鋼屋ジン @J_hagane さんによる #艦これ SS「或ル提督ノ手記」

鋼屋ジン @J_hagane

　 ――恥の多い生涯を送って来ました。 　

鋼屋ジン @J_hagane

皇紀二六××年　二月一四日 提督ノ手記

鋼屋ジン @J_hagane

恥の多い生涯を送って来ました。 自分には、命を奪うという行為に対する葛藤が、見当つかないのです。

鋼屋ジン @J_hagane

あの時も、必要だから殺しました。迷いは一切ありませんでした。 そして自分は代わりに提督となり、艦娘たちを率いることになりました。 あの時の決断が間違っていたとは、未だにどうしても思えないのです。

鋼屋ジン @J_hagane

自分の、この倫理観の欠如は、どうやら軍人としては類い希なる才能だったらしく。 艦娘たちと共に数多の戦果をあげ、今の地位にまで上り詰めました。

鋼屋ジン @J_hagane

英雄だと人は言います。 死神だと人は言います。 どちらも自分にはしっくりと来ません。

鋼屋ジン @J_hagane

とある学説では、人は母親の胎内にいるとき、生命の進化、三〇億年の過程を追体験すると言います。 胎児の夢というやつです。

鋼屋ジン @J_hagane

それが事実だとするならば、きっと自分は夢の途中で生まれてしまったのです。 自分の魂は人間のそれではなく、生物が最も単純で残酷だった時代のものに違いありません。

鋼屋ジン @J_hagane

英雄という、強い意志を持つものではなく。 死神という、おそろしい何かでもなく。 ただ単に、人間として重要な部分が欠如している、粗悪品に過ぎないのです。

鋼屋ジン @J_hagane

そんな自分が艦娘たちを救おうとする理由は、決して尊いものではありません。 自分は、

鋼屋ジン @J_hagane

自分は、おそろしいのです。 このまま死ぬことが。

鋼屋ジン @J_hagane

死の間際に「嗚呼、殺すばかりの人生であった」と自分を振り返ることが、たまらなくおそろしいのです。 閻魔の法廷で、そのようにしか証言できないことが、たまらなく恥ずかしいのです。

鋼屋ジン @J_hagane

ただ一度でいいから、誰かを救えたという実感が欲しいのです。

鋼屋ジン @J_hagane

そのために自分は、艦娘たちを救うと言いながら、彼女たちを死地へ赴かせます。 何とおぞましい心根でしょう。

鋼屋ジン @J_hagane

真の邪悪というものは、深海棲艦ではなく（彼女たちは嘆き、訴えているに過ぎません。自分には、それは世界に対する求愛行動のようにしか見えません）、自分のようなものを指すに違いありません。

鋼屋ジン @J_hagane

それをわかっていて自分は、今日も艦娘たちの好意を不当に搾取し、肥え太ります。 このような懺悔の真似事をして、救われようとしている心根がまた浅ましい限りです。

鋼屋ジン @J_hagane

不快な内容で、お目汚し失礼。 ますます、寒くなってまいりました。 お体の具合、崩されませんよう、ご自愛下さい。

鋼屋ジン @J_hagane

（宛先は無し。 　投函できなかったものと思われる）

鋼屋ジン @J_hagane

ケッコンカッコカリ用のつもりが、全然そんな内容じゃなかった。

氏家 Ujiie @yasu42

@J_hagane 夢野久作的、というより「新青年」めいたアトモスフィアが実に、実に。いいものを読ませていただきました……

東出祐一郎 @Higashide_Yu

ジンさんはその内「ワールド・ウォー・艦これ」を書くといい。艦娘たちによる凄絶な戦後の独白。

鋼屋ジン @J_hagane

@Higashide_Yu 実はエースコンバット・ゼロなのよ。インタビューで主人公の人となりがわんる形式。

東出祐一郎 @Higashide_Yu

@J_hagane 　ああ、そっちか。確かにジンさんの書いてるのは名無しの提督を巡る物語やね。

鋼屋ジン @J_hagane

@yasu42 この提督、文学青年っぽいイメージだったので…。