少し真面目なスエズ鎮守府番外

スエズにも、パンツ食べないで戦う時だってあるのです。
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アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「……き」 必死に脳裏をよぎる記憶を振り払う。これは自分が体験したことじゃない。 「……ち……き」 いくらイメージが鮮明に浮かび上がろうと、これはまやかし。そう言い聞かせても、彼女の体は言うことを聞いてくれない。 (沈むんだ……あたし……) 呑まれる。 「望月!」 #スエズ鎮守府

2014-02-17 05:20:26
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「返事しろ!」 「うわっと、しれーかん?」 "艦娘"望月の意識が戦場に引き戻される。 直後、背後で爆発音。緩慢な動作で振り返れば、自分の背後についていた敵艦載機が、晴嵐によって破壊されている。 「望月さん、無事でしたのね! ――ちょっと飛龍さん?」 熊野の声だ。 #スエズ鎮守府

2014-02-17 05:25:08
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「だって、1人で正規空母2人とやりあってるんだよ? それに援護するって熊野も言ってたでしょ!」 「それはそうですけどっ! でも今のは間一髪でしたのよ!」 飛龍に怒鳴り返した熊野が、「全く……」と嘆息しながら飛行甲板に晴嵐を格納する。どうやら駆逐艦は片付いたらしい。 #スエズ鎮守府

2014-02-17 05:28:43
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「望月、まずは提督に返事をしてやれ。さっきからずっとお前の名前を呼んでいたんだぞ」 いつの間にか熊野の背後に来た長門が耳のところを指差す。 「あたしと戦ってたへ級は?」 「後方のタ級と合流しようと後退したが、あと数分で来るだろう。それより、早く出てやれ」 #スエズ鎮守府

2014-02-17 05:32:54
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「あー、しれーかん?」 「いきなり返事しなくなりやがって。心配させんな馬鹿」 ぶっきらぼうな声。そういえば、沈む記憶の中で彼に何度も名前を呼ばれていたような気がする。 「……ごめん、うさぎを追ってた」 「今は目の前に集中しろ。話なら後でいくらでも聞いてやる」 #スエズ鎮守府

2014-02-17 05:40:28
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「3人共、また来るよ! 戦艦と軽巡! 空母は任せて!」 飛龍からの警告が耳朶を叩く。提督との通信を切った望月は、再び迫り来る敵を睨みつけ、単装砲に新たな砲弾倉を叩き込んだ。 「くまのん、軽巡任せていい?」 「いいけれど……望月さんは?」 「ながもんと戦艦を沈める」 #スエズ鎮守府

2014-02-17 05:46:01
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「やれるよね、ながもん」 「何を言っている、さっきまで惚けていたくせに」 口端を持ち上げる望月に、長門もにやりと笑って返す。このコンビはスエズでも最古参だ。熊野や飛龍が艦隊に加わる前から、何度も肩を並べている。 「第2波、構えて!」 飛龍の叫びに、3人は走り出す。 #スエズ鎮守府

2014-02-17 06:00:42
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「私は、望月さんほど甘くなくってよ!」 熊野が、手にした飛行甲板から晴嵐を立て続けに射出した。 しかし、彼女はそれを敵に向かって飛ばすような真似はしない。己の身を取り巻くように纏うと、こちらへ向かってくるへ級の懐へと、自ら飛び込む。それと同時に連装砲に持ち替えた。 #スエズ鎮守府

2014-02-17 06:05:17
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

撃ち、飛ばし、撃つ。 晴嵐は攻撃機であると同時に索敵能力を備えた兵装だ。熊野はこれを常に身に纏うことによって、へ級の攻撃を事前に予測、回避することに成功していた。 「この熊野に気安く攻撃を当てようとするなんて、何か勘違いなさっているのではなくって?」 躱し、撃つ。 #スエズ鎮守府

2014-02-17 06:12:19
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

へ級の右腕がひしゃげる。それと同時に間合いを詰めた熊野は、束ねた髪を潮風に躍らせながら晴嵐に叫ぶ。 「さぁ、お行きなさいな!」 怒涛のように雪崩れ込む攻撃機。それに追従するかのように、熊野の連装砲も砲弾を吐き出す。 「ひゃああ!」 スエズ運河に爆炎が巻き起こった。 #スエズ鎮守府

2014-02-17 06:16:03
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

同時刻。 「頼りにしてるよ、ながもん」 走りながら、望月は前方を静かに見据える。 タ級。海の王者である戦艦にカテゴライズされる、最も危険度が高い分類の一つだ。今まで、幾多の艦娘が命を落とした相手であり、その脅威は全く変わらず望月達の前に立ちはだかっていた。 #スエズ鎮守府

2014-02-17 06:20:21
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「……大丈夫か」 望月の後方、長門が少し心配そうに尋ねた。 艤装記憶の逆流。俗に「うさぎを追う」と呼ばれる現象は、多かれ少なかれ艦娘に不可解かつ深刻なダメージを与える。それを抱えたまま、駆逐艦である彼女が戦艦であるタ級と交戦できるのか。長門はそれが気がかりだった。 #スエズ鎮守府

2014-02-18 04:14:47
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「ながもんは余計なこと考えない! ほら、来るよ!」 望月が叱咤し、右へ跳ねる。長門もそれに習った刹那、今までの航路を灼熱の塊が擦過した。 敵の殺意。それが、大気を伝わり長門の全身に這いずるような震えをもたらす。 「待ちに待った艦隊決戦か……胸が熱いな!」 吼える。 #スエズ鎮守府

