【艦これSS】 サンキュ、大井っち

作:三隈さん(@kumakumamikuma) 大井・北上SSを第三アカウントで公開していたものをまとめたログです。 サンキュ、稲葉
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みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

カン、カン、カン。ああ──今日もドアの向こうから、解体の音が聞こえる。 違うけど。多分。いや、足音なんだけどねー。 しかもめちゃくちゃ規則的。革靴の靴底を寮の廊下にカンカン叩きつけて、 まあお転婆なことで。 寝起きの北上様はファッキンノイズにおこになりかけたけど実のところは超オッ

2013-12-20 10:02:58
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

ケーですよ? だってこの足音は── 「……北上さん?」 控えめな三連ノックの後に一拍置いて、そっと呼びかけてくるか細い声。 もう何回繰り返したのか思い出せるはずもない、毎朝の日課。あたしだけの目覚まし時計。 でも今日も起きてやんない。なんで?そんなの気分に決まってるじゃん。

2013-12-20 10:03:39
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

もう一度ノックの音が聞こえる前にオフトゥンをまるっかぶり。 あたしはこのお布団と心中する覚悟だよ。さあどうでる、大井っち。 「なにやってるんですか」 うわぁ。あっさり部屋に侵入してきた。あっさり系すぎるよ大井っち。 あたしはこってり系の方が好きだぞーじゃなくてなんで鍵持ってん

2013-12-20 10:04:20
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

の? 「提督に鍵を頂きました。毎日毎日お部屋に引きこもってなにをしているかと思えば」 なにー。提督めー余計なことを。 今度あったらしこたま雷撃ぶち込んでやるー。敵艦に。八つ当たり最高。 ……って、あれ。大井っち?なにその格好。超懐かしくない? 「うふふ。提督にお願いしてわざ

2013-12-20 10:05:05
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

わざ用意してもらったんです」 ハイセンスな抹茶色が目に優しいよね、それ。 軽巡洋艦時代の制服に身を包んだ大井っちが、寝ぼけ眼でお布団の上にぺたんしてるあたしの前でくるり。 スカートの裾を押さえながら、あどけない仕草ではにかんだりして。 おいおい。なんだいその乙女っぷり。乙女回路

2013-12-20 10:06:10
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

でも艦装したのかな? 「久しぶりのデートですからおめかししないと。北上さんの分も用意してもらいました。ささ、早く着替えて」 用意周到!?ってゆーか今日の大井っち、オラオラ系すぎだよー。 いつからそんなに駆逐艦みたいにウザイ感じになっちゃったのさー。 もしかして、ここ数日ずっと

2013-12-20 10:07:17
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

部屋に引きこもって、大井っちのこと無視してたの怒ってる?おこなの? 「……着替えさせてほしいならそうしますけど?」 わ、分かった分かった。着替えるからとりあえず出てってってば。 ……ふぅ。大井っち、ニコニコ顔とは裏腹に完全に目が笑ってなかったなー。 仕方ないか。ここ一週間はず

2013-12-20 10:08:14
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

っと目も合わさないようにしてたし。チキンプレイ上等みたいな。 でもそろそろタイムリミットだし、いい加減逃げ回ってきたツケ、ちゃんと払わなきゃだね。 ------ 軽巡洋艦寮の一番奥。 改装されて重雷装巡洋艦となったあたしと大井っちのためだけに作られた部屋。 そこから玄関へと繋

2013-12-20 10:09:12
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

がる長い廊下道を二人で並んで歩く。 カツツン、カツツン。少しだけずれた足音が、今のあたしと大井っちの関係を表しているみたいで、なんだか少しだけイラッとした。 「北上さん」 部屋を出てからずっと黙っていた大井っちが口を開いた。視線は前を向いたまま。 へいへい。北上さんはここです

2013-12-20 10:10:21
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

よ~?前ばっかり見てたら足元すくわれちゃうぜ~。 「手を繋ぎませんか」 やだ。 即答すると、大井っちは少しだけ困ったような表情をした後、あたしの方を向いてうわめづかい爆撃どっかーん。 正規空母並みの破壊力に七面鳥になりかけるけど、メンタルダメコン標準装備の北上さまをなめないで

2013-12-20 10:11:08
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

よね。ふふん。 視線の照準を一歩前に出て半歩分ずらす。ほら、これで手を握れまい。ふははー。北上さま大勝利。 あれ、でもドッグファイト的には後ろを取られたら負けなんだっけ。なんだこれ。勝負に勝って試合に負けたみたいな。 「じゃあこっちで我慢します」 服の裾を握られた。ちょっとち

2013-12-20 10:11:56
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

ょっと。これじゃあたしがまるで引率者みたいじゃん。 こんなところ見られたら、実は面倒見のいい北上さまってレッテル張られて、 駆逐艦の世話とか任せられかねないよ。勘弁してよねー。そもそも歩きづらいったらないし。 「恥ずかしがってるんですか?かわいいですね」 ビキィ。そういう態度

