サブミッション・スリーピング・ビューティー #8(完結)

E4E5攻略記、これにて完結。
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劉度 @arther456

◇◇◇◇◇◇◇◇ ←91式徹甲弾

2013-11-29 21:02:06
劉度 @arther456

【サブミッション・スリーピング・ビューティー】# 8

2013-11-30 18:42:11
劉度 @arther456

戦艦大和。太平洋戦争の折に造られた大艦巨砲主義の最終進化形態。数百の航空爆撃に耐え魚雷を弾き返す重装甲と、ビッグ7を上回る27ノットの速力、そして何より人類史上最大の艦砲・46cm三連装砲の圧倒的火力。実践で発揮されることは無かったが、それが却って大和への信仰を高めた。1

2013-11-29 21:02:45
劉度 @arther456

信仰と伝説は姉妹艦の武蔵にも影響を与えた。史上最大の対艦攻撃を一身に受け、なおも沈まなかった鋼鉄の城は、一時期は深層海流に乗って太平洋を放浪しているという噂が流れるほどであった。そんな一種の神を艦娘として戦力に加えられれば、戦局はどれだけ有利になるか。2

2013-11-29 21:06:24
劉度 @arther456

無論、大和型艤装の開発は困難を極めた。ただでさえ艦娘になれる少女が全人口の0.1%にも満たないのに、それほど巨大な霊を降ろせる少女を探し、相応の艤装を造るのは不可能に近い。だが、それが不可能ではなかったことは、『蔵王』の艦橋に立つ武蔵が証明していた。3

2013-11-29 21:09:48
劉度 @arther456

「これが初陣とは、皮肉なものだな」武蔵は眼鏡の奥で赤銅色の目を細めた。相対するは戦艦棲姫。彼女が抱えた無念を、武蔵ははっきりと感じ取っている。武蔵が史上最強戦艦の誇りと信仰から生まれたのなら、棲姫は終ぞ力を発揮することができなかった無念が生み出したと言っていい。4

2013-11-29 21:13:23
劉度 @arther456

「ガァァァッ!」棲姫が吠えた。提督には見向きもせず、武蔵に飛びかかる。正負の感情が顔を合わせれば、湧き出してくるのは嫉妬。体当りした棲姫は、武蔵と共に艦橋を飛び出し、海面に墜ちた。肩を押さえつけ、開いた右手で武蔵の顔を殴りつける。5

2013-11-29 21:16:48
劉度 @arther456

数度殴られた武蔵だったが、単調な攻撃は見切りやすい。「せえいっ!」棲姫の手を受け止め、逆に顎を殴りつける。怯んで僅かに体が浮いたところで足を抜き、胴体を蹴り飛ばす。「がッ……!」棲姫の体が宙を浮くが、なんとか両足で海面に着地した。6

2013-11-29 21:20:15
劉度 @arther456

棲姫が肩の砲を武蔵に向けた。「砲撃戦か……望むところだ、存分に相手をしてやる」武蔵も艤装を構える。艦娘と深海棲艦、互いの身は違えど、手にした武器は同じ。45口径九四式46cm三連装砲。伊勢や金剛に搭載されたレプリカではない。彼女たち大和型にのみ与えられた、本物の伝説だ。7

2013-11-29 21:23:41
劉度 @arther456

2つの砲撃音が重なった。撃ち出された徹甲弾が、互いの体の真芯を撃ち抜く。「がぁっ……っ!」「グッ!」一瞬怯んだ後、同時に二射目を放つ。今度は顔面に直撃した。互いに魔法障壁で体が守られているとはいえ、ダメージが無くなるわけではないし、痛みも当然感じる。8

2013-11-29 21:27:59
劉度 @arther456

本来、戦艦とはこのようにして戦うものだった。だが空母の登場と、それに伴う超長距離からの航空攻撃により、戦艦同士の艦隊決戦は起こらなくなった。大和型は生まれ落ちた時点で、生まれた意味を失った時代の徒花であった。今日この日までは。9

2013-11-29 21:31:25
劉度 @arther456

棲姫が足に砲弾を受けよろめく。だが、その場で踏ん張って武蔵に砲を打ち返した。徹甲弾が障壁を貫き、武蔵の主砲の一つが吹き飛ぶ。互いに避けない。引き下がらない。戦艦の夢が、艦隊決戦が、百年の時を経て結実したのだ。この大舞台から降りるなど、あり得ない。10