2014-02-18 04:19:42
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

長門は海が好きだ。ここには自分達の存在を否定するものは何もない。 在るのは深海棲艦――自分の存在証明に不可欠なものだ。 そしてその敵は今、攻撃の反動で無防備を晒していた。 「やっちゃえながもん!」 「全主砲、斉射! 撃ぇ!」 長門の叫びに呼応し、艤装に衝撃が奔る。 #スエズ鎮守府

2014-02-18 04:26:34
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

海上を打ち据えるような轟音。まるで大気が爆縮したような衝撃を伴い、長門の主砲から圧倒的な暴力が叩き出される。 その姿は、まさに超弩級戦艦と呼ぶにふさわしい。 「九一式徹甲弾……私の奢りだ、たらふく喰らえ」 爆風に黒髪をたなびかせ、長門は微笑んだ。水柱が彼我を隠す。 #スエズ鎮守府

2014-02-18 04:31:56
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「望月、判定は!」 「直撃2、擦過1! 次は引きつけて!」 望月からの即座の返事に、長門は内心で舌を巻く。あの水柱の中、彼女は常に敵が見える位置を取っていたのだろう。 望月の脅威判定の精度、そして立ち回りの巧妙さは、睦月型というスペック上の不利を補って余りある。 #スエズ鎮守府

2014-02-18 04:37:46
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「それだけ当たれば中破か。お前は飛龍の援護に――」 「待ってながもん! こいつ様子が変だ!」 望月の制止。その声音に普段の余裕は無い。 「そんな……あれだけ食らって、小破……!?」 耳を疑う長門。直後、 「ながもん逃げて!」 水柱の向こうから、鋼鉄の塊が飛来する。 #スエズ鎮守府

2014-02-18 04:42:05
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

その瞬間、長門は自分が何をしたのか理解できなかった。 ただ彼女は、至近する灼熱を感じ、続いて艤装の右側がもがれるような衝撃に襲われ、金属が引き裂かれる悲鳴を聴いた。 「くっ」 「ながもん!」 「案ずるな望月……長門型の装甲は伊達ではないよ!」 姿勢を立て直す。 #スエズ鎮守府

2014-02-18 04:46:54
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

即座に艤装のシステムを捜査。被弾箇所と損害状況を確認する。 「チッ……副砲が死んだか」 判定は小破。しかし、欠損したのは艤装のみで、バイタルパートに問題はない。 どうやら被弾の瞬間に副砲を盾にするようにして回避したようだ。 長門もまた、間違いなく戦闘の天才だった。 #スエズ鎮守府

2014-02-18 04:51:07
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

まだやれる。四肢に力を取り戻し、煙を吐く艤装を稼働させて長門は進む。 「望月、副砲がやられた! 援護を頼む!」 「あいよっ!」 素早い動きで、望月が長門の右側に付く。2人の視線の先には、以前として戦艦タ級が虚ろな目で立ち塞がっていた。その周囲には金の光が見える。 #スエズ鎮守府

2014-02-18 04:55:56
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「この距離じゃ仕留めきれないよ」 低速の長門に合わせた速度で、望月が面倒臭そうに呟く。同時に、単装砲で牽制するのを忘れない。 駆逐艦の単装砲程度では戦艦に傷を負わせることなどほぼ不可能だが、やらないよりマシだ。 望月は続ける。 「倒すなら、行くしかないね」 #スエズ鎮守府

2014-02-18 05:00:43
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「さっきのダメージで、あと何回くらい斉射いける?」 「任せろ……と言いたいところだが、どうやら副砲と一緒にジョイントまでいかれたようでな。せいぜい2回程だろう」 長門が少し悔しそうに答える。 あの不気味な敵戦艦を沈めるのは、長門にしかできない。ならば次に取る手は? #スエズ鎮守府

2014-02-18 05:05:33
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

「じゃあ、ちょっとばかし無茶してみよっか」 望月がにやりと笑う。望月がこういう顔をする時は、大抵ロクな策ではない。 そして、その表情は提督にそっくりなのだ。 「……聞くだけ聞いてやる」 「なに、そんなに大したことじゃないよ。……ながもん、実は早く走れるっしょ?」 #スエズ鎮守府

2014-02-18 05:13:13
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

タ級は、戦艦と話し終えた駆逐艦の姿を見つめていた。 黒い制服に茶色の癖毛、赤い眼鏡を掛けた、小柄と言える少女。 脅威判定は低い。が、深海棲艦隊の敵だ。沈める対象であることに変わりはない。 「――」 だから撃つ。駆逐艦に一撃でも当たれば即死に繋がる攻撃を、何度でも。 #スエズ鎮守府

2014-02-18 05:17:45
アフリカの星逆 @Hoshisaka_RevSt

(来た……っ) 長門を背後に下げ、望月は正面から飛翔する砲弾を紙一重で回避した。 自分には戦艦を沈めることはできない。 できるとしたらせいぜい、 (嫌がらせ程度だよねぇ) 回避し、抜き撃つ。蹴り上げられるような反動を手首と肘、肩で吸収しながら、攻撃を繰り返す。 #スエズ鎮守府

2014-02-18 05:21:33