【艦これSS】 サンキュ、大井っち

作:三隈さん(@kumakumamikuma) 大井・北上SSを第三アカウントで公開していたものをまとめたログです。 サンキュ、稲葉
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みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

じゃんさー。 「キスしましょう」 ……は? 「百合って言うんですよね。そういうの全然興味はなかったんですけど。北上さんとなにか絶対忘れないような思い出を作りたくて」 待った待った待った。え? キス? 冗談だよね、大井っち。 「嫌、ですか?わたしは北上さんとならしてもいい

2013-12-20 10:28:06
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

です。というかさせてもらいますね」 わー、待って待って。なんでそんなに今日に限って肉食系なのさ? まだあたし心の準備がっていうか、初めてだし、そんなの不健全だよバカー。 「ん……」 はい? なんですか、その目を閉じて何かを待ち構えてる乙女のポーズは。 今大井っち、させてもら

2013-12-20 10:28:40
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

うって言ったよね? うそ、あたしがするの? これ。 言ってることとやってることちぐはぐじゃん。うあー、んぅ、なんて声を漏らして催促しないでよ。 ぐうぅ。や、やるしかないのかな。ぬぬぬ。 ……ちゅ。 「……おでこですか。ヘタレですね」 うっさいわー。大井っちのバカ。もう知らな

2013-12-20 10:29:18
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

いっ。 「うふふ。まあ北上さんにしては、良く頑張ったかしら」 背中を向けて不貞腐れたあたしの背中に、ふわりと、体重が傾けられた。 背中合わせになって、お互いの存在を半分ずつ、預けあう。 今までずっとしてきた、あたしと大井っちの在り方。 両手の指を絡めて、どちらともなくずるずる

2013-12-20 10:29:49
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

と地面に座り込む。 こんなに近くにいるのに、今のあたし達の距離は、見えない壁で隔てられているみたいに、遠い。 「──桜、綺麗ですね」 ぽつりと、大井っちがつぶやいた。 咲いているのかな。満開の桜が。 大井っちの目には、きっとそう映っているんだね。ごめんね。ごめんね。全部あたし

2013-12-20 10:31:01
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

が悪いんだよ。大井っち、本当に、ごめんね。 ------ コンコンコン。控えめに叩かれるノックの音。 毎朝の日課、あたしだけの目覚まし時計。でも、それも今日で最後。 そう思ったら、布団から出れなくなっちゃった。 大井っち、困ってるかな。もう十分もこうしてるもんね。 なんで無理

2013-12-20 10:31:47
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

矢理入ってこないんだろう。鍵、返しちゃったのかな。 「北上さん」 いつも通りの控えめな呼びかけ。こんな時くらい、ちょっとは取り乱してもいいじゃん。 なんでそんなに普通なのさ。あたしはこんなに……あ、やばい。また涙出てきた。 こんな一日中泣き腫らした顔、大井っちに見せられないよ

2013-12-20 10:32:29
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

。 「わたし、行きますね。最後に挨拶できなかったのは残念ですけど……手紙、書きますから。それじゃ──」 足音が遠ざかっていく。 聞きなれた、革靴が立てるカンカンカン。もう二度と、聞くことがないその音が。 待って──待ってよ。あたしを置いてかないでよ。 寝巻きのまま、髪もぼさぼ

2013-12-20 10:33:02
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

さで、顔も涙でぐしゃぐしゃにしたまま、跳ね起きる。 はだしで転びかけながらも、ドアに向かって駆け寄って、ドアノブをひねって── 「やっぱり寝たふりしてた」 見慣れない服を着た、もう兵器じゃない、普通の女の子が、そこには立っていた。 困ったような笑顔で、あたしのことを見ている。

2013-12-20 10:33:41
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

毎日毎日、一番側にあったその顔が、今も変わらずにあたしの目の前にあった。 「もう。わたしが除隊の日くらい、ちゃんと早起きしてくださいな。本当に見送ってくれないかと心配に……」 大井っち。大井っち、大井っち、大井っち。 「──おいで?」 胸に飛び込んだ。恥も外聞もありゃしな

2013-12-20 10:34:26
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

い。大声で泣き叫んで、わめき散らして。 感情のままに顔を胸にこすりつけた。 「よしよし」 小さな子供をあやすような手つきで、大井っちがあたしの背中をぽんぽんとなでた。 やめてよ、やめてよ。そんなことされたら、弱くなっちゃう。あたし、もう戦えなくなっちゃう。 だから、だから、素

2013-12-20 10:35:11
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

っ気無いフリを、ずっと、してたのに。 「北上さんはなにも悪くありません。だから、そんなに謝らないで。ね?」 知らない内に、謝っていたみたい。ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんね、ごめんね。 だって、だってあたしのせいだ。大井っちが戦えなくなったのは、全部、あたしのせいだ。

