- treeofevil
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「……べたい、『食べたい』んだよぉ」 口にわだかまる血溜めを全て吐き出し、呟く。 あくまでも自分の中に淀む罪としての使命ばかりに忠実に貪欲に。 ちらりと窺い見た獲物は自分と同じく満身創痍。 ーー殺害(くら)うまで、もう少し。 「……んばぁ」
2013-12-13 18:30:04胃の中をべこりと凹ませると、食道を伝う凶器が一つ。 ごきゅり、と口元にまで弾き出される。 ニィと笑って見せた口元から覗くのはギラリと光る刃の先。 先刻、口に咥えていたナイフだ。 それを、狙いを付けるように瓦礫を浮かす強欲へと。 血は相当逃走し朦朧とした意識は食欲以外示さない。
2013-12-13 18:30:31相手の呟きを聞いて確信する。 ――この闘いは、『欲望』の強い方が勝つのだと。 そうと解れば最早自分の身体を気遣うつもりはない。動かせるなら無理にでも動かして闘うだけ。 身体だけ生きていたって奪えなければ死んだも同然。 欲しがり続けなければ、自分は生きていられないのだから。
2013-12-13 19:49:14相手の口元で銀色が鋭利に輝いた。 其れが自分へと穿たれようと構わない、自分も相手を穿てればいい。 肩と腕の裂傷も、焼け爛れた手足も、腹から滴る血液も、軋み悲鳴を上げる骨も。全部全部無視をして。 意識を目の前の男へ向け――深緑が、紫を見据える。 「……行くよ、」
2013-12-13 19:59:02強欲の、呪文のキーワード。 それが届くが先か否か 閃光を描くように直線に、強欲の心の臓目掛け口元からナイフが射出される。 「ひゃぁはっ!」 ナイフの行き先を知るまでもなく、灰色が視界を埋め尽くしーー 「ひぃあああああああっ!!」
2013-12-13 21:31:27撃ち出したと同時、口元から真っ直ぐ銀が心臓を狙って飛来。このままでは即死は免れないと、咄嗟に腕を差し出す。 けれど重い腕で防ぐのは間に合わなかったようで、右胸にナイフが突き立って。ごぷ、と口から血が漏れた。 「く、そっ」 肺に穴が開いたのか、言葉を言葉として口に出すのも難しい。
2013-12-13 22:21:49――僕は、変わるために、求め続けることしか知らない。それはきっと、最期の瞬間まで。 真っ赤に染まる唇を荒く手で拭い、突き立つナイフを抜き取り、吼える。 「転、移!!」 自分の身を、翻し。『転移』によって身体は暴食の背後へ。 狙うはその首――届けと願いながら、刃を振るった。
2013-12-13 22:31:18勢いの乗らぬ拳が瓦礫に触れ、ぶつかりめしりと音を立てながら徐々に砕けていく。 この間、ムロホの体感時間は悠然と進みその骨が砕け血が滲み筋肉が押し潰される感覚を味わう。 そして背後。 いつの間にやら強欲が刃を立て、それが首元に押し分けるように切り裂くように振るうのを痛覚で感じ
2013-12-13 22:39:29振るった腕には、肉を裂く確かな手ごたえ。けれど裂いた対象は最早見えず、灰色が、霞む視界を埋め尽くした。 轟音と、上に何か圧し掛かる感覚がして――世界が、暗くなる。 あれ、どうなったんだ。どうしてこんなに暗いんだ。 何故どこも痛くないんだろう。……何故、こんなに眠いんだろう。
2013-12-13 22:54:12でも、確かに奪った感覚はしたから。不思議と満ち足りた気分で、暗闇の中ふわり笑む。 ――帰らないと。待ってる人がいる。帰る場所がある。『行ってきます』って、言ってきたから。 「……少し寝たら、帰るから」 歪に、けれども何とか形に成った言葉を最期に。 光を失った深緑が、閉ざされた。
2013-12-13 22:55:57《以上をもちまして……第二四公演は終演致しました…… どなた様もお忘れ物のございませんよう……いま一度、お手回り品をお確かめ下さいませ…… 本日はご来場頂き……まことに有難うございました…》
2013-12-13 23:01:42