#6　行進曲 ♪　プライズ・スナイパー

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勇矢は、そして傍で聞いている智明達も困った。本当のことは様々な事情により話せない。かと言っていつまでも家庭の事情で片付けるのも無理がある。 「この際！今年は良い。そういう計画だからな…でも来年は？絶対に出られるんだろうな？」 「……そりゃ絶対とは言えないけどさ」 19

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それは智明も気にしているところではある。フォームド災害にも規模や段階がある。勇矢とて毎回出撃する訳では無い。週１～４回のランダムかつ少なくない出現ペースに付き合っていては負担が大き過ぎるし、軍や民衆に彼への依頼心も生まれかねない。時には犠牲が増えるのを承知で見殺しにもする。 20

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その上で、智明達と勇矢は取り決めをした。大会中は一定規模以下の災害であれば放置すると。軍隊任せでも犠牲が百人程度に抑えられる辺りがそのラインである。これなら月に１・２度以下である…今のところは。先日は正にこのラインを大きく上回られた。 21

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勇矢以前に、智明にとっても見過ごせる規模では無かった。彼の真の狙いはアクトボットでの優勝…などではなく、その実績を以って、対フォームド兵器開発の中枢に入ることである。だからこそ目先の勝利で将来の大局的な犠牲を抑えられるとしても、譲ってはいけないラインが彼の中にある。 22

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「お前！それで良いと思ってんのか！？」 「いや…」 良くは無い。だが勇矢の意志ではどうともならない。 「いくらお前が強くても、イザって時にいるんだ甲斐ないんだが分かんねぇんじゃ戦力にならないんだよ！」 あまりにも尤もである。勇矢自身も分かっている。 23

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勇矢が部員達に真実を話そうが話すまいが、彼が大会中ずっといられるという確実な保証はない、その事実は動かない。だから反論出来ない。智明はそれも止む無しと飲み込んではいるが、不安が残っているのも事実。 「亀岡君、待ってよ…そんなに言わなくたって良いじゃないの！」 早紀が庇う。 24

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「何でお前が出てくるんだよ、村雨。お前らだって観崎には借りがあるだろうが。良いのかよこれで」早紀も興起達の京都組も、共に智明に借りと数十万以上の借金がある。部員達は優勝を望む気持ちこそ同じだが、それ以外の事情や思惑は皆異なる。興基は正直なところ、智明の計画には乗り気でない。 25

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自分は勿論、蘭花を十年以上のスパンで不確かな計画に付き合わせたくはないのだ。しかし借りを返す気はしっかりとある。だからこそ約束の三年間でしっかり優勝をもぎ取り、賞金の分け前から借金を返し、以って京都へと帰るつもりだ。早紀も似た様な方針だった筈だ。前に興基はそう聞いた。 26

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「確かに私だって勝ちたいし、お金も返したいわ。でも浅空君にだって事情がある筈でしょう？」 「その事情を知りたいって言ってるんだよ！」 勇矢に向けて言う。 「じゃあ貴方は…自分の事情、全部言えるの？」 「……」 「私は…言えないわ」 ちらり、と一瞬だけ湊に目線を向けすぐに戻す。27

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「それに、私も貴方達も観崎君に借りがあるわよね」 「…？だからこそハンパは許されないって話だろうが？」 「だからこの部で発言権が強いのも観崎君」 「お、おう？」 「その観崎君の意見は？」 智明に問う。 「僕かい？」 急に振られ困惑しつつも智明は答えた。 28

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「詳しくは言えないけど、彼も複雑な事情を抱えてるからね。急に出られなくなっても仕方ないと思うよ。僕には責められない」 「でも！それで良いのかよ！観崎は！」 「そもそも僕がこの部を作ったのも、例の計画を立てたのも…彼のお蔭だ。それに訓練用のロボットも提供してもらってる」 29

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智明の計画は、４年前の勇矢の行動が発端となって生まれた発想である。小学生一人で十数名の企業や大学のチームを次々と薙ぎ倒す光景は驚嘆にして鮮烈だった。サッカーや野球で想像すればどれ程の異常事態かお分かり頂けるだろう。実の所、興基達の大会参加もそれが発端である。 30

