ゴリラスレイヤー
「…………」 ここは、ゴリラスレイヤーにとっての始まりの場所。彼にとっての祭壇だ。まだ人間だった頃、彼が働いていた鉱山。一人のゴリラのドラミングによって大規模な落盤と土石流が発生、廃坑へと追い込まれた。 44
2014-02-02 12:59:30土石流により近隣に住んでいた妻子の命も奪われ、彼自身もまた、人としての生を失うこととなったのだ。その日から、彼はゴリラスレイヤー……ゴリラを殺すゴリラとして生きてきた。 45
2014-02-02 13:00:55その落盤事故の原因がフルーツ・シンジケートの抗争による物であったことは、ゴリラ・ゲンドーソーの神秘的ブードゥー呪術により突き止めている。だが、そのシンジケートももはや無のだろう。 46
2014-02-02 13:02:23それでも、2人のゴリラは戦う事を止めなかった。激しく組み合い、時に相互に馬乗りになりながら移動を続けるゴリットマンとゴリラスレイヤー。ゴリラの闘争とは、群れを守るためのものだ。だから、ここに居るのはきっと、二人の壊れたゴリラなのだ。 47
2014-02-02 13:03:442人のゴリラが行き着いた先は、廃墟となった遊技場だった。場違いなほど未来的なゲーム筐体が立ち並ぶ中、ゴリラスレイヤーとゴリットマンは、とある稼働中のゲーム筐体に本能的に惹きつけられた。それはまさしく、ドラムであった。 48
2014-02-02 13:06:19この地に嘗て進出した日系企業は鉱山を買い取り、社員を派遣し、彼らのための慰安施設を作った。これはその遺産である。だがしかし、二人のゴリラにはそれを知る由もない。彼らはただゴリラの習性に従ってどちらともなくドラミングを開始した。 49
2014-02-02 13:07:24筐体から音楽が流れる。二人のドラミングは、互角。何時しかドラミングは音楽に合わせた物となり、リズムを刻む。激しいドラミングに揺さぶられ、筐体から『キャバァーン!キャバァーン!』と音が鳴り、同じ曲がまた初めから流れる。 50
2014-02-02 13:09:52二匹のゴリラ……もはやゴリラでも人間でもなく……言うなればゴリラ人間とでも言うべき二つの存在は、ただ機械的にリズムを刻む。 51
2014-02-02 13:11:16もはや曲など関係なく、二人のゴリラのドラミングは何時までも続く。果てしない威嚇は、前世紀の大国間の軍拡競争の様に。恐らくは、何方かが果てるまで。これが何のための戦いなのか、それはもう誰にも分からない。『モウイッペン アソベルドン!』壊れたゲーム筐体が虚しく音を立てた。 52
2014-02-02 13:13:28『ア・カインド・オブ・ダークゴリラ』