Kiss or Knife #5

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劉度 @arther456

「まさか深海棲艦が艦娘に化けて、提督を誘拐しようとしてたなんてね……」艤装の最終確認をしながら、伊勢が呟く。『蔵王』からシャロンが提督を伴って消えたのと、不知火がシャルンホルストという艦娘は存在しないことを知ったのはほぼ同時であった。ドイツの工作員がようやく情報を掴んだのだ。22

2014-02-12 23:57:08
劉度 @arther456

正確には、情報など無かったという方が正しい。何しろ存在しない艦娘を探していたのだ。資金や資材の流れ、各研究所のデータ、艦娘候補者の少女の足取り、そして横須賀元帥への直接の質問。それら全てを分析して、ようやくシャルンホルストはいないという事実に辿り着いた。23

2014-02-13 00:00:32
劉度 @arther456

そのことを問いただそうとした直前にシャロンが失踪。『蔵王』に乗り込んでいた全ての艦娘が、霧のキスカに緊急出撃することとなり、そして今に至る。「何かされる前に見つかったのは良かったわね」「そうね。……まさか提督が火遊びするなんてねえ」飛龍と陸奥が呟く。24

2014-02-13 00:03:54
劉度 @arther456

「え」その後ろで、赤城が声を上げた。「どうしたの?」「深海棲艦が、消えた!?」「何ですって!?」同時に北上からも通信が入る。『えーとさ、伊勢さん。深海棲艦、来ないんだけど』「そんな!?そっちの方向に向かってるはず……」驚愕する赤城の視界が、フッと暗くなった。25

2014-02-13 00:07:12
劉度 @arther456

思わず赤城は空を見上げる。月を覆い隠す、影。それが、禍々しい刃を持った大鎌を携え、彼女に向かって落ちてきていた。「真上、直上!?」驚く彼女の顔めがけ、刃が振り下ろされる。26

2014-02-13 00:10:35
劉度 @arther456

【今日はここまで】

2014-02-13 00:10:45
劉度 @arther456

(本日の更新において、500kg爆弾が500ポンド爆弾と誤表記される事案が発生いたしました。正しくは500kg爆弾です。担当者は霧のせいだ、霧が悪いんだと叫びながら引きずられて退場していきました。次の担当者に期待しましょう)

2014-02-13 00:11:07
劉度 @arther456

ちなみに500ポンドは228kg、威力半減ですわ

2014-02-13 00:15:12
劉度 @arther456

思わず赤城は空を見上げる。月を覆い隠す、影。それが、禍々しい刃を持った大鎌を携え、彼女に向かって落ちてきていた。「真上、直上!?」驚く彼女の顔めがけ、刃が振り下ろされる。26

2014-02-14 20:33:40
劉度 @arther456

完全に不意を突かれた赤城だったが、一航戦の誇りは無意識のうちに彼女の体を動かしていた。咄嗟に右肩に添えつけた飛行甲板で、顔を守る。ガン、と鈍い衝撃。刃が甲板を貫き、赤城の肩に突き刺さった。「づうっ……!」魔力が散り、上空を旋回していた零戦が墜ちる。27

2014-02-14 20:34:13
劉度 @arther456

血に塗れた鎌を引き抜き、シャロンはもう一つの獲物を定める。陸奥の隣にいる黄色い着物の正規空母・飛龍。しゅうっ、と息を吐き彼女は砲を構えた。舌打ちし飛龍も矢を番える。だが相手のほうが速い。轟音が霧を裂く。鈍い爆音と赤い炎が、飛龍の体を飲み込んだ。28

2014-02-14 20:37:31
劉度 @arther456

「こんのおぉぉっ!」飛龍を撃った一瞬の隙を突いて、陸奥がシャロンに肉薄する。だが、陸奥の拳が当たる寸前、突然シャロンの体が色を失って霧散した。「なっ!?」霧を抉った陸奥の拳に手応えはない。慌てて辺りを見渡すが、シャロンは幻のようにどこかへ消えてしまった。29

