忍殺風 魔法少女まどか☆マギカSS 「スラム・スラムド・バイ・ザ・ウォーマシーン」 #2

文豪の魔法少女・アキネイター作。ネオグンマを舞台としたサイバーパンク・プエラマギ活劇「ウィッチハンター」の私家翻訳物 実際はニンジャスレイヤーを元にした「魔法少女まどか☆マギカ」の二次創作小説。アトモスフィアだけを参照しているので忍殺知識ゼロでも大丈夫ですが、こっそりと叛逆の物語のネタバレがあります。 (感想・罵倒は@gammaray_hmまで。favとかRTもとても喜びます) 続きを読む
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GammaRay @sizuoka074

忍殺風 魔法少女まどか☆マギカSS 「スラム・スラムド・バイ・ザ・ウォーマシーン」 #2

2014-01-11 14:07:31
GammaRay @sizuoka074

(前回までのあらすじ)風見野のスラム街を訪れたほむらはいくつかの死体の傍で魔獣、そして『もてぎ』と名乗る魔法少女と出会った。「人捜しをしている」というほむらをもてぎは家へと案内し、屋根を貸してくれるという。ほむらの探し人とは。そしてこの夜の果てに待ち受ける夜明けとは… 

2014-01-11 14:11:52
GammaRay @sizuoka074

「さあ着いたよ。邪魔が入らなくてなによりだったね」冷たい酸性雨の降り注ぐ先をもてぎが指さすと、そこには眩いライトに照らし出された巨大な建造物があった。朽ちかけた看板には『風見野オートレース』の文字。だが朽ちたそこがすでに機能していないのは誰の目にも明らかだ #WCHNTR

2014-01-11 14:15:32
GammaRay @sizuoka074

老朽化したそのレース場には確かな人の気配がある。鉄屑を寄せ集めて作られたと見える、大きな鉄ごしらえのゲートもだ。「おい、もてぎか!?隣にいるのは誰だ?」「あたしのお客さんだよ。わざわざ会いに来てくれたんだ。中に入れてあげてよ」ゲートの上から見張りらしき男達が声を掛けてきた。

2014-01-11 14:35:15
GammaRay @sizuoka074

「お嬢ちゃん。ここは俺達の大事な街だ。おかしなことは考えてくれるなよ」男達はゲートの上で二、三話した後で手元のレバーを押した。ぎしぎしと金属の軋む音を立てて観音開きの扉が開いていく。「悪いね。最近トルコ人とかが賑やかでみんな神経尖ってるのさ」もてぎは苦笑いした。 #WCHNTR

2014-01-11 14:37:21
GammaRay @sizuoka074

「随分と人が多いのね」あちこちを見回しながらほむらが呟いた。くたびれた建物だったが、敷地の中には見渡しただけでも数十人もの人間が集まっている。かつての反映していた頃の名残を見せつけるかのように、たこ焼きなどの屋台を商っている者もいた。 #WCHNTR

2014-01-11 15:39:48
GammaRay @sizuoka074

「ここは風見野でも一番大きなスラムなんだ。色々な仕事してた連中が集まってる」「入り口の門も」「そう。腕のいい溶接工達が作った。発電機やなにやら、壊れたやつを修理して」もてぎとほむらは話しながら場内へ入り、階段を上がっていった。途中、何人もの人とすれ違う。  #WCHNTR

2014-01-11 14:44:46
GammaRay @sizuoka074

「あ、そっちには行かないで」途中、手摺り側に寄ったほむらをもてぎの荒れた手が握り寄せた。「なにか?」「だいぶ痛んでるからね。気をつけてればそう落ちるってこともないけどさ」ほむらが足下を確認する。三階の高さまである非常階段の吹き抜けにコンクリート片が落ちていった。 #WCHNTR

2014-01-11 14:47:48
GammaRay @sizuoka074

気をつけていれば大丈夫ということは、気をつけなければ何かが起きるということだ。じっと足下を見るほむらの手を、もてぎはふざけて握りしめた。「あたしと手を繋いでたい?」「…落ちるよりはマシかもしれないわ」振り払わず、歩く。二人の冷めた手は、ゆっくりと暖まっていった。 #WCHNTR

2014-01-11 14:50:32
GammaRay @sizuoka074

「もてぎの知り合いなら別に構わん。仕事をきちんとしてもらえるなら、いつでもここにいればいい」二人は『管理人室』と書かれた部屋に入り、町長と名乗る眼の細い老人に挨拶をした。善良で、生きた人間らしい。彼は放浪者であるほむらに現実的な提案をいくつか述べ、滞在を許した。 #WCHNTR

