山本七平botまとめ/【終末論的発想】/「時代必滅」の感覚なき日本人

山本七平著『「常識」の研究』/Ⅲ常識の落とし穴/終末論的発想/164頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【終末論的発想】イラン・イラクの戦争がはじまった。 戦局の将来については予測し得る段階ではないが、現在の時点ではイラクの方が優勢のようである。 といってもこれは新聞報道に基づく推察にすぎないが。<『「常識」の研究』

2013-12-27 11:39:01
山本七平bot @yamamoto7hei

②しかし、今回の戦争では新聞はいずれの側にも心情的に肩入れをしている様子がないので、ベトナム報道などと違って、その報道にある程度の信頼性があると見てよいであろう。

2013-12-27 12:08:59
山本七平bot @yamamoto7hei

③「危険だ」とか「一触即発だ」などと言われても、世界の各地へのその種の報道は余りに多いので「即発」が現実に「発火」しないと危険を感じなくなっているのが日本の現状であろう。 この点、過去の「狼が来る」的な「危機、危機」という煽動的な報道は、ずいぶん国民を毒していると思われる。

2013-12-27 12:39:05
山本七平bot @yamamoto7hei

④ペルシア湾には、自由世界の石油の約50%が埋蔵されているという。 従ってこの地点の問題は決して「局地的問題」ではなく、自由世界全体の問題であり、それへの依存率の極度に高い日本にとっては、まさに重大問題である。

2013-12-27 13:08:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤現在では「核の傘」が問題にされているわけだが、過去において日本は、エネルギーに関しては「メジャーの傘」の下にいた。 そしてその傘の下で急速な経済発展をとげたことは否定できない。 そしてその傘がなくなり、安定供給の保証がなくなったのが現在の状況であろう。

2013-12-27 13:39:02
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥過去において「米英石油資本の独占」への非難は日本の進歩的な人々によって常に口にされたが、その傘のなくなった状態が決して即座に新しい安定につながる訳ではない事も事実である。イラン・イラクの間のような「火種」は中東の至る所にあり、それが今回のように、いつ発火するかは予断を許さない。

2013-12-27 14:08:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦そしてひとたび発火すれば「平和」を前提としたプログラムは一切御破算になる。 今回の三井のイラン石化なども、プロジエクト開始のときの前提は、今ではすでになくなっていると言ってよい。

2013-12-27 14:39:02
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧ある一つの「時代」ないしは「状態」が永久につづくという前提で考え、計画し、実施することの危険性は、理屈ではだれにでもわかっているであろうが、戦後三十余年の「平和」はこの危険性への本当の認識と対応を妨げている。

2013-12-27 15:08:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨と同時に、前述の「危機!」の警告はすべて無視してよかったという経験則がこれに拍車をかけている。 これが何となく、戦後的世界秩序とその中にある戦後的日本が、このままの状態で半永久的に存続するかのような錯覚を人びとに与えているであろう。

2013-12-27 15:39:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩確かに一面では「激動の時代」などと言われているが、人びとが本当に激動を感じているのではない。 「生者必滅」という考え方は昔から日本にあり、この考え方は個人の日常生活にまで不知不識に影響を与えている。

2013-12-27 16:08:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪しかし日本には伝統的に… 「ある一時代は必ず終わり、それが終わった後には、それとは違った別の時代が来る。 従って人は今の時代に生きていても、常にその終末を考え、それに対処していなければならない」 といった考え方―― 一言でいえば「終末論的発想」はなかったと言ってよい。

2013-12-27 16:39:07
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫もちろんこれに似た思想はあった。 だがしかし、一つの時代が来れば、その時代を不変なものと考え、その中でいかに生きて行くかを考える考え方が、支配的であったといえる。 たとえば戦前の日本人は、明治的体制を天壌無窮で明治憲法は不磨の大典と考えた。

2013-12-27 17:08:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬同じように戦後は、戦後的体制は国際的にも国内的にも永久につづくように考えている。 従ってこの戦後的体制がいつ終末を迎え、それを越えた未来にどのような体制があるか、 それに対処するため、いま何をすべきか といった具体的発想はないのである。

2013-12-27 17:39:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭勿論一時はマルクス主義がこの発想の代行をしてくれた。 しかしマルクス主義は伝統的な「終末論的発想」の中の一形態にすぎず、伝統的にこの発想をもつ文化はマルクス主義とは関係なく、あらゆる面――いわば政治・経済・社会から自己の生き方にまで――にごく当然のようにこの発想をもっている。

2013-12-27 18:08:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮それは「生者必滅」でなく 「時代必滅」 ともいうべき「感覚」である。 核の傘時代は終わる。 メジャーの傘時代は終わる。 石油の傘時代もいずれは終わる。 戦後的世界体制はもちろん終わるしすでに終わりつつある。

2013-12-27 18:39:03
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯それを総体的に捉える「感覚」が欠如し、そういう時代の中で、今の状態が永久につづくかの如き「感覚」で対処していれば、企業進出はもとより、外交的にも内政的にも、大きな落とし穴に落ち込むことになろう。

2013-12-27 19:08:59