちに尋ねる。金髪と青年が口ごもる。するとまた書棚の後ろから、今度は小柄な男が出てきた。小柄な男はゆっくり彼に近づいた。近づけるとこまで近づくと目を見開いて、一目散に金髪と青年に駆け寄り、王子だ!!!王子だよ!!と声をあげた。

2013-11-23 02:34:50
ちよこ @nmnmnm47

まずい。いくら変装といっても至近距離には耐えられなかったらしい。金髪と青年は、うそ!王子!?ほんとだ!よくみたら王子だ!握手してください!わー本物だ!かっこいい!!なんでここにいるの!なんでそんなかっこしてんの!と騒いだ。するとまた書棚の後ろから、お前らうるせーよ!!と声がした。

2013-11-23 02:37:41
ちよこ @nmnmnm47

すると今度は長い睫毛が美麗な男が出てきた。書棚の後ろに何があるのか、理解できずに彼と彼女は顔を見合わせた。青年は、王子だよ!!と美麗な男に言った。王子、そうか、駆け落ちしたんだってな、美麗な男は口角を上げて言った。

2013-11-23 02:43:33
ちよこ @nmnmnm47

“掃除婦を見つけた者には大量の報酬を”…って新聞に書いてあったよ、と美麗な男は続ける。お姉さん、その掃除婦さん…?金髪が尋ねる。大量の報酬と聴いて金髪と青年の目が輝く。ねえ!このお姉さんを捕まえようよ!!

2013-11-23 02:48:22
ちよこ @nmnmnm47

だめだ、と声をあげたのは小柄な男だった。このお姉さんに懸賞金がかかってるということはこのお姉さんは殺されるんじゃないのか?どうやら馬鹿は金髪と青年だけのようだ。美麗な男は、俺らがこの女を城に突き出してみろ、俺らが捕まるぞ、と笑った。彼は君たちは何者なんだ?と聴いた。

2013-11-23 02:53:35