2014-02-14 20:41:30
劉度 @arther456

@Sushinoshin_YG 餓狼伝かぁ……あのトーナメントはどの戦いをとっても面白かった

2014-02-14 20:42:28
劉度 @arther456

「伊勢!急いで晴嵐を出して!敵を探して、早く!」敵を逃がすまいと、陸奥が指示を出す。伊勢が晴嵐に魔力を集中させるが、その前に北上から通信が入った。『あ、あのさー!深海棲艦が来たんだけど……すっごい一杯、うわっ、いたたっ!た、退避していい……?』30

2014-02-14 20:43:55
劉度 @arther456

「新手ですって!?仲間がいたってわけ!?……『蔵王』、聞こえる?」『こちら矢矧。どうしたました?』「陸奥よ。ポイント266で提督を見つけたけど、見失ったわ。赤城と飛龍が中破、おまけに東から深海棲艦の大部隊が接近中!至急増援を!」『ッ!わかりました、木曾さん!』『任せろ!』31

2014-02-14 20:47:17
劉度 @arther456

「赤城、飛龍、動ける?一度引くよ」「ええ……申し訳ありません」「やられたなぁ……」伊勢と陸奥は周囲を警戒しつつ、赤城と飛龍を護送し始める。こうして、霧の中に消えた提督の行方は、誰にも分からなくなった。32

2014-02-14 20:50:34
劉度 @arther456

しゅうっ、と湯気が吹き上がる。古びた石油ストーブの上に置いたヤカンからだ。その隣には、汚れた毛布にくるまった提督が座り込んでいる。部屋の中は壊れた机や蜘蛛の巣がかかった棚が散らばっている。その中に座り込む提督自身も、廃墟の一部と化したように動かない。34

2014-02-14 20:54:24
劉度 @arther456

ミシ、と家鳴りが聞こえた。指一本動かさなかった提督が顔を上げる。その目はドアを見つめ、親の帰りを待ちわびる子供のように輝いていた。やがてドアが開くと、金髪の女性が部屋の中に入ってきた。「只今戻りました、提督。缶詰を見つけてきましたよ」シャロンだ。35

2014-02-14 20:58:59
劉度 @arther456

「ああ、ありがとう……」かすれた声で、提督が礼を言う。シャロンもストーブの横に座り、手に持った缶詰を並べていく。「前の守備隊の物資が残っていて良かったですね。どれにします?」「鯖缶と、桃が欲しい」「はい、分かりました」缶切りを手にとって、シャロンが蓋を開けていく。36

2014-02-14 21:02:22
劉度 @arther456

提督の前に並んだのは、乾パン、鯖缶、桃缶、ティーバッグで淹れたお茶。「ごめんなさい。大したものが用意できなくて」「いや。食べ物なら大丈夫だ」提督は簡素な朝食に向かって手を合わせる。「いただきます」そして黙々と缶詰を食べ始めた。37

2014-02-14 21:05:39
劉度 @arther456

提督が目を覚ますと、キスカ島に流れ着いていた。シャロンに話を聞くと、深海棲艦の奇襲を受けて、ボートが破壊されてしまい、この島に逃げ込んだという。島の周りは深海棲艦に包囲されていて、逃げられない。提督たちは前に脱出した守備隊の基地に立て篭もって、救援を待つことになった。38

2014-02-14 21:09:04
劉度 @arther456

「包囲の薄いところは?」「ありません。奇跡でも起きない限り、逃げられません」乾パンを齧りながら、提督は考える。「東側は霧と暗礁で見通しが悪い。上手く紛れ込めば……」「ダメです!」シャロンの叫びが、提督の思考を遮る。「もしものことがあったらどうするんですか!?」39

2014-02-14 21:12:33
劉度 @arther456

「わ、悪かった。そんなに怒らないでくれ」「……すみません」青い瞳を潤ませて、彼女は俯く。気まずい沈黙。朝食にも手がつかない。「……シャロン、お前だけが頼りなんだ」その声を聞いて、彼女はばっと顔を上げた。「手伝えることなら何でもする。頑張ってくれ」40

2014-02-14 21:15:53