いつか見た未来

夢を見た。10年前の彼と私がいた。あの頃は萎縮してばかりの私だったけれど、いじわるばかり言う彼に、中身が大人になっている私は言いたいことを言ってやった。
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真麻一花@しの @maahikka

ついのべる! 1 目の前にあったのは、懐かしい顔だ。 「ほんと、グズ」 幼馴染みの少年が小馬鹿にしたようにせせら笑い、私を見ていた。 まず思ったのは、懐かしいな、ということ。次に思ったのは、夢かな、ということ。 そうか、これは、もう、10年も前の、懐かしい夢なんだ。

2014-02-16 20:59:33
真麻一花@しの @maahikka

2 見慣れた顔よりずいぶん若い、というより、幼い顔をしている。そうか、こんな顔だったっけ。 ぼんやりと見つめていると、むっとしたように彼の顔がゆがむ。 「聞いてんのかよ。そんなんだからおまえといるといらいらするんだよ」 そういえば、この頃の彼は、こんなだった。

2014-02-16 21:02:43
真麻一花@しの @maahikka

3 いつもいらいらした様子で私を責め立てて、馬鹿にしていた。私はそれが怖くて、必死に彼についていこうとして、でも上手くいかなくて、失敗ばかりで、でも嫌われたくなくて、苦しくてたまらない毎日だった。 でも、これは夢の中で、私はあの頃の私じゃない。

2014-02-16 21:05:17
真麻一花@しの @maahikka

4 「いらいらするのなら、一緒にいなくて良いよ?」 私はじっと彼を見ていった。 ずっと不思議だった。なんでこの頃の彼はこんなにもいじわるだったのか。そのくせして、いつも私のそばにいた。私はそばにいたくて必死だったから、どうしてかとかそこまで考える余裕がなかった。

2014-02-16 21:08:04
真麻一花@しの @maahikka

5 「はぁ?」 彼がにらんでくる。きっと、当時の私なら、それだけで口ごもってしまっていただろう。 でも、相手は所詮高校生の彼だ。見知らぬ人ならともかく、子供のころの彼なんて、今更怖いと思わない。

2014-02-16 21:11:16
真麻一花@しの @maahikka

6 「一人で大丈夫だから、先行って良いよ」 あの頃言えなかった言葉を、私は夢の中で実現する。驚いた彼の顔に、私は溜飲を下げた。 この頃、結構これで傷ついたんだからね。ちょとぐらい言い返さないとね。 言葉を失って私を見つめてくる彼を、まっすぐに見つめ返しながら、私は違和感に気付く。

2014-02-16 21:15:53
真麻一花@しの @maahikka

7 なに? 頭ががんがんする。 どんどんひどくなる頭痛に足下がふらついた。 「ほら見ろ、俺がいないと困るだろうが!」 浪速家のわかんない言いがかりを……。 とにかく言い返したいんだろうなぁ、なんて、心の中で笑っちゃったけど、体の方はそうもいかない。

2014-02-16 21:18:15
真麻一花@しの @maahikka

8 「うん、困るよ。ひろくんがいなくなったら、私はかなしいよ。でもねぇ、いじわるなひろくんはイヤ。そうやってずっといじわるばっかり言ってたら、私、ひろくんの側にいるの辛くなって、きっと遠くへ逃げちゃうよ」 高校生のころ、私は彼がいじわるばかりするから、離れる気でいた。

2014-02-16 21:21:12
真麻一花@しの @maahikka

9 でも、それを決めるのはすごく辛かった。きっとひろくん、平気だろうなって考えて、すごく哀しかった。でも、このまま側にいるのが、もっともっと辛く感じたから、遠くの大学を受けることを考えていた。 辛かったんだから、意趣返しぐらい、しないとね。がんがんする頭を抱えて心の中で舌を出す。

2014-02-16 21:23:41
真麻一花@しの @maahikka

10 せっかく中身は10年後の私なんだから、この頃のひろくんに一発がつんと言ってやりたかったのをぶつけてやる。って思うけど、頭が痛くて、うまく考えがまとまらない。 「何、言って………」 ひろくんが戸惑った様子で私を見ている。 「ねぇ、ひろくん、私ね、ひろくん大好きだよ」

2014-02-16 21:28:03
真麻一花@しの @maahikka

11 突然の告白に、彼が固まった。 「え、なっ」 その様子を見て、ふふっと笑いをこぼすと、カッと赤くなった彼が、偉そうに言った。 「す、好きなら付き合ってやってもいいぞ!」 「やだー」 態度が気に入らなくて、ふいっと顔を背ける。 「なんだよ! マヤのくせに、その態度……!」

2014-02-16 21:30:31
真麻一花@しの @maahikka

12 「マヤのくせになんて言う人とは付き合ってあげないもーん」 ちらっと彼を見ると、真っ赤になって口ごもっている。ああ、あの頃の彼が、こんな態度だなんて、なんだか、……面白い。 かわいくてちょっと癖になりそう。 いい夢だなー。なんて思いながら、彼の様子を楽しむ。

