山城日記まとめ

朝鞍うどんさんの艦これ二次創作小説、山城日記をまとめさせていただきました。
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カタバミ @catavami

「え、死んだの、あのテロリスト」 画面には廃墟となった建物と捜査員が映し出されていた。南方海域を恐怖に陥れたドック爆破テロ。当初は手掛かりもなく鎮守府同士が疑心暗鬼に陥ったが、事件件数が増える事で1つの傾向が見られた。ドック製造最大手の山口造船所製の被害が無いのだ。 山城日記

2014-01-17 23:22:05
カタバミ @catavami

連邦捜査局は内偵を進めていたが、家宅捜索に入る前にショートランドスラムにある本社ビルが爆破され経営陣は死亡、事件は迷宮入りするかに思われた。しかし執念的に遺体を回収しDNA鑑定を行ったところ、他の鎮守府提督の子供が発見された。家出しスラムで生活していた不知火型だった。 #山城日記

2014-01-18 10:18:07
カタバミ @catavami

山口造船所(鎮守府)に登録されていた不知火はどこに消えたのか?長らくワイドショーを賑わせていたが最近はめっきり見なくなった。だが死亡という形ながらも発見されたから、また騒がしくなる事だろう。 「嫌だったよね。あのテロリストの所為で他所の不知火型も随分処分されたってね」 #山城日記

2014-01-18 10:38:04
カタバミ @catavami

「『リサイクルセンター』送りは、嫌ね…」 ぽつりと呟いてしまった私の一言で、一気に場の空気が重くなった。ショートランドスラムにある通称『リサイクルセンター』は、重犯罪を犯した艦娘が最後に行き着く場所だ。表向きは更生施設だが、噂では陵辱され四肢解体されるという。 #山城日記

2014-01-18 18:44:18
カタバミ @catavami

しまった…と思ったが遅い。4人黙々とカレーをさらえた。デザートは杏仁豆腐。黒蜜を掛ける派と掛けない派に分かれる。金剛姉さまは掛けた。私と比叡霧島姉さまは掛けない派だ。提督も黒蜜を掛けるという。そこは親子で似るのだろうか。 「やっぱりカレーの後は杏仁豆腐よねー」 #山城日記

2014-01-18 19:09:14
カタバミ @catavami

「僕は珈琲ゼリーの方がいいかな」 横から声を掛けられた。振り向くと艶やかな黒髪を持った少女。時雨だ。隣いいかい、と聞かれたのでどうぞ、と椅子を引いて出す。手に持っていた市販の珈琲ゼリーと小匙をテーブルに置いて腰掛けた。 「それどうしたの?」 「買い置きさ。食べる?」 #山城日記

2014-01-18 19:26:16
カタバミ @catavami

時雨とは姉妹のような物だ。生まれたのは時雨の方が僅かに早い。戦艦と駆逐艦の違いはあっても同程度のレベルということで、同じ艦隊に所属し出撃してきた。 「山城お願いがあるのだけど。明日は暇かい?」 なんだろう。 「いいけれど」 「ちょっと買い物に付き合って欲しいんだ」 #山城日記

2014-01-18 19:38:56
カタバミ @catavami

翌々日。暴風雨が過ぎ去った後のブイン・横須賀は快晴だった。私服姿の私と時雨はショッピングモールの『イェン』に来ていた。稲穂を丸くあしらったマークは伝説にある古代日本という所で使われていた硬貨に由来するという。 「暑いわ…」 「暑いね」 汗一つかかぬ時雨が言う。 #山城日記

2014-01-18 19:53:26
カタバミ @catavami

照りつける太陽が体の水分を奪う。時雨は何ともなさそうだ。これが生まれつきの体力の差か。農家に嫁いだ扶桑姉さまは大丈夫だろうか。 「早く入りましょ」 「うん」 ドアマンが二重のドアを開けてくれた。快適な空気が体を癒す。ああ、生き返った。そんな私を見て時雨がニコリと笑う。 #山城日記

2014-01-18 20:38:59
カタバミ @catavami

「なーに?」 「なんでもないよ山城」 他愛ない話をしながらブラブラと店を冷やかしながら歩く。目的は『なにかいいものがないか』だからこれでいい。 「あれ時雨似合いそう」 「メンズじゃないか」 「着るだけ着てみない?」 「嫌だよ。山城が着るなら僕も着るよ」 「えー」 #山城日記

2014-01-19 01:20:10
カタバミ @catavami

「振り向かないで。これなんてどうかな」 時雨が背後から帽子屋の店先に置いてある1つを手にとって私の頭に被せてきた。 「あはは、似合う似合う」 鏡を見ると見馴れた顔に見馴れぬ麦わら帽子が頭日ある。変という訳ではないけれど。 「いつ被るのよ」 「ええー似合ってるよー」 #山城日記

2014-01-20 02:20:14
カタバミ @catavami

「時雨は?」 時雨の頭にも被せる。おお、これはこれで。 「これ被ってワンピース着てたら世の提督はイチコロだわ」 「そんなことないよ」 棚に麦わら帽子を戻すと、黒いソフトハットを被ってみせた。 「僕はこっちの方がいいかな」 「似合ってはいるけれど」 むしろ似合いすぎて。 #山城日記