2013-11-29 21:34:25
劉度 @arther456

「くっ……は、ははははっ!」どちらからともなく、笑い始めていた。笑い声は砲声にかき消される。誰にも聞こえないがそれでよかった。戦艦棲姫の体が、ジリジリと押され始める。それでも彼女は満足気に笑っていた。憑き物が落ちたような、晴れやかな表情だった。11

2013-11-29 21:37:43
劉度 @arther456

砲火が止む。黒煙が晴れ、海面に座り込んだ棲姫の姿が現れた。あれほど強大だった魔力はごく僅かしか残っておらず、既に膝のあたりまで海に沈んでいる。肩の46cm砲は両方とも壊れ、口からは青い血を垂れ流している。それでも武蔵を見つめて笑っていた。12

2013-11-29 21:42:34
劉度 @arther456

武蔵も無傷ではない。使える主砲は残り一基、ヴァイタルパートにも穴が空き、立っているのがやっとの状態だった。「……言い残すことは、あるか?」問うが、答えはもう出ていた。戦艦棲姫は首を横に振る。満ち足りた瞳だった。13

2013-11-29 21:46:28
劉度 @arther456

一発の砲声が、南海決戦の終わりを告げた。14

2013-11-29 21:47:26
劉度 @arther456

海がうねっている。軛から解放され、体を伸ばしているかのようだ。戦艦棲姫を倒してから、アイアンボトムサウンドの波は変わった。鏡のように凪いだ、魚一匹居ない死の海から、時折荒れ狂いながらも豊かな命を孕む母なる海に戻った。16

2013-11-29 21:51:16
劉度 @arther456

「それでは、我々の偉大なる勝利と、これからの武運長久を祈って、乾杯!」「かんぱぁーい!」巡洋戦艦・ヴィルベルヴィント。その巨大な船体の上に、砲と一緒に料理を載せたテーブルが並んでいる。数週間前の激戦海域で、今は盛大なパーティーが開かれていた。17

2013-11-29 21:54:43
劉度 @arther456

「ひゃっはー!酒だぁー!」「今日は心ゆくまで飲ませてもらうぞ!」「やんのか嬢ちゃんたち!」「ハッハッハッハッ!ワンモア!」ビールジョッキを片手に隼鷹と那智が暴れ回る。ビールなら負けんとドイツ水兵たちもそれを追いかける。きれいに飾り付けられた会場は、一瞬で宴会場と化した。18

2013-11-29 21:58:02
劉度 @arther456

「あいつら……今日はもっとしんみりしたパーティーなんだぞ……」それを遠くから見ているのは横須賀の提督である。頭を抱えたくても両手をギブスで覆っているのでできない。「すみません、騒がしくなっちゃって」隣のホラニアに話しかける。彼は黙って海面を見つめていた。19

2013-11-29 22:01:37
劉度 @arther456

海面には、いくつもの白い花束が浮いていた。さっき、提督とホラニアを始めとする艦隊の代表たちが投げ入れたものだ。鉄底海峡で沈んだ船と、それに乗っていた人々のセレモニー。それが、彼らが今日ここに来た本来の目的であった。20

2013-11-29 22:04:59
劉度 @arther456

「手は大丈夫なのか?」「ええ、まあ。元通りにはなるみたいです。医学凄いですよね」「深海棲艦にあそこまで近づかれて生きていられるとは、助けた相手に感謝しておけ」「勿論。武蔵っていう最新鋭の艦娘らしいですよ。どんな子なんだろうなー。絶対かっこいい子だろうなー」21

2013-11-29 22:08:18
劉度 @arther456

「あー、そうそう。ドイツへの潜水艦派遣作線なんですけどね、成功しましたよ」「そうか。これでようやく祖国に帰れるな」イムヤたちの第一次派遣作戦のお陰で、欧州までの航路を開拓できた。第二次派遣作戦は、ホラニアたちドイツ東方艦隊を本国へ送り届けることになるだろう。22

2013-11-29 22:12:21
劉度 @arther456

「それと、これを」「む?」提督が取り出したのは、丸い筒だ。ホラニアが蓋をあけると、中から一枚の画用紙が出てきた。朝日を受け、鮮やかに輝く森を描いた水彩画だ。「ようやく出来たみたいです。渡してくれって」「……うむ。礼を言っておいてくれ」23

2013-11-29 22:15:46