<黒衣の未亡人-THE BLACK WIDOWS> -- 第二章: 巴里炎上 2003>

CanceNorシリーズ+ Motörhead-Rim外伝 JVが語るガーミン輪闘団誕生の物語 (第二部) 続きを読む
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Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「人が信じるものは<信じたいもの>だけだ」 ヒンカピーは微笑みながら伝えた。 「信じたいもの、<神話>は劇的でなければいけない。奇跡でなければいけない。奇跡であればある程、人の心の奥底に信仰は根づく。我々は平等なスポーツをやっているのではないんだよ」 25

2014-01-08 18:38:35
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「我々はメサイヤだ。ミッションを持っている。そのミッションは輪聖の血で購われなければいけない。古い価値観を我々は壊し、<約束の地>へこの世界を導くんだよ」 ヒンカピーはとても優しく、淡雪のような笑顔でVDVの肩をつかむ。 「君もそろそろ使途としての自覚を持ち給え」 26

2014-01-08 18:42:32
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

<2028年12月25日 クリスマス 巴里郊外 ピートフォン城> 「君はこの時の事を覚えているか?若く、恐れを知らず、希望と同時に不安に満ちていたこの時を?」 ドクター・フェラーリンはアイウェアで義眼を再び隠しながらVDVに伝えた。 27

2014-01-08 18:50:33
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「...覚えていますよ。思い出して楽しい思い出とは違いますがね..」 「神話を誕生させた気分はどうかね?」 「悪循環ですよ...。神話は英雄を産み、大衆は奇跡を求め、次の英雄を欲する。」 「どうしたら良かったと?」 「分かりません...」 28

2014-01-08 18:54:27
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「ドクターの仰る通り、私はスペック的には当時のランスを凌駕していたのかもしれません。でもどんな兵器でもカタログスペックでは勝てません。兵器を生かすのは運用です。私はそのスペックを向けるベクトルを持たなかった..」 「神話を生み出した事を後悔している?」 29

2014-01-08 18:56:43
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「我々は輪闘の掛け金を吊り上げ(レイズ)たんだと思います。それはなにもカイジュウコントロールだけの話ではない。大衆に「英雄願望」を、輪闘に「英雄による秩序」をもたらした事です。」 「英雄と神話は無用だったと?」 「そうです」 「50にもなって君はナイーブだな」 30

2014-01-08 19:01:09
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

フェラーリンは笑った。 「前年のフェスティナ輪闘団の大規模カイジュウ侵食があったばかりのこの年だ。歴史にIFはありえないが、もしこの年の輪聖対決とそれに続く神話がなかったら、UCIは国連から解体されていたさ。輪闘は戦争でもあり興業なのだ。神話なくしては成り立たない」 31

2014-01-08 19:05:28
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「でも我々は結局カイジュウ戦争に敗れた!そして鼠のように追いやられてこのように漂流しています!」 VDVは語気を強めて叫び、叫んだ事を少し恥じてグラスにジンを注いだ。 「結果論では我々は負けた。でも、君達の神話によって、我々は15年の時間を稼いだのだ。」 32

2014-01-08 19:12:15
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

ドクター・フェラーリンはジンのグラスを受け取りながら続けた。 「戦略の重要な要素、時、場所、人。君達の神話で我々は時を得た。貴重なリソースだ。場所は伝説の魔の山。そしてさらに重要な事に...」 33

2014-01-08 19:14:43
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「君達が買った時間で、我々は<人>を得た。2004年の事だよ」 VDVは呆然とフェラーリンのアイウェアを見た。 「..まさか...」 「...ファビアン・カンチェラーラ」 「カンチェラーラ十二神最強の邪神、ミュレム・カンチェラーラの転生に君達は成功したのだ」 34

2014-01-08 19:18:30
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

<2000年10月15日 ウェールズ ブレコンビーコンズの森 通称:スリーピング・ホロー> 少年は小さな手で猟銃に12番ゲージの散弾を装填した。風は南南西 1.5メートル。獲物からは風下。 銃床を肩にあてながら、さり気なく父表情を盗み見た。表情は見えない。 35

2014-01-10 22:44:04
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

少年はブシュネルのスコープを覗き、獲物をレティクル(照準)に捕らえる。 "神様はなんでこんなに綺麗に動物を作ったんだろう?" レティクルの中央に雌鹿が捕らえられる。 "そして、神様は何故、僕の指にあの綺麗な鹿の命を託すんだろう?" 銃声。鹿は音もなく倒れた。 36