2013-12-20 10:35:44
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

──一ヶ月前のあの日。 あたしは、引き止める提督の声を軽いノリで流して、大破したまま夜戦に挑んだ。 だって、ずっと越えられなかった海域だったんだよ。 ようやく航路も順調に進んで、敵の旗艦を撃沈寸前まで追い込んだのに。 ここで引き下がったら、あたし達が数ヶ月毎日毎日、遠征や演習で積

2013-12-20 10:36:24
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

み上げた苦労が報われないじゃない。 だけど、そんな慢心を嘲笑うかのように、敵艦は一斉にあたしを集中攻撃した。 それでも避けて、避けて。やった、これでこの海域もクリアだ。 その間隙を縫うように放たれた最後の一撃。 必中。避けられないことを悟ったあたしは、呆然としたまま自分に向かって

2013-12-20 10:37:08
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

進んでくる攻撃を見送り、次の瞬間、目を見開いた。 いつも背中に預けていた体温が、体重が、あたしの目の前にあった。 直撃。自身も中破していたはずの大井っちが、重雷装巡洋艦程度の軽装甲で、敵旗艦の渾身の一撃に耐えられるわけがない。 しかし奇跡は起こった。 かろうじて轟沈せずに生き残っ

2013-12-20 10:37:42
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

た大井っちは、すぐさまドッグに運び込まれ、整備班から三日間にも及ぶ修理を受ける。 あたしは三日三晩、寝ずに自分の迂闊さを呪った。生まれて初めて、神様に祈った。どうか大井っちを助けてください、と。 四日後。大井っちは元通りの姿で、戦線に復帰した。 もう二度とあんな失敗はするものか。

2013-12-20 10:38:29
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

これからはずっとあたしが大井っちを守り続けてやるんだ。そう思っていた。でも── 『照準が合わない』 戻ってきた大井っちは、壊れていた。見えるはずのものが見えない。見えないはずのものが見える。 一発も当たらない。数々の難敵を海の藻屑にしてきた、自慢の雷撃が、ただの一発も。

2013-12-20 10:39:04
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

それは、艦隊の火力の一翼を担うあたし達にとってはあまりにも致命的な欠陥だった。 故障箇所は一切見当たらないのに関わらず、かつての華々しい活躍が見る影もなくなったその姿に、ついに決断が下される。 解体処分──そんなのって、ないよ。今まで誰のおかげで海域を攻略できたと思ってるわけ?

2013-12-20 10:39:40
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

青春を投げ捨てて、命を削って、鎮守府を勝利に導いてきた大井っちに対する最後の命令が、ここから出て行け? ふざけるな。怒りに我を忘れて、思わず提督を殴りつけた。 止めようとする姉妹艦達に汚い言葉を浴びせかけて、感情のままに暴れるあたしに、提督は一言だけ言った。 「すまん。守ってや

2013-12-20 10:40:36
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

れなかった」 振り上げた拳を震わせて、行き所をなくした感情が逆流して、あたしは泣いた。人目もはばからず、大声をあげて泣いた。 それからあたしは一週間ずっと、戦線に出ることをボイコットして、部屋に引きこもり続けた。 せめてもの抵抗だった。あたしと大井っちがいなくなったことで主力を

2013-12-20 10:41:13
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

欠いた海域攻略は、今頃どうなっているのかな。 なんの罪もない姉妹艦や、艦隊の仲間達に迷惑をかけているかと思うと、罪悪感で心が痛んだ。 でも、こんな気持ちのまま戦えない。大井っちのことを心に引きずったこんな状態じゃ、あたしはもう一歩も動くことすらできなかった。 「ちゃんとご飯、食

2013-12-20 10:41:53
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

べてますか?こんなに細くなって」 最後に食べたの、いつだっけ。忘れちゃった。 「あと北上さんも女の子なんだから、ちゃんとお化粧を覚えましょう。髪も結えるようにならなくちゃ。これからはもうわたしはいないんですからね」 うるさい。そんな言葉、聴きたくない。 「心配です。意外と

2013-12-20 10:42:25
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

北上さん、寂しがり屋だから。もし甘えたくなったら、お姉さん達に頼るんですよ?なんなら提督でも……うふふ」 あたしがこんなに弱くなったのは、誰のせいだと思ってんの。ばか。 「ね、北上さん。わたし、これからもう戦わなくていいんですよ。毎日好きなことに時間を使えるんです。お洒落した

2013-12-20 10:42:58
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

り、お友達と遊んだり。 うらやましくないですか? お手紙にいっぱい写真つけて送ってあげますね。楽しみにしていてください」 誰よりも、艦隊のことを心配してたくせに。なんでそんな心にもないこと言うのさ。そんな写真、見たくない。 あたしと一緒にいない大井っちが笑ってる姿なんて絶対見た

2013-12-20 10:43:30
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

くないよ。 「……行かなくちゃ。北上さん、さようなら。どうかご武運を」 離れていく。ああ、ああ。大井っちが。あたしだけの、大井っちが。 なんで……なんでよ! なんでそんなに冷静でいられるのさ! 大井っちは悲しくないの? 辛くないの? 泣きたくないの? 「…………」 また会

2013-12-20 10:44:57