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男は言うだけ言うと一方的にスカイプを閉じ退却した。ただそれは単に男が〔50円玉〕との会話を一時的に終わらせたということを意味する以上のものではなく、〔50円玉〕のオンライン上での発言が引き続き監視されている可能性はまったくもって否定し切れなかったため、注意が必要だった。 山村79
2014-01-25 15:46:03(すごかったね、今の) オンライン上における〔50円玉〕のリスナーが、彼に対してコメントをよこした。 (あの人、友達なの?) 「え、友達ではないです・・・」 〔50円玉〕は椅子に深く座りなおしながら頭を掻いた。 山村80
2014-01-25 15:46:59〔50円玉〕は例の男に自分の発言が聞かれているであろうことを半分意識しながら言葉を紡いだ。それで相手が気分を害してもまあかまわないだろうと思った。むしろ別な人間との会話を装い、一対一ではいえなかった本音や不満をぶつけてやろうかと考えていた。 山村82
2014-01-25 15:49:19「なんか、去年あたりからつきまとわれてるんです・・・」 (へえ、もてるんだね) 「もててもうれしくないです。相手男ですよ?」 (男でも、いいじゃん) 「いやですよ」 山村83
2014-01-25 15:50:06(でも、お友達、いなかったんでしょ?) 「いなかったけど・・・別にほしかったわけでもないし」 (友達ほしくなかった?) 「ほしくなかったです。ずっとほしくなかったです。一人のほうがよかった」 山村84
2014-01-25 15:50:46(いままで一人で何してたの?) 「え・・・雲見たりとか・・・・・川に行って、川見たりだとか・・・・」 (ふうん) 「・・・・・・」 山村85
2014-01-25 15:51:24〔50円玉〕はパソコンに映る自分の顔を見つめた。 暗い暗い部屋の中でしょぼくれた中年が、能面のような顔で口だけ水槽の中の魚のごとく開閉させていた。 この顔をあの男は今も見続けているはずだった。 山村87
2014-01-25 15:53:18「いや会わないですよ。会わないです」 (会わないの?) 「会わないですよ。居留守使うか逃げます」 (追ってきたら?) 「追ってきたらもう警察呼びますよ。あんなの。怖いし・・・」 山村88
2014-01-25 15:55:24〔50円玉〕はPCの画面から自らの姿を捉えるウェブカメラに一瞬視線を切り替えた。 それは彼の左上方の壁面に貼り付けられていた。 男に対するご機嫌伺いであると同時に一定の意思表示のつもりでもあった。 山村89
2014-01-25 15:56:20「あんな人・・・何されるかわからないんで」 (そんななんだ) 「あの人僕のこと独占できるって思ってるから。独占できて当たり前だって思ってるんで」 (ほんと?単にそれだけ愛情が強いってことじゃないの?) 山村90
2014-01-25 15:57:15「いや多分そうじゃないです」 〔50円玉〕は再びウェブカメラをチラ見した。 「あの人もたぶん一人ぼっちなんじゃないですか?それで去年僕がちょっとかまってあげたから それで勘違いしちゃった・・・」 山村91
2014-01-25 15:58:25言いながら〔50円玉〕の膝は震えていた 人前で、あの男が聞いているかもしれない環境下で、ここまでの本音を吐露したのは初めてのことだった。 〔50円玉〕は立ち上げたままとなっているスカイプの画面に神経を尖らせた。 山村92
2014-01-25 15:59:04怒り狂った男が再度襲撃を仕掛けてくる事態は容易に想像できた。 しかしながらいつまでたっても、彼のPCが受信音を鳴らすことはなかった。 山村93
2014-01-25 15:59:37