2014-01-21 06:25:46
カタバミ @catavami

白いシャツブラウスに黒のレギンスパンツ。そこに黒のソフトハットを合わせると男装に近い。 「なにか変かな」 「ううん、格好良すぎるなぁって思ったの。宝塚みたいで」 先史から続く古典芸能の名を挙げた。 「ありがとう。でも山城の方が僕みたいな服は似合うと思うんだけどなぁ」 #山城日記

2014-01-21 12:45:06
カタバミ @catavami

先程からチロチロと燻っていた物を時雨が盛んに焚き付けてしまっている。…大火になってもいいかな。 「時雨時雨、あのお店見てみましょ」 指差す先はかわいい系の専門店。 「山城着るの?」 「いいからいいから」 店員に声を掛けた。神通型だ。 「この子に会うのを」 「山城!?」 #山城日記

2014-01-22 03:42:35
カタバミ @catavami

「珊瑚礁の海のような明るさと、凪いだ海面のような淑やかさを合わせた服で彼女に似合いそうなのは無いかなーと思って。もちろん可愛い感じで」 「はぁ!?山城!いや僕はいいよ黒好きだから!」 慌てて手を振って拒絶する時雨。かわいい。 店員は困った顔も見せずに幾つか持ってきた。 #山城日記

2014-01-22 22:04:04
カタバミ @catavami

「山城には失望したよ!」 着せ替え人形と化した時雨は結局何も買わずに店を出た。話しかけても俯いたまま無視され、フードコートで席に着いてからの第一声がそれだ。顔を真っ赤にして怒る時雨。目に涙も浮かべている。ちょっとやりすぎたかしら。 #山城日記

2014-01-22 23:25:07
カタバミ @catavami

「ごめんごめん。ほら何食べる?私が出すからさ、何でも好きなの頼んでよ」 ものすっごい似合ってたわ、と言うのは心の中にしまって置く。 「…スガキヤの特製ラーメンデザートセットのコーヒーゼリーにポテトサラダ」 安さが売りのフードコートで微妙に高い品を選んだわね。 #山城日記

2014-01-22 23:45:16
カタバミ @catavami

私もスガキヤのラーメンとクリームぜんざいにした。豚骨ベースのスープは癖もなく麺と絡まりスルスルと箸が進む。左手にフォークとスプーンが一体化した専用の匙を持つ。麺をそれに乗せて一口でぱくり。スープと麺を同時に味わえる、先史人類の偉大な発明品だ。 #山城日記

2014-01-23 09:55:33
カタバミ @catavami

「この後どこ行く?」 五目御飯が時雨の胃の中に落ちたのを見てから話しかけた。機嫌、多少良くなったかしら。 「んー」 この音程から判断すると直ったようだ。 「まだ上の階行ってないから、そこ見ようよ」 最後に残しておいたコーヒーゼリーのカップを手取った。本当に黒系好きね。 #山城日記

2014-01-23 15:12:46
カタバミ @catavami

ショッピングモールは吹き抜けになっていて、その周りに通路、店舗がある。十数階にも上がって来ると、下を見るのが、その。 「山城、ひょっとして高いところだめなの?」 「そんなことは、ないわよ?平気平気」 前から人が来ても決して吹き抜け側に寄らないのを見て、感付かれたか。 #山城日記

2014-01-25 12:40:22
カタバミ @catavami

「へぇー」 時雨の目付きがなんとも言えない、目が言葉を発するとしたら先ほどの仕返しだと言いそうな。 「あっ山城、下の方で何か催しやってるよ」吹き抜けの柵にわざとらしく駆けて、ポリカーボネートで出来た柵に寄りかかり下を指す。 「ほらほらぁ、山城も見てみて!」 いや! #山城日記

2014-01-25 13:06:12
カタバミ @catavami

しかし怯んでは時雨の思う壺。慎重に踏み出す。ちゃんと足場ある。足場ある。きっとある。でも通路がガタンと傾いて吹き抜けへ落ちたらどうしよう。壁の無い、柱も目に見えない宙ぶらりんな構造の建物なんてきっと欠陥があるわ。すとんとこの通路が下に落ちたら。ああ。柵に辿り着いた。 #山城日記

2014-01-25 13:11:43
カタバミ @catavami

無表情を決めていたつもりだが、時雨が妙ににやにやしている。 「ほら、あそこだよ」 ちらりと眼下を見る。何だか着ぐるみみたいのが見えた気がしたが、それよりも高さに目が眩む。 「そんなんじゃ見えないって、ほらもっと身を乗り出して」 姉さま、山城は先立つ不幸をお許し下さい。 #山城日記

2014-01-25 13:18:32
カタバミ @catavami

胸元まである高さの柵に手を置き、目を閉じたまま首だけ外に出してみた。 「見えてないでしょ。目を開けなきゃ」 この悪魔め。何の恨みがあるのよ。先ほどの事は棚に上げたんだから。薄ら薄ら瞼を開けてゆく。高い!高所でも自室に申し訳程度に付いている窓から見る景色なら平気なのに! #山城日記

2014-01-25 14:11:15
カタバミ @catavami

「わっ!」 背中を押された。声にならぬ悲鳴を上げてしまい、全方位の買い物客の視線が集中する。恥ずかしい。脚がすくんで動けない。なんなのよもう。目から熱い滴が溢れてきた。 「や、山城、ごめん。大丈夫?」 泣いてたまるかと思えど、喉が締め付けられたようになり抑えこめない。 #山城日記

2014-01-25 14:21:59
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