Kiss or Knife #5

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劉度 @arther456

◇◇◇◇◇◇◇ ←九十一式徹甲弾

2014-02-12 22:42:38
劉度 @arther456

(これから艦これ二次創作SSを投下します。TLに長文が投下されますので、気に触る方はリムーブ・ミュートなどをして下さい。感想・実況などは #ryudo_ss を使用していただけるとありがたいです。中断の場合【今日はここまで】が入ります。それでは暫くの間、お付き合い下さいませ)

2014-02-12 22:46:02
劉度 @arther456

夜のキスカ島。深海よりも暗い空間に、数百の赤い光が浮かんでいる。波間を進むのは無数の深海棲艦だ。彼女たちの先頭に立つのは、黒いドレスを羽織り、下半身をグロテスクな艤装に埋め込んだ深海の怪物・泊地棲鬼。肩に担いだ巨大な砲は、発砲の熱で煙を上げている。1

2014-02-12 22:46:34
劉度 @arther456

やがて霧の向こうから、人影が一つ近づいてきた。純白のドレスを身に纏った、漆黒の怪物。顔の大半は鬼を模した黒い仮面に覆われ、僅かに見えるのは蒼い右目と金髪のみ。ルーン文字を刻まれた砲を装備した両腕は、ボロボロの人間を抱えていた。今さっきまで内火艇を運転していた提督だ。2

2014-02-12 22:49:51
劉度 @arther456

「遅いぞ、シャルンホルスト」泊地棲鬼が冷ややかに言った。「申し訳ありません。警戒が厳しかったので」提督をしっかりと抱えたシャロンが答える。「その人間は?」「装甲空母姫が逃げ込んだ鎮守府の提督です。西方海域にいた戦艦棲姫を討ったのも、この者です」3

2014-02-12 22:53:31
劉度 @arther456

棲鬼の下半身の艤装から巨大な腕が伸び、シャロンの手から提督をひったくる。「……普通、ではないが人間の範疇だな。こんな存在が、あの鉄底海峡を突破したのか」「ええ」「それで?装甲空母姫は殺してきたのか?」姫の問いかけに、シャロンが目を逸らす。4

2014-02-12 22:58:59
劉度 @arther456

「まさか、これだけ時間をかけても見つけられなかったのか?」「申し訳ございません……警戒が厳しく、提督も居場所を喋ってくれなかったので……」深海棲艦であるシャロンが鎮守府に送り込まれた意味、それは裏切り者の装甲空母姫を処刑するためだった。結局見つけられなかったが。5

2014-02-12 23:02:24
劉度 @arther456

「無能が。やはり貴様に任せるべきではなかったな。戦艦の癖に敵の一隻も屠ったことのないガラクタめ」回りにいる深海棲艦たちの冷ややかな視線がシャロンに注がれる。この、冬の海よりも冷たい群れの中が、彼女が生まれ育ってきた環境だった。ついこの間まで、彼女の知る世界はこの中だけだった。6

2014-02-12 23:04:30
劉度 @arther456

「でも、代わりにほら。提督を連れてきましたから!」鬼が興味なさげに手の内の提督を見る。「そうだな。そこは評価してやろう」艤装の手が力を込める。ミシ、と提督の体が軋む。「何を!?」「何?」「何してるんですか!」「殺そうとしているのだが」7

2014-02-12 23:07:58
劉度 @arther456

「ま、待って下さい!そんな簡単に殺すことは無いじゃないですか!深海棲艦の亡命を受け入れるような人間です、話してみればきっと価値が見つかりますよ!そうじゃなくても人質にしたりとか、洗脳してスパイにしたりとか!洗脳ならぜひ私に!秘書艦をやっていたから提督のことなら何でも……」8

2014-02-12 23:11:17
劉度 @arther456

「何を言っている」鬼の腕が提督を締め上げる。「敵は殺す。それが当然だ」その顔には一切の感情が見当たらない。ただ人間だけを殺す機械であることを、はっきりと表していた。霧がますます濃くなって、彼女たちの足元を覆い始める。ギリギリと提督が締め上げられ、シャロンの心にヒビが入る。9

2014-02-12 23:13:33
劉度 @arther456

その時、気を失っていた提督の瞳が、ほんの少しだけ開いた。彷徨った視線がシャロンを捉える。唇がほんの少しだけ動く。何を言ったのか、そもそも本当に喋ったのか、うわ言なのかすら分からない。だが、五感を繋げたシャロンにだけは、提督の言葉が聞こえていた。10

