- hiragi30000
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貢ぐ男。 彼はきれいなものが好きだと言った。兄はとてもきれいなひとだったから、似たものが好きなのだろうなと思った。彼の言う「きれいなもの」が何なのかよく分からなかったし、聞いても答えてくれなかったから、幼い手のひらに握りしめたビー玉を差し出した。当時の俺の宝物だった。
2010-10-18 19:45:24「お、きれいだな。くれるのか?ありがとう、ヴェスト」兄が嬉しそうに笑ってくれて、幼い俺は泣いてしまった。嬉しかったのだ。どうして泣くんだ、と少し困ったように笑いながら俺の目元を拭ってくれる指先が温かくて、俺はそのまましばらく泣いていた。彼は俺が泣きやむまで傍にいてくれた。
2010-10-18 19:47:05ビー玉を手に入れるたび、兄の元へ持っていった。今日は青、赤、色のない透明なやつ、色んなものをあげた。そのたびに「きれいだな、ありがとう」と笑ってくれる兄が好きだった。少し大きめのガラスの瓶にいっぱいのビー玉が溜まった頃、兄は、ビー玉ばっかりこんなにあってもな、と笑った。
2010-10-18 19:50:18困った顔で、やんわりと俺の頭を撫でる兄は優しかった。「あ、…ごめん、なさい。おれ、あの…これしか、なくて」「ん?ああ、別にいらねえって言ってるわけじゃねえんだ、泣くなよ。きれいなもの、好きだっつったから、俺にくれるんだろ?嬉しいよヴェスト」気を遣ってくれる優しい声がつらかった。
2010-10-18 19:52:20次の日から、まあるいビー玉をやめた。ガラスのボタン、ブローチからちぎれた羽細工の一部、壊れた指輪から外れたガラス玉、幼い俺が手に入れられるのは、精々この程度のものだった。兄はそれら全てを笑顔で受け取ってくれて、俺はそれが誇らしかった。兄を喜ばせることが出来ていると思っていた。
2010-10-18 19:55:27大きくなるにつれて、兄にあげられるものが変わってきた。壊れていない、けれど安物の指輪。大量生産品の、粗野なつくりのブローチ。メッキの貼られた金のネックレス。次第に、こんなものを兄に差し出すのが恥ずかしくなってきた。ちっともきれいじゃない、兄の好きな、「きれいなもの」じゃない。
2010-10-18 19:59:12勉強をするかたわら、アルバイトを掛け持ちするようになった。朝早くから夜遅くまで働くと、それなりにまとまった金が手に入るようになった。俺はそれらを全て品物に費やした。初めて、小粒ながらも本物の宝石を自分で働いた金で買って帰ったとき、兄は笑ってくれた。すごいな、その一言が嬉しかった。
2010-10-18 20:02:09きれいなものは、きれいなひとの傍にあることで初めて輝くのだと知った。俺の渡した宝石を手にした兄は、とてもうつくしかった。ずっとその姿を見ていたいと思った。
2010-10-18 20:03:37次第に、それだけでは満足できなくなっていった。きらびやかな品物に費やす金が足りなくなると、人には言えないような仕事にまで手を出した。兄に気付かれないよう、深夜に抜け出すのは骨が折れたが、それで普通に働くよりも多くの金が手に入るのだと思うとその仕事を止められなかった。
2010-10-18 20:05:10帰宅したあとの、言いようのない喪失感や虚無感は、兄に品物を渡すことで霧散した。きたない体でも、兄を笑わせることができるのだと思うと、俺にも価値があるような気になれた。
2010-10-18 20:07:03ある日、怪我をした。事故にあったようで、足の骨が折れてしまったらしい。二ヶ月前後の治療期間を要し、俺はその間、きたないことが出来なくなっていた。きたない男に触れられてきたないものを吐き出されて飲み込んで泣いて縋って喚いているだけで金になる仕事を離れ、俺は収入を失った。
2010-10-18 20:09:15そうして、俺はきらびやかに光り輝くものを兄に貢ぐことができなくなった。気が狂う、と、そう思った。兄の宝石箱を満たしてやることのできない俺が、どうして兄の傍にいられよう、どうして生きていられよう。頭を抱えて、泣き喚いた。きたない涙だと、思った。
2010-10-18 20:11:08ごめんなさい嫌わないでごめんなさいごめんなさいすぐにきれいなものでいっぱいにするから、からだのなかがからっぽになってもいいからあなたの宝石箱を埋めさせておねがい嫌いにならないで、すぐ、すぐにもってくる、だから、だから待って、嫌いにならないでいやだごめんなさい嫌いにならないで
2010-10-18 20:14:05泣いて縋ると、兄はひどく悲しそうな顔をしていた。初めて見る表情だった。兄は、いつもきらきらとうつくしいものに囲まれて、俺の差し出すきらびやかなものを身に付けて笑っていなければいけないのに、どうしてこんなに悲しそうな顔をするのだろう。きれいなものを、はやく、はやく兄に。
2010-10-18 20:17:04あ、あ、と声になっているかどうかも怪しい音を絞り出すと、兄が俺に手を伸ばしてきた。慌ててその手を振り払い、さわらないでくれ、と必死に声を出した。俺なんかに触れては、きれいな手が汚れてしまう。兄は、きれいなものだけに触れていなければいけないのだから、俺には触れないでほしかった。
2010-10-18 20:19:15ヴェスト、と俺を呼ぶ兄の声が悲しそうにひしゃげていて、よく見れば赤い目から透明な涙がぽたぽたと落ちていた。ああ、おれが、なにももっていないから。ごめんなさい、嫌いにならないで。
2010-10-18 20:20:36やべ、歯医者の時間だ。おしまいおしまい。補足:弟の仕事→えっちなのはよくないとおもいます>< 兄→弟がおかしくなったことにやっと気付いた 結論→絶対に幸せにならない兄弟 歯医者歯医者モソモソ
2010-10-18 20:22:10なんか、こう、兄は弟が一生懸命自分が好きだって言ったものを集めてくれるのが嬉しくて微笑ましかったんだけど、段々それがエスカレートしてきたことにちょっと困ってた。どっからそんなもん持ってくるんだろうって思ってたけど、頑張ってるしなんか必死だから口出しできない。
2010-10-18 21:10:44そんな折、弟が事故って、普通の仕事以外の収入(どこかで稼いでいたらしい)を失ったことで泣き出す弟。聞いてると、弟は兄である自分にきらびやかなものを与えることで自分に好かれていたと思いこんでいたらしい。ちがうよ、そんなの関係ないよって言っても弟は半狂乱で聞いてない。
2010-10-18 21:12:48ああ、こいつ、いつの間にこんなふうになっちゃったんだろう。安っぽいビー玉を差し出してくれるだけで嬉しかったのに、どうしてこうなっちゃったんだろうな。 で、バッドエンド。アー、バッドエンド脳が働いてオルー。 ほんとにおしまい。影牢2を見る楽しいお仕事に戻ろう。
2010-10-18 21:14:27