#角川小説 「エフ・エム」 vol.4

角川Twitter小説コンテスト応募作品をまとめました。 おかげさまで最優秀賞候補作品30作品にノミネートして頂きました。ありがとうございます。 「これからあなたに90分間、時間を差し上げます。何回間違っても構いません。 90分以内に私が誰か、当ててください。もし時間内に私が誰か、思い出せなかったら、」 続きを読む
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水木ナオ* @nytf_fm

次の瞬間、凄まじい爆音に体を焼き尽くす熱風、そして降り注ぐガラスや食器の破片。それらが一斉に――襲ってこなかった。人は突然命を落とすと、自分が死んだことに気付かない場合があるという。そういうことか? と、目を瞬かせたとき。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-09 12:00:47
水木ナオ* @nytf_fm

「Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes!」突然、店内に歌声が響いた。店の入口からすぐのボックス席で、カップルの男性が立ち上がり、高らかに歌い上げている。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-09 17:00:52
水木ナオ* @nytf_fm

「Five hundred twenty-five thousand moments so dear!」今度はカウンター席、一番端の女性だ。同じように立ち上がりながら、俺に向かってウインクする。英語の発音が見事だ。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-09 18:00:22
水木ナオ* @nytf_fm

「Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes!」「How do you measure, measure a year?」次々と、店内の客が立ち上がっていく。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-09 19:00:45
水木ナオ* @nytf_fm

「How about love?」「Measure in love!」カウンターの奥から歌いながらハンドクラップと共に、店員も。「Tho' the story never ends!」「Let's celebrate!」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-09 21:00:07
水木ナオ* @nytf_fm

最後に立ち上がったのは、向かいに座る男だった。「Measure in love!」男の歌声に合わせて店内中が合唱する。「Measure measure your life in love!」そして、 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-09 23:00:50
水木ナオ* @nytf_fm

「Seasons of love. Seasons of love ……」歌が終わると同時にぱあん、とクラッカーが鳴り。もはや店内でただ一人、ぽかんと座っている俺に全員が声を揃えて叫んだ。「フカダさん、誕生日おめでとう!」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-10 12:00:28
水木ナオ* @nytf_fm

「……え?」頭がついていかない。誕生日? あ、今日7月10日? 忘れてた俺、誕生日か。 え? でもなんで、俺死んでない? 生きてる? さっきまで殺されかけててそれがいきなり、どういうことだ? 軽くパニックを起こしていると。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-10 17:00:40
水木ナオ* @nytf_fm

「はっぴばーすでーとぅーゆー」カウンター席から下手くそな英語を口ずさみながら、蝋燭の灯るケーキを手に近づいてくる男。俺はそいつをとてもよく知っていた。「よっ35歳おめでとう!」「……なんでお前がここに居んだよお……ブチ!」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-10 22:00:43
水木ナオ* @nytf_fm

なんとも情けない声を出してしまった俺の前までブチはやってくると、まあまあ、とテーブルにケーキを置いた。「話はこれ吹き消してからにしようぜ。ほら」「え、ああ」促されるままふうっと蝋燭の火を吹き消すと今度は拍手がわき起こった。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-11 12:00:15
水木ナオ* @nytf_fm

店内中の人間が、俺を散々追い詰めた目の前の男までも、全員が俺の誕生日を祝っている。なんだこれ。なんだこれ? 「おい……」途方に暮れてブチを見上げると。「オレ、お前らが来る前から、ずっとカウンター席にいたんだぜ」「はあ!?」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-11 17:00:07
水木ナオ* @nytf_fm

ただでさえ観葉植物に阻まれ、ここからでは誰が座っているかなんて分からないカウンター席。そこにまさかブチがいたなんて、誰が思うか。心配するメールまで送ってきて……ん? 「じゃあお前、あのメールは?」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-11 20:00:11
水木ナオ* @nytf_fm

ブチは俺の後ろの席から椅子を引き摺ってくると、よいせ、と腰掛けた。「タイミング見計らって、あそこで打ってた」「タイミングって何の」「お前と、彼の」そういってブチが手で指し示した先で、向かいに座る男がにっこり微笑んだ。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-11 22:01:00
水木ナオ* @nytf_fm