2014-01-11 14:55:11
GammaRay @sizuoka074

「生憎今夜は立て込んでるんでな。寝る場所はもてぎの部屋になるが」「構いません」「そうか。もてぎも構わないな?」「うん。パパに紹介しないとね」二人は礼をして部屋を出る。と、そこにみすぼらしい男が立っていた。もてぎは年頃の女子らしい笑顔を浮かべ、彼に飛びついた。 #WCHNTR

2014-01-11 14:58:36
GammaRay @sizuoka074

「パパ!ただいま!」「やあおかえり。その子は?」「しばらくうちに泊まるの!町長さんがそうしなさいって!」「ああ、新しい街の人だね。よろしく。栗千葉ケンイチです」「どうもケンイチさん。ほむらです」微笑むもてぎの脇で、二人はお辞儀を交わした。礼節は大事だ。 #WCHNTR

2014-01-11 15:00:57
GammaRay @sizuoka074

「できればゆっくり話していたいんだけど、今日はちょっと……」「栗千葉さん!権利証は見つかったのか!?」ケンイチがなにかを言いかけたその時、目付きの悪い男達が割り込んできた。大声に気付いた町長も管理人室から顔を出す。 #WCHNTR

2014-01-11 15:02:56
GammaRay @sizuoka074

「志筑建設と市役所の連中が表に来てる」「日付が変わるまでに持って来なきゃ打ち壊しだってよ」「わかった。わかったからもう少し小さな声で……子供達が怯えるでしょう」「早く見つけてくれ!頼む!」強い剣幕で捲し立てる男達だったが、その顔色は死んだ魚のように青ざめていた。 #WCHNTR

2014-01-11 15:06:06
GammaRay @sizuoka074

「すまないね、ご覧通りの有様なんだ」男達が去った後、ケンイチはほむらに頭を下げた。「ただ事ではなさそうですね」殺伐とした空気をほむらは悟ったほむらにケンイチが頷き返し、ぽつぽつと事情を騙り始めた。  #WCHNTR

2014-01-11 15:08:03
GammaRay @sizuoka074

風見野オートレースはかつて見滝原が発展する以前、前橋という名前でこの街が呼ばれていた頃に繁盛していた賭場だった。しかし時流は彼らを冷たく扱った。見滝原という隣接した新興都市の興隆が、彼らから多くの富と仕事を奪い去ったのだ。  #WCHNTR

2014-01-11 15:11:22
GammaRay @sizuoka074

巨大企業が新設したショッピングモールや無人化された工場によって、小さな町工場や商店に支えられていた栄えた風見野はあっという間に衰退し、土地を求める彼らによって立ち退き作業が横行した。時には暴力団を手先にし、汚い手すらも使ったという。 #WCHNTR

2014-01-11 15:13:36
GammaRay @sizuoka074

「家と仕事をなくした人達が集まって、ここで細々と生活してる。だけど権利書が無くなって……」そう言ってケンイチは視線を落とした。レース場の敷地内から喧噪が聞こえる。午前二時だと言うにもかかわらず。『失せろ』『出て行け』『やめてくれ』怨嗟と懇願の声だ。 #WCHNTR

2014-01-11 15:18:29
GammaRay @sizuoka074

「お察しいたします」「いやかたじけない。君のような子供にこんな話を」「いえ、どうかお気になさらず」ぼさぼさの頭を掻くケンイチとお辞儀を交わし合い、ほむらともてぎが階段へ向かった途中、ケンイチが去ったのを見計らったように町長がもてぎに声を掛けた。 #WCHNTR

2014-01-11 15:22:06
GammaRay @sizuoka074

「そうだ。急なことだが仕事が入った。後でちょっと部屋まで来てくれ」「わかった。ほむらさんを送った後で」「ああ、お友達と仲良くな」二人のやり取りを見ていたほむらの表情に、一瞬驚きのようなものが浮かんだが、二人は気付かなかった。あるいは、彼女にとって幸いなことに。 #WCHNTR

2014-01-11 15:26:46
GammaRay @sizuoka074

「さて、それじゃあ二人の愛の新居に行こうかハニー?」ほむらに向き直って手を繋ぎ、指を絡めてくるもてぎ。振り払うのは簡単だったが、それは失礼に当たるだろう。「貴女は私のタイプじゃないわ」「そのうち夢中にしてみせるよ」苦笑いを返したほむらは彼女の隣に着いて歩いた。 #WCHNTR

2014-01-11 15:30:06
GammaRay @sizuoka074

(「スラム・スラムド・バイ・ザ・ウォーマシーン」その3につづく)

2014-01-11 15:31:08