#角川小説 「エフ・エム」 vol.4

角川Twitter小説コンテスト応募作品をまとめました。 おかげさまで最優秀賞候補作品30作品にノミネートして頂きました。ありがとうございます。 「これからあなたに90分間、時間を差し上げます。何回間違っても構いません。 90分以内に私が誰か、当ててください。もし時間内に私が誰か、思い出せなかったら、」 続きを読む
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水木ナオ* @nytf_fm

壷なのか向かい合った人の横顔なのか一見分からない白黒のアイコンと「エフ・エム」の名前。さらに、黄色の鍵のマークがついている。「あの時、私が携帯電話を開いてボタンを押したのは、予め用意しておいたツイートを送信したんですよ」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-13 23:00:09
水木ナオ* @nytf_fm

「『カミヤ町で爆発』って。それを合図に、相互フォロワーの皆に『カミヤ町が』とツイートしてもらったんです。まあここにいるキャスト達なんですけどね」ずらりと並ぶツイートのアカウントも、よく見れば全部鍵のマークが付いている。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-14 00:00:33
水木ナオ* @nytf_fm

「そりゃあ全体公開で一斉に呟いたら、デマツイートで大騒ぎになりかねませんからね。全員鍵を付けて、実際の検索にはひっかからないようにしてあります」「じゃあ、本当に嘘……」「私、ツイートだけで画像は見せなかったでしょう?」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-14 12:01:06
水木ナオ* @nytf_fm

「なんだ……なんだよお……」がっくりと項垂れる俺に、タミヤはお返しします、とスマホを差し出した。「誰かに連絡を取られるのを防ぐためはもちろんですが、ニュースとか検索されたら一発でバレますので、お預かりさせていただきました」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-14 17:01:12
水木ナオ* @nytf_fm

受け取ったスマホを握りしめ、俺はその手をそのままブチの頭に振り下ろした。「痛ってえ! なにすんだよ!」「その言葉そっくり返すわ! お前人の誕生日になにしてくれてんだ!」「誕生日だからだよ!」頭をさすりながらブチが言う。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 11:01:03
水木ナオ* @nytf_fm

「お前な、34年も生きてきて、こんなに真剣に自分の人生と向き合ったことあったか? ないだろ。大概の奴はないだろうよ、目の前のことで毎日いっぱいいっぱいだからな。思い出なんてたまに写真見たり、友達と喋って懐かしむくらいで」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 12:01:07
水木ナオ* @nytf_fm

「それでも今の自分を作りあげたのは、これまでの自分なんだよ。タミヤさんが言ってたろ? 『あなたに思い出してもらえないなら、私に生きている意味はない』って。タミヤさんにはな、過去のお前。お前の『鏡』をお願いしたんだよ」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 13:00:28
水木ナオ* @nytf_fm

「こいつ誰だっけって必死に記憶を掘り起こすことで、否応がなしに今までの自分を見つめることになるからな。お前のこれまでの人生に『タミヤさん』はいないから、過去を全て振り返っても当てられるわけがないし」な? と得たり顔をする。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 14:01:06
水木ナオ* @nytf_fm

「……んだよ、じゃあ『私は誰?』って言われても、正解はなかったんじゃないか。これ、もし爆弾が本当だったら、俺絶対死んでたじゃん」はは、と笑う俺にブチは、「うん。俺、お前を死なせたかったんだ」なんてぎょっとする台詞を吐いた。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 15:01:11
水木ナオ* @nytf_fm

「おいブチ!」「正しくはリセット、かな。35歳の誕生日に、生まれ変わってもらおうと思ったんだ。これまでのお前をしっかり振り返った上で、それをリセットしてな――諦め癖のついたお前を」ブチは心なしか憐れむような顔で俺を見た。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 16:00:31
水木ナオ* @nytf_fm

「お前、昔からずっとそうだったじゃないか。ユミと別れたときも、親に映画の夢を反対されたときも、ハルミと別れたときも。本当は好きでたまらないのに、いざ失いかけると『別にそんなに大事じゃないし』って執着したりしなかった」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 17:00:15
水木ナオ* @nytf_fm

「オレ、ハルミがお前を変えてくれたんだと思ったんだよ。何せあのお前が付き合うまで8年も待ったんだもんな。他に男作ってくれてありがとうってノリコに感謝したくらいだ」ああやっぱ知ってて合コン誘ってくれたんだな、とぼんやり思う。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 18:00:43
水木ナオ* @nytf_fm

「なのになんだよ、付き合ったと思ったら2年であっさり別れちまって。いや別れてもねえ、勝手にもう無理だって決め付けて連絡もしないで、ハルミから直接引導を渡されるのが怖かっただけじゃねえか! ハルミ今も独りなんだぞ!」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 19:00:31
水木ナオ* @nytf_fm

一気に言い放って、ブチはごほ、と咳払いをした。「言っとくが今も独りな理由は知らないぞ。オレの友達がそう言ってたの聞いただけだからな。あの合コンときの女の幹事。オレの結婚式に呼ぼうと思って、ついでに聞いたらそう言ってた」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 20:00:25
水木ナオ* @nytf_fm

ふいと目線を逸らされ、溜息が出る。「自分の結婚の話んときまで、なに俺のこと気にしてんだよ……」「ほっとけよ。これはオレの自己満足なんだからよ。オレが嫁さんを見つけたみたいに、お前にも真剣に人生を見つめて、」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 21:00:15
水木ナオ* @nytf_fm

「この程度の人生でなんて言わせない生き方を、本気で心から欲しいもんを、見つけてもらいたかった。それがオレの、お前への誕生日プレゼントだ」心から欲しいもの。これで最期だと思った、あの瞬間に望んだことは。#角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 21:10:50
水木ナオ* @nytf_fm

「お前なあ……」ごん、と額をテーブルに打ち付ける。もう呻くしかなかった。「こんなやり方、下手したら人間不信になるぞ? 他の人間だったらやり過ぎだっつって問答無用で絶交だわ、絶交」「ああ分かってる。オレだから、許すんだろ?」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 21:20:18
水木ナオ* @nytf_fm

がばっと顔をあげると、どうだ、と言わんばかりの表情をしたブチ。顔赤くするくらいなら言うなよ。ったく、「いや、許さない」「えっ」俺は口の端を吊り上げて、「泣かす。ぜってえ泣かす。お前の披露宴で新婦より号泣させてやるからな!」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 21:30:39
水木ナオ* @nytf_fm

げっと顔を引きつらせるブチの横から、ずいっとタミヤが身を乗り出す。「フカダさん、当社では披露宴用の企画もご要望に応じてご用意できますが」「おっと、それはちょっと話聞かせてもらいたいですねえ!」「ちょっと、タミヤさん!」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 21:40:06
水木ナオ* @nytf_fm

「……と、その前に」俄かに騒ぎ出した二人を押し止めて、俺はスマホを手に立ち上がった。「ちょっと、電話してきます」店内を小走りに駆け抜けながら電話帳から消せずにいた番号を見つけ出す。飛び出した外の空気を、胸一杯に吸い込んで。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-15 21:50:37
水木ナオ* @nytf_fm

「――もしもし、ハルミ? ……久しぶり」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO #完

2013-07-15 22:01:13