「いやあ、おかげさまで大成功です!」「それは良かった。こちらもこういうケースは初めてだったので、途中で殴られるんじゃないかと内心びくびくしてましたよ」「いやいやお見事でしたよ!」そういって、がっちり握手を交わす二人。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-12 00:00:10
水木ナオ* @nytf_fm

呆然とその様を眺めているうちにはっとなり、「ちょ、ちょっと待てよ! お前、なに言ってんだ!」慌てて二人を引き離した。男を指差して叫ぶ。「こいつが俺に何したのか分かってんのか!」「ああ、だって頼んだのオレだし」「えっ」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-12 12:00:44
水木ナオ* @nytf_fm

唖然とする俺の目の前で、目を細めたあの男は胸ポケットから名刺入れを取り出した。そして徐に立ち上がると、「申し送れました。私こういうものです」差し出された名刺に記されていたのは、『株式会社エフ・エム 主任 タミヤ』 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-12 17:00:06
水木ナオ* @nytf_fm

「F・M?」「"Flash Mob"。当社はフラッシュモブの企画運営代行会社です」「フラッシュモブ……って街中とかで、通行人が突然踊ったり歌ったりする?」「ええ。基本はSNSなどで募集して集まった人々で行うものなんですが」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-12 20:01:18
水木ナオ* @nytf_fm

「当社ではプロポーズや誕生日のお祝いなど、目的を持ったフラッシュモブをプロデュースします。お客様のご要望を元に提案から企画、演出、場所の確保、キャストの確保まで総合的に行わせていただきます」「……てことは」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-12 22:01:01
水木ナオ* @nytf_fm

あらためてぐるりと店内を見渡す。「この店内の客って皆……」「店員もキャストです。ただ、」タミヤと名乗った男はふう、と息を吐いた。「後ろに座られたサラリーマンは、一般の方です。誤って店に入られたうえに警察を呼ばれかけたので」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-13 00:00:38
水木ナオ* @nytf_fm

「フカダさんがトイレに行かれた間に事情を説明させていただきました。他のキャストとフカダさんが接触できないよう、後ろだけを空けていたのが裏目に出るとは」いやあ参った、と頭を掻くタミヤはさっきまでの飄々っぷりとは別人のようだ。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-13 08:00:24
水木ナオ* @nytf_fm

「えーと、ちょっと待ってちょっと待って」額を手で押さえながら、俺は現状を整理する。「つまり? あんた、タミヤさんが街で声を掛けてきたとこから誕生日おめでとうまでのこれ全部が、ブチが依頼したフラッシュモブだったってことか?」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-13 12:00:29
水木ナオ* @nytf_fm

「はい」「そんなわけあるか!」椅子を蹴立てて立ち上がった俺をブチが宥める。「まあ落ち着けよ」「落ち着けるか! 本気で死ぬと思ったんだぞ!」「そう思うようにしてくれって頼んだんだもん。タミヤさん、昔演劇やってたんだってさ」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-13 15:00:13
水木ナオ* @nytf_fm

「ああ、どうりで……っていやそれもだけど!」びし、とタミヤの腹を指差す。「爆弾! それは偽物なんだよな!」「はい。ネットで検索して、それっぽいものを作りました」「そんなことだろうと俺だって最初は思ったよ!でも、じゃあ」 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-13 17:00:45
水木ナオ* @nytf_fm

「俺の会社は! 俺の会社、爆発してたじゃないか!」すると、タミヤは自分の携帯電話を取り出した。「フカダさんにお見せしたのはこれですよね」見せられたのはTwitterの画面。様々なアイコンが全部、「カミヤ町が」と呟いている。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-13 19:00:19
水木ナオ* @nytf_fm

「別に『カミヤ町』でワード検索かけたわけじゃないですよ。それ、このために作ったアカウントのホーム画面なんです」そのまま画面を下げていくと、ツイートとメニュー部分に挟まれるように、アカウントの持ち主の表示が現れた。 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-07-13 21:00:13