2014-02-12 23:17:07
劉度 @arther456

「提督は、私に居場所をくれた、たったひとりのお方です」シャロンの姿がゆらりと揺れる。「だからどうした」「私は提督の側にしかいられないんです。ごめんなさい、だから……」霧が彼女の体を一瞬、完全に覆い隠す。次の瞬間、泊地棲鬼は目を見開いた。目の前にいたシャロンが、無い。11

2014-02-12 23:21:14
劉度 @arther456

「謝らないで下さい」瞬きをした瞬間、シャロンは目の前に現れた。至近、すなわちシャロンがどこからか取り出した大鎌が届く範囲である。刃が翻り、霧ごと鬼の腕を切り裂く。霧を割って見えた月光が、一瞬だけ大鎌の刃を銀色に輝かせた。解放された提督を、死神が抱きとめる。12

2014-02-12 23:24:59
劉度 @arther456

「ぐぅ……ッ!?」鬼に呻いている暇はなかった。シャロンが腕の砲を彼女の艤装に向ける。28.3cm連装砲がギシギシと音を立てて膨張し、新たな砲に進化する。現れたのは、38cm連装砲。かつての巡洋戦艦シャルンホルストに搭載される予定だったが、終ぞ完成しなかった主砲である。13

2014-02-12 23:28:48
劉度 @arther456

泊地棲鬼が目を見張る。長い時間をかけ、駆逐艦が軽巡へ、その先へ進化することはある。しかしこれほどまでに急な進化は、深海棲艦にはあり得ない。これはまるで、艦娘が行うという改装だ。動きを止めた鬼の艤装に撃ち込むことを、シャロンは躊躇わなかった。二重の砲声が霧の海に響き渡る。14

2014-02-12 23:32:55
劉度 @arther456

「ガハッ……」泊地棲鬼の下半身を覆う艤装に、巨大な穴が開いた。穴の周りに火花が飛び散り、そして大爆発を起こす。爆風に紛れ、シャロンは提督を抱えて包囲網を飛び出した。レーダーのない駆逐艦では、霧に隠れたシャロンを追えない。15

2014-02-12 23:36:56
劉度 @arther456

「はぁっ……はぁっ……!」エンジンをフル回転させ、全速力でシャロンは逃げる。泊地棲鬼を撃ってしまった。深海棲艦に、仲間に砲を向けてしまった。もうあそこには戻れない。未練はないが、それでも裏切りの重圧が彼女を押し包んでいた。天を仰ぐ。星の光も、月も見えない曇り空。16

2014-02-12 23:40:21
劉度 @arther456

バラバラバラ……。そこから、プロペラの音が降ってきた。3つ、4つ、レーダーを起動して数を確認すると、5機の爆撃機が編隊を組んでシャロンにまっすぐ近づいてきている。既に気付かれ、急降下爆撃の体勢に入っている。運悪く、霧は薄くなっていた。17

2014-02-12 23:43:44
劉度 @arther456

提督を庇うように抱え直し、シャロンは背中の対空機銃を展開する。曇り空に対空砲火のラインが刻まれる。照明弾に照らされ、闇夜から姿を表したのは、急降下爆撃機・彗星。数機が対空砲火に撃ち落とされるが、残った一機がシャロンに向けて500ポンド爆弾を投下した。18

2014-02-12 23:47:04
劉度 @arther456

彗星の接敵地点から、やや離れた海上。そこには6人の艦娘の姿があった。彼女たちの隊の名は、横須賀鎮守府33地区第一艦隊。つまり提督が率いる部隊の中で最強の部隊である。最高練度の戦艦・正規空母・雷巡が2名ずつ。それもただ強いだけではない。戦場という場に慣れている。20

2014-02-12 23:50:32
劉度 @arther456

「提督を連れた深海棲艦を発見!足止めを開始します!」艦載機から連絡を受けた赤城が叫ぶ。「んじゃ、あたしらは先行して待ち伏せするね。行くよ、大井っちー」「はい、北上さん!」魚雷を装填した雷巡二人が艦隊を離れる。彼女らの上には、直掩と通信を兼ねた烈風が飛ぶ。21

2014-02-12 23:53:50