2014-02-16 21:32:05
真麻一花@しの @maahikka

13 「ねぇ、ひろくん。私ねぇ、ひろくんのこと好きだから、広くんのそのいじわるな言葉にも、態度にも、傷ついてばっかりだったよ。だからね、もう、一緒にいられないなって思ったんだ。だから、変わらないままだったら、きっと、ほんとに、サヨナラだったよ」 ああ、頭ががんがんする、痛い。

2014-02-16 21:34:19
真麻一花@しの @maahikka

14 目の前がぐらぐらする。 やばい、ほんとにやばい。あれ、これ、夢だよね。 ぐらぐらしている目の前で、すごい形相で駆け寄ってきているひろくんが目の端に打つって、私の意識はブラックアウトした。

2014-02-16 21:35:38
真麻一花@しの @maahikka

15 「……マヤ、大丈夫か?」 うっすらと目を開けると、心配そうにのぞき込んでくる、見慣れた彼の顔がある。 「ひろくん……?」 「のど、かわいてないか?」 心配そうなひろくんを見て、辺りを見回して、そうだ、熱出して寝込んでたんだ、と思い出す。

2014-02-16 21:38:18
真麻一花@しの @maahikka

16 渡してくれた水を受け取って飲むと、ほっと息をついた。 「あのね、夢を見たよ。高校生ぐらいのころの夢。まだ、ひろくんがいじわるだったころだよ」 ちょっとかすれている声で、フフって笑いながら夢の話をする。 彼はそれを聞いて、すごーく居心地悪そうに目をそらした。

2014-02-16 21:40:28
真麻一花@しの @maahikka

17 「あの頃の話はヤメテ」 ぼそっとつぶやく彼は、あの頃とはずいぶんと違う。 もう、彼と離れるしかないと思い悩んでいたころ、ある日を境に、彼の態度が突然変わった。 口を開けば嫌みといじわるしか出てこなかったのに、まず、口をきかなくなった。

2014-02-16 21:43:44
真麻一花@しの @maahikka

18 代わりに、態度がなんだか気を遣うような感じになった。 いじわるの代わりに、単語で話すようになった。重い物を持っていると「持つ」とか言って、代わりに持ってくれたり、ばたばたしてる時は「危ないから」と言ってさりげなくフォローしてくれたり。

2014-02-16 21:46:06
真麻一花@しの @maahikka

19 困っていると無言で側にいて、時折手を出してたすけてくれた。 「ありがとう……」ひろくんの言葉に戸惑いながらも、そう、前向きな言葉を返せるようになったころ、彼も口数少ないながらも嫌みのない笑顔を向けてくれるようになった。 そのうちだんだんと単語以外の言葉も交わすようになった。

2014-02-16 21:48:15
真麻一花@しの @maahikka

20 出てくる言葉は、いじわるな物じゃなくなっていた。気遣う物や、優しい物になっていた。 以前と変わらず、私の側にいてくれたけど、関係はすっかり変わっていた。 私の言葉を待ってくれるようになった。聞いてくれるようになった。言いたいことを言い合えるようになった。

2014-02-16 21:50:19
真麻一花@しの @maahikka

21 「夢の中でねー、あんまりひろくんがいじわる言うから、ひろくんのことは好きだけど、そのままならもう一緒にいてあげないって、文句言っちゃったよ。あの頃言えなかったから、ちょっとすっきりしたよ」 笑いながら夢を思い出し、居心地悪そうな彼に追い打ちをかけるように話を続ける。

2014-02-16 21:52:34
真麻一花@しの @maahikka

22 すると、彼は、驚いたように私を見た。 「………その夢、もしかして、おまえが自転車と体当たりして転んで頭打ち付けた時か………イヤ、まさかな、そんな………」 「きゃー、そんな古い恥ずかしい話思い出さないでよ!」 高校生のころ、彼と登校途中に、やらかしたことのある事故だ。

2014-02-16 21:55:39
真麻一花@しの @maahikka

23 頭を打ち付けたせいか、その前後の記憶はすっぽり抜けているのだけれど、2日ほど意識を失った後、その話を聞いて、ひどいドジッぷりに恥ずかしくて死にそうになった。 「……アレ?そういえば、ひろくんが優しくなり出したのって……」

2014-02-16 21:57:40
真麻一花@しの @maahikka

24 そうだ、怪我したせいで気を遣ってくれてる延長で優しくなったんだったっけ。 「あの事故直後の記憶って、確かなかったんだよな」 「え?うん、覚えてないよ」 恥ずかしさなのか、熱のせいなのか、顔が熱い。 「そうか、もしかしたら、おまえのおかげだったのかもな」

2014-02-16 21:59:51
真麻一花@しの @maahikka

「25 ぼそぼそとつぶやく彼の言葉の意味が、よく分からない。 「ひろくん?」 「何でもない。ちょっと、あの頃のことを思い出しただけ」 ひろくんが笑って私の額に手を当てて、「もうちょっと寝てろよ」って促す。 「私、幸せだなぁ、ひろくんがそばにいてくれて」 目をつむってつぶやく。

2014-02-16 22:02:10