亜欄さんのSSまとめ

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紅藤あらん @alansouki

「もう一度、君の役職を聞かせてくれないか?」 「猛獣使いです!」 勢いよく返事をした少女の言葉には同意できない何かがあった。団長である彼は珍しく苦笑いを浮かべている。 「猛獣……?」【入団式・1】

2014-02-02 13:37:32
紅藤あらん @alansouki

@alansouki ふわふわの毛並み、ゆるい顔、平和ボケを体現したそれは彼女の腕の中でぬくぬくと寝ている。猛獣と言えば代表格でライオンとかだろう。しかし彼女は…アルパカを猛獣と豪語してサーカス団に入団しようとしているのだ。【入団式・2】

2014-02-02 13:40:54
紅藤あらん @alansouki

@alansouki 「ごめんね…それは猛獣じゃ…」 「アルパカの脅威を知らないんですか!? 一度ハマると抜け出せない、四六時中抱きしめていないと死んでしまうような猛獣ですよ!!」 「分かった、分かった! ごめんね、僕が悪かった!」 【入団式・3】

2014-02-02 13:44:00
紅藤あらん @alansouki

@alansouki 珍しく狼狽えている団長に団員は目を剥いた。あんなにクールそのものの彼をここまで追い詰めるなんて…… 「アイツ、大物だ…」 誰かの言葉に否定する者はいない。後日、正式な団員になった彼女はやっぱりアルパカを抱きしめていた。【入団式・4】

2014-02-02 13:48:06

14 ナイフ使い

紅藤あらん @alansouki

やっぱり緊張しないなんて無理だよぉ! 舞台の袖で震える彼女の手には使い込まれたナイフ。練習はいつもしている。しかし緊張してしまうことは彼女にとって生理現象だった。【ナイフ使い・1】

2014-02-02 13:56:25
紅藤あらん @alansouki

@alansouki 猛獣使いと称したアルパカ使いが舞台から帰ってきた。次は自分の番。彼女は今日もアルパカの可愛さを宣伝出来て満足顔だ。 「頑張ってね」 返答の代わりに頷いておいた。これしかできない。【ナイフ使い・2】

2014-02-02 14:00:00
紅藤あらん @alansouki

@alansouki 熱さすら感じるスポットライトも歓声の拍手大好きだ。でも人の目線が一斉に自分に向けられること、これだけは幼少の頃から慣れない。震えて、声すら出ないのだ。今日こそは、と口を開いて絞り出した声は掠れていた。【ナイフ使い・3】

2014-02-02 14:04:12
紅藤あらん @alansouki

@alansouki せめて、今日こそは中心に当ててやる。 震える指先に力を込める。定まらない狙いに苛々して思わず目を瞑り放った。 「今日もお疲れ」 「団長……」 「君はもっと自分を誇っていいと思うけど、ね。的を見ずにすぐに捌ける癖を直しなさい」【ナイフ使い・4】

2014-02-02 14:12:04
紅藤あらん @alansouki

@alansouki 団長はシルクハットを目深に被り、さっき彼女が当てた的をとり出した。中心に当たっていないモノもあったが、二つほど彼女の目的としていた場所に傷がある。 「寄せ集めの集団だよ。大丈夫、これからもっと当てていけば、ね」 少女は涙をそっと隠し頷いた。【ナイフ使い・5】

2014-02-02 14:17:01

15 天文台の廃人

紅藤あらん @alansouki

夕日が差し出した頃が彼とって起床時間だ。 「おはよう」 誰にともなく呟いて眼鏡を掛けるともう東の空は紺が支配し始めていた。もうすぐ夜が来る。彼の待つ輝きが空を覆い尽くす。【天文台の廃人・1】

2014-02-02 14:41:43
紅藤あらん @alansouki

@alansouki 皿に金平糖が注がれ、弾いて落ちた一つを口に運ぶ。このまま欠片の一つになってしまいたい。 磨かれた望遠鏡は今日も彼の求めるモノを映す。金平糖を傍らに置き、覗けば、輝きだした数億年前の光。【天文台の廃人・2】

2014-02-02 14:54:44
紅藤あらん @alansouki

@alansouki この光の中にボクを置けたら、どんなに幸せなことだろう。語られる神話、永い悠久の時。彼とってそれが全てだった。【天文台の廃人・3】

2014-02-02 14:59:44

16 亜人

紅藤あらん @alansouki

吐き出した息は白く、曇天の空に吸い込まれる。寒い、とマフラーに埋めた頬はもう赤かった。 低い唸り声をあげた狼の背を優しく撫でる。 『もうすぐ雪が降るよ』 両脇に控えていた狼は互いの鼻先を合わせ、主である少年の身体に寄り添った。【亜人・1】

2014-02-02 15:10:23
紅藤あらん @alansouki

@alansouki 『家に帰ろう』 彼の耳が狼の声を拾う。そうだね、と撫でてやれば狼は耳を伏せて目を細める。 『寄り添っていれば春なんてすぐだ』 狼と同じ耳を持つ彼は天を仰いだ。この白が早く綿毛になりますように。触れた白はすぐに溶けて消えた。【亜人・2】

2014-02-02 15:19:10

17 電脳少女

紅藤あらん @alansouki

0と1、それが私の寝床だ。 『今日はどこにお邪魔しようかしら』 独特な笑い声を零した彼女は、目の前に浮かぶ液晶ひとつひとつを舌なめずりしながら覗いていく。 骨のある子はいないのかしら? 【電脳少女・1】

2014-02-02 15:33:56
紅藤あらん @alansouki

@alansouki 人の造った『ラスボス』なんて存在は案外骨がない。たまに『チート』なんて存在にも突っかかっていったが、『何これバグ!?』って言われた。確かに私はこの世界の寄せ集めで出来たバグですよ。【電脳少女・2】

2014-02-02 15:39:51
紅藤あらん @alansouki

@alansouki 『私をワクワクさせてくれる存在はいないのかしら…』 飽きそう、と思う。私とって時間は半永久だ。 『たまには王子様って存在でも探そうかしら』 液晶は勇者と呼ばれる存在にチェンジしていた。【電脳少女・3】

2014-02-02 15:43:27

18 灰の門

紅藤あらん @alansouki

「シスター、何か門が変だよぉ!」 舌足らずな少年の鼻をかみながら聞いた言葉に彼女は疑問符を浮かべる。また嫌がらせ? と思ったが、それに対しては報告してきた少女の声は嬉々としている。頬も高揚しているところを見ると彼女にとっては凄いことだったらしい。【灰の門・1】

2014-02-02 16:03:33
紅藤あらん @alansouki

@alansouki 「何があったの?」 「あ、あのね! お花畑が出来てるの!!」 お花畑? こんな場所で? 彼女が首を捻っているとよほど見せたいのか少女は彼女のエプロンを引っ張り外へ連れ出した。【灰の門・2】

2014-02-02 16:06:26
紅藤あらん @alansouki

@alansouki スラム街にある孤児院は常に貧困と隣合わせだ。花を買っている暇があったら米の一粒でも買う。 少女が連れ出した外には、確かに花畑が広がっていた。スプレーで描かれた花は、灰の門に絡みつきその色彩を放っていた。【灰の門・3】

2014-02-02 16:10:59