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興基達京都組と、智明・隆弘は翌１０年度大会に出場したが、勇矢程の成績は残せなかった。小学生に荒らされたことで各企業チームが雪辱を誓い、結果として平均レベルが一気に上がった為である。１２年度に参加した早紀達福岡組はなお悲惨だった。前年の休止を挟んだことで強豪が残ったからだ。 31

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「だから彼はこの部に十分貢献してくれていると思うよ。今辞められても文句は言えないくらいさ」 「そうかよ…。確かに観崎が良いって言えば文句は言えないよな。でもな浅空？」 「うん？」 「観崎の信頼を裏切るような真似をしたら許さねぇぞ」 「裏切るメリットが無い」 32

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「そうかよ…」 興基は苦笑いを浮かべ軽く溜息を吐く。その表情は呆れた様にも疲れた様にも見えた。そして座る。 「で、浅空は何時までそうしてんだ？」 「え？もう頭上げて良いの？」 勇矢は土下座のままであった。 「ほら立てよユウ」 静観していた裕岐が起こしに寄ってくる。 33

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途中、早紀に声を掛ける。 「ありがとうな村雨」 勇矢と同校出身で『身内』である彼や星護は立場上擁護が難しかった。他に勇矢と仲の良いのは起矢と宵羽拓渡だが、起矢は口が達者では無い。拓渡に至っては言語回路が汚染されていて論外。その上、過労により机の上で伸びている。 34

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「いえ、私も…彼には借りがあるからね」 「借り？」 早紀はそれ以上語らず、裕岐も追及しない。 「ほらユウ！立てって…！あと、お前も礼を言えよ？」 「借りか…なあ霧雨さんや」 「村雨です」 「せっかくだから世話になりついでに踏んで頂く訳には…？」 「いきません」 「無念」 35

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―新渡町中心部。 雑踏を歩く黒蛇皮のレザーシャツの男。奏一である。彼は『気』を解放しながら歩いている。常人には何となく剣呑な空気、としか感じられないだろうが、魔術の心得のある者にはその気配は明らか。余程、感が鈍く無ければ近づけば彼に気付く。彼が人では無い、誓約者だと分かる。 36

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この町の魔術師と、「奴等」、どちらが先に自分に気付くかは微妙なところだ。少なくとも奴らは自分達誓約者をこの町に誘い出す為に仕掛けて来た筈だ。最初から到来を予測していれば、もう気付いているかも知れない。そのそも襲撃時から今までトレースされている線すら否定できない。 37

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一方、町側も警戒している可能性はある。奴等に「誓約者が来る」と明かされているかも知れない。第一、ここは彼等のテリトリーだ。侵入者の探査には彼等のほうが有利。 何にせよ、先に仕掛けてくるとすれば町側の筈である。奴らもけし掛けた以上町側にぶつけたい筈だ。それを承知で敢えて乗る。 38

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…奏一の読みは、ほぼ正解である。ＵＡＲは彼の仲間を殺し、コアを奪い、ある少女に植え付け「亜・誓約者」にした。これを倒されたのは彼等の計算内。奏一達をホワイトにぶつけることが真の狙いである。本来、魔術師に取って不倶戴天の敵である誓約者を利用しようというのだ。 39

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魔術師に取って常識外れであるばかりか、不愉快な作戦でもある。それでも彼は…フレアナイトは実行せねばならない。多大なる弱みを握られているが故に。彼は遠くから奏一を補足しながら、怒りを噛み殺す。アレを支援してホワイトを倒せ、と言うのがＵＡＲからの命令である。 40

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率直に言えば、すぐにでもホワイト側に寝返り目の前のアレを切り捨てたい。ホワイトと仲間により、二人の部下にして仲間を失ってはいるが、ＵＡＲへの怒りが勝る。葛藤と戦いつつも、気配を殺すことも忘れない。魔剣士はひたすらに激情を抑え続ける。そして毒蛇は…復讐の牙を研ぎ澄ましていた。 41

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ミストルティン編・第十八話　壊縁 ♪ ～ホワイトのショータイム～インディヴィジュアリスツ・エイム～ #6　行進曲 ♪ プライズ・スナイパー　終わり #7　協奏曲 ♪ ノー・パーフェクト・ワン・ゴーズ　に続く 専用タグ：　#evlst