2013-12-20 10:13:11
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

に出る?だったらいいし、このままで。 振り返らずにドスドス前を歩く。服の裾を握られたままだから、どうしても足取りが鈍い。 ぬう。こんなことだったら意地を張らずに手を握っとけばよかったかな。あたしのバカ──っと。 「どうしたんです?」 急に立ち止まったあたしの背中にぽすんと大井

2013-12-20 10:14:47
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

っちがぶつかった。 仏頂面で回れ右。大井っち。手、握ろっか。 「あら。気を使ってくれたんですか?このままでも私は別に大丈夫……きゃっ」 言わさないし。勝手に手を握って目の前にある下り階段を下りる。 大井っちの手、ちょっと冷たいね。あたしの体温が高いせいかな。やだな、ばれたくな

2013-12-20 10:16:46
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

い。 だったらどうする?さっさと降りちゃいましょーそーしましょ。気持ち二段飛ばしで。 そしたら手を引かれたままおっかなびっくり階段を下りてた大井っちが少しだけ震えた。 あ、今笑ったな?くそー。照れ隠しじゃないってば。 「北上さん」 はいはい。聞く耳持ちませんよ。降りるまでの辛

2013-12-20 10:17:56
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

抱だし。 「手、暖かいです」 さいですか。 ------ 玄関を出て、鎮守府の離れにある小高い丘をのぼる。 途中演習帰りらしき多摩ねえと遭遇した。 好奇心旺盛のネコ丸出しな目でこっちに走り寄ろうとしてたけど、球磨ねえが首根っこ捕まえてどっかに連れてった。グッジョブ、球磨ね

2013-12-20 10:18:42
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

え。多摩ねえには申し訳ないけど、今の北上さまにはちょっとだけ心の余裕がない。 あ、でも握ってた手を離す口実にはなったから、そこは多摩ねえもいい仕事したよね。 大井っちはちょっと不満そうにしてたけど。そんなのあたしの知ったことじゃない。 「まだ間に合うかしら。おととい見た時には散

2013-12-20 10:19:52
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

り始めていたから、心配だわ」 突然、大井っちが素っ気無いあたしへの仕返しとばかりにパラパラと言葉の機銃掃射。 装甲薄いんだからやめようね。自業自得だけど。 丘の頂上には一本の大きな桜の木がある。毎年春には鎮守府のみんなで花見とかこつけてどんちゃん騒ぎをする場所だ。 そして、あ

2013-12-20 10:20:40
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

たしと大井っちにとっては、それ以上に特別な思い出がある場所でもある。 なにせ二人が着任して初めて出会った場所だもん。いやーあの時は若かったな~。 木にずっと一緒だよって二人の名前彫ったりしてさ。やばーい。どんだけ頭の中お花見状態だったんだろ、あたし達。 若気の至りってやつだよね。

2013-12-20 10:21:19
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

うん。よし、忘れよう。はい、忘れたー。 「わたしたちの名前、残ってるかな」 ってうぉーい。墓に埋めた瞬間に掘り返さないでよ。タイムマシンはせめて十年以上経ってからあけるのがルールでしょ? そーですね。とか空返事しながら、丘を進軍。具体的には微速前進。おっそーい。うっさいわ、駆

2013-12-20 10:22:09
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

逐艦が。 そんなこんなで丘を上りきったあたし達。視界が開けたその先には── 「──良かった。まだ散ってなくて」 潮の香りが混じった風が、あたし達の髪をふわりと撫ぜた。 丘の頂上、どこまでも野原が続く視界の果てに、一本の大きな桜の木が、そこにはあった。 満開に咲き誇るその桜は、

2013-12-20 10:23:13
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

高みから静かにあたし達を見下ろしている。 遅かったね。そんな声が聞こえた気がした。うっさいわ。駆逐艦か。 そんな益体もないことを考えているあたしの思考と身体を置き去りにして、大井っちが桜の木に駆け寄った。 ぺたぺたと木の表面に触れて、難しい表情をしてなにかを探している。 ああ、や

2013-12-20 10:24:00
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

めて。黒歴史を掘り返さないで。あたしの第二の人格と第三の目が目覚めちゃう。 「北上さん」 不意に、木に背中を預けて大井っちが振り返った。 まさか見つかっちゃった?今すぐこの木を雷撃処分だー。 「そこにいますか?」 いるよ。 っていうか、なんでそんなに穏やかな目をしてるのさ

2013-12-20 10:24:55
みくま@W規制垢 @kumakumamikuma3

。 やめてよ。そんな顔、ずるいよ。 「わたし、一度だけしてみたかったことがあるんです」 手招きされるまま大井っちの目の前まで歩み寄る。 「最後だし、たまにはわたしからわがまま言ってもいいですよね?」 だーかーらー。卑怯だって。 そんな言い方されたら、あたしが断れるわけない

2013-12-20 10:27:29