2014-01-10 22:51:08
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「見事だね、ラクラン」 父親は15分ぶりに笑顔を見せた。 少年にとっては永劫とも思える時間だったが。 「さぁ、処置しようか」 37

2014-01-10 22:52:42
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

薪の横で父親は無言で淡々と鹿の解体を始める。内蔵を摘出し、首からの切れ目で皮を剥ぎ、血抜きを行う。 「どうした?今夜は大人しいね」 父親は手を休めずに少年に聞いた。 少年は顔を赤く染め答えた。 「学校でね、クラスメイトに言われたんだよ」 申し訳なさそうに少年は答える。 38

2014-01-10 22:58:46
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「何もしていない鹿を銃で殺して食べるなんて残国だって」 父親は肋骨を外しながら答えた。 「その子はヴェジタリアなのかい?肉は食べないのかな?」 「いや、食べるよ。スーパーで買えばいいって。生きている動物をわざわざ銃で殺してしかも食べるなんて、文明人のする事じゃないって」 39

2014-01-10 23:02:03
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

父親は笑って答えた。 「スーパーで売っている肉も、そもそも生きていたんだけどね。」 「そう言ったさ!でも、マーサはスーパーで売っている肉は神様が食べていいと言っているって。自分で殺すなんて罪深いんだって!」 「なるほど。珈琲飲んでみる?」 「うん」 父親は解体を終えた。 40

2014-01-10 23:05:02
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「クラスメイトは肉は食べるんだね」 「うん」 「でも自分で殺すのは罪深いと?」 「うん」 「自分以外の人が殺したものならいいんだね?」 「そうだね」 「人に<殺して>もらった動物なら食べられるんだね」 「うん」 「そうだね。人は生きていたい。動物も生きていたい」 41

2014-01-10 23:09:54
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「人が生きていくには、他の命を<食べ>なければいけない。動物だったり植物だったり。一人の人間が生きているって事は、とてもとても沢山の動物や植物の命を食べてきたって事だよ。沢山の犠牲(サクリファイス)の上に我々は生きているんだ」 42

2014-01-10 23:12:53
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「つまり、父さんもラクランも、皆、犠牲がないと生きていけない罪人なんだ。それも間違って犯した罪じゃない。生まれついての罪。生まれついて背負っている罪を、神様は「原罪」と名付けたんだ。それは償えない罪だよ。でも、背負っている原罪から眼をそらせば、その罪はさらに重くなる。 43

2014-01-10 23:20:05
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

シエラカップに珈琲を注いで、それを少年に渡す。 「君の友達は、その罪を人に肩代わりしてもらっているんだ。罪を背負う事を拒否して林檎だけを手に入れているのさ」 少年は黙って珈琲に口をつける。 「父さんはお前に自分で責任を取る男になって欲しいな」 44

2014-01-10 23:28:32
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「輪闘はどうなの?」 少年は真っ直ぐに父の目を見て聞いた。 「一昨年のツールでは沢山の輪闘士がカイジュウに憑依されたよね。クラスメイトもエマ叔母さんもみんな言ってる。「輪闘士はカイジュウに魂を売るんだ」って。 「僕は輪闘が好きだ。でも続けていると僕もカイジュウになるの?」 45

2014-01-10 23:36:00
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

父親はゆっくりと珈琲を飲みながら考え続けた。 少年は父親のそういうところが好きだった。はぐらかさず、押しつけず、しっかり自分で考える父親が。 46

2014-01-10 23:42:15
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「カイジュウは何を求めて人間と同化しようとするのだろうね?」 父親は湯気の立つシエラカップの珈琲を飲みながら少年に問いかけた。 「人を苗床に発生するカイジュウ。人を遙かに越える運動エネルギー、持久力、耐久力、どれも人は到底及ばない超常の力だ」 47

2014-01-12 21:48:35
Cance-Noir(2D) @CanceNoir

「それだけの力を持ちながら、では何故人を苗床にして成長する必要があるのだろう?彼らが人に変わって地球を支配したいのなら人を介す必要などないよね?海底の亀裂からサタンとして現れて人と戦えばいい」 48

2014-01-12 21:53:35