山本七平botまとめ／【食糧難民への対策】／食糧難民解決の山本七平私案

山本七平bot @yamamoto7hei

①【食糧難民への対策】地球は食糧不足に見舞われるであろうという警告は、エネルギー不足の警告と同じ頃、同じ調子で口にされた。 エネルギー不足は既に現実問題として登場しているが、そのことが逆に、同じ現実問題である食糧問題から、人々の目を逸らす結果となった。＜『「常識」の研究』

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②人類は技術により代替エネルギーを開発しうる。 否、しうるでなく、原子力は既に稼働しており、高速増殖炉の開発は過剰な心理抵抗の平静化と共に現実的解決へと進むであろう。 問題は既に、如何に効率的にそれを行うかの政治的問題になっている。 だが、食糧はそうはいかない。

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③問題はしばしば地球的規模で捉えられるが、現実の問題は決して全地球に平均に現れるのでなく、一番弱い部分に集中的に現れる。 そして食糧問題はすでに現れており、決して起こり得る未来の問題ではない。

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④ベトナム難民は「難民のたれ流し」というひどい言葉まで生んでいるが、最近、中国からも香港への難民が激増している。 そして、これらの難民問題で見逃されているのが食糧問題、 いわば飢えである。

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⑤…これらの難民の訴える食糧不足は各々の国の公式な食糧配給量が現実には発表よりはるかに下まわっている事を思わせる。 …まことに困った事に飢えが一般化すると、食糧は貨幣以上の貨幣となり、それを蓄積している者は、それと交換で何でも手に入るという結果を生じてしまう。

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⑥従って、統制は否応なくヤミルートを生じ、末端でその食糧を握る者はある種の権力さえ掌握してしまう。 それは、ヤミの貧富を生じ、それにあずかれぬ一般への配給はますます少なくなり、サイゴンではすでに一日に粥一杯になっているという。

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⑦さらに中国の場合は「四人組打倒」以来、さまざまな面で社会的緊張が緩和されているから、政治的・思想的圧迫は減少していると思われるのに難民が流出するのは、おそらくは食糧問題であり、それを裏づける資料は少なくない。

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⑧いわば両者とも、政治的難民というよりむしろ食糧難民…中国は国民一人当たりの農地が２分の１ヘクタールでわが国より少なく、生産性はアメリカの６０分の１という説まであり、このまま人口が増加すれば、食糧難民の数はますます増えると見るべきである。

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⑨それでいて農民が総人口の８３％であり、それを日本のように大幅に工業に振り向け、製品を輸出して食糧を輸入することは、不可能に近い。 となれば、今後とも継続的に難民が流出していくことを、世界は覚悟しなければならないであろう。

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⑩問題はやはり、最も弱い部分に集中する。 一日に粥一杯では耐えられず、食糧を求めてさまよい出る難民は明確に「食糧難民」として、それに対する対策は、近い将来、地球的規模で考えねばならぬ問題となるかも知れない。 それを「政治的難民」と考えていては、恐らく対策はないであろう。

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⑪これはエネルギー問題のように技術にその解決を求め得ない問題である。 ではどうするのか。 方法は一つしかない筈である。 世界にはまだまだ可耕地は残っており、南米、アフリカ…等、先進国が投資によって水利灌漑その他の設備を整えれば多量の食糧を産出する地がそのままに放置されている。

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⑫そしてこれらの土地に、勤勉な伝統的農民が入植すれば多量の食糧を生産し、自らが、飢えから脱却するだけでなく、飢えている外国への輸出が可能なのである。 そしてそれを阻んでいるのは一に政治問題であり、従ってこれの解決は政治にしか求め得ないのが、エネルギー問題と違う点である。

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⑬確かに「国家主権」は尊重すべきであろうが、しかし地球的規模の問題の解決は、それがエネルギー問題であれ食糧問題であれ、主権の自主的制限が要請される。

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⑭従って、たとえば国連の安保理事会の保障の下にある国々から一定の未開墾地を借用し、先進国が基礎的開発を引き受け、一定の自治権付与の下に食糧難民を入植させ、同時にその国へ一種の保証金を経済援助として支払うといった方法はとれないであろうか。

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⑮世界政府などという夢物語以前に、現実的目標を達成するための世界的規模の政治問題の解決法を提唱してみるべきでないか。 難民問題のために、しぶしぶ応分の何かをしましょうではなく、積極的な提案を世界に向かって行うべきではないかと思う。