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犬神家の一族 愛のバラード (4:47) http://t.co/gCW5YekqSX #sm6814319 ミステリ用BGM。
2014-02-19 20:35:17ざくざくと硬くなった雪を踏みしめ男は歩いていた。昨晩から降り積もった雪で景色は白一色。道も半ば塞がれ、予定ではもう目的について温かいお茶でも馳走になっているはずだったが、現実としては足を棒にして慣れぬ雪の中を歩いている。男の名はウッカリデス。その生業を探偵とするしがない男だった。
2014-02-19 20:39:13日が頂点にある頃から歩き始め、もう日が傾けばそろそろ遭難の恐れを抱けばとうとう宿場町の明かりが見えてくる。探偵はほっとすると、棒になった足をもうひと踏ん張りする。そして、よく雪かきをされた道を踏んだところで奇妙な老婆に足止めをされた。
2014-02-19 20:43:26「祟りじゃ! 旧き鬼の祟りじゃ!」 さてなにをと聞くまでもなく訴えかけてくる老婆。その剣幕にさてどうしたものかと探偵は悩むが、気がすんだのか老婆はひとしきり叫ぶとどこかけと立ち去ってしまった。はて、あれは一体なんだったのだろうと首を捻る。この事件に関係するのかと不安を覚えた。
2014-02-19 20:46:24「これは遠いところを――」 通されたのはこの宿場町で一番大きな宿を構え、同時にこの町の顔役でもあるだよもんの寝室である。 「このような姿で無礼は承知だが――」 彼は今病床にある。眼力はあるが肌は青い。もう長くないのかもしれなかった。彼は依頼人であり、そして娘を失った父でもあった。
2014-02-19 20:52:03だよもんの旦那は旅館・葉湯呂琶荘の支配人であり、妻と三人の子供を抱える家長であった。あったというのはすでにその家族が数人失われているからだ。子供は長男次男長女といたが、その長女が二週間前に入水自殺、それを追うかのように一週間前に妻も首を括っているのが発見された。
2014-02-19 20:54:57警察はそのどちらも疑わしき所なしと自殺と断定した。だよもんが探偵に手紙を出したのは、彼がそれを納得しなかったことを表す。探偵は事情を聞き顎を掻く。警察が言うのだからその通りなのかもしれない。しかしそうでしょうねと言えばお役御免で飯にはありつけぬ。しかめ面をするとただ頷いた。
2014-02-19 20:57:56やぬという女将に通され、探偵は部屋で夕餉にありつく。日頃から鳴かせていた腹にそれは大層なご馳走だったが、さて疲れと酒で頭が呆けてしまわない内にと聞いたことだけでも頭の中で整理を試みる。
2014-02-19 21:01:21先に亡くなった長女は、近くのものからお姉さまと慕われる才媛だったそうだ。女だてらに大学を出て、父親や兄らに経営学のなんたるかを講義することもままあったとか、なんにしろ人から好かれ、それ以上に自分を好くような女丈夫だったらしい。その話を聞く限りでは入水自殺など思いも寄らない。
2014-02-19 21:05:24追って自殺したとされるだよもんの妻はすないぷという。彼女はだよもんよりも一回り若く、そして派手な女性だったらしいが、ともかく旅館のことにはとんと口を出さない性質だったらしい。これが控えめな女性と言えればいいが、女将に聞かされたところ家の金を使って男遊びしていたとか……。
2014-02-19 21:08:34はたして、やはり話を聞くだけ聞けばふたりが続けて自殺をしたのだというのは腑に落ちない。もっとも、人の心など判らぬもの。娘には人知れず悩みがあり、妻も皆が考えるより子煩悩だったと、それだけの話かもしれない。
2014-02-19 21:10:19探偵は手酌で日本酒を飲みきるとごろんと布団に横になった。ともかく、問題は旦那が納得してないということだ。人が死ぬことなどに納得できる者などそうはいない。しばらくこの宿でぐうたらできそうだ、そう欠伸を噛むと探偵はまどろみの中に身体を沈めた。
2014-02-19 21:13:13そして、空気のひんやりした朝に叩き起こされる。顔を覗き込んでいるのは誰か、酔いの残る頭を振ればそれは女将のやぬだったと記憶から零れ落ちてくる。呆ける探偵に彼女は言った。 「犯人が死にました」 と。
2014-02-19 21:15:37わけもわからず宿を飛び出せば、裏の湖のほとりに野次馬が集まっている。面倒くさくも掻き分けて前に出ればそこにあるのは見ず知らずの男の土左衛門。それを囲む警察。女将の言葉によれば桟橋に土左衛門となった男が認めた遺書があったらしい。旅館の長女を殺してしまったのは自分だと。
2014-02-19 21:19:37湖で死んだ男はヒモといった。この町じゃ有名な色男で浮世を鳴らしていたらしい。つまり、彼はお姉さまと呼ばれる娘を誑かし、しかし浮気を咎められると鬱陶しくなりつい殺してしまったらしい。そして旅館の奥さんも自殺すればついに罪悪感に苛まれ、湖に飛び込んだのだとか。
2014-02-19 21:22:32さて、探偵の仕事がなくなってしまった。これは早々に足代だけでも頂いて退散するが吉かと探偵はだよもんの前に挨拶をしに出向くか、しかしすでに荷を纏めていた(といっても鞄ひとつだが)探偵をだよもんは引き止めた。ヒモという男が死に、罪を告白する遺書が出てなお得心いかないらしい。
2014-02-19 21:25:11そこにどかどかと無作法に入ってくる男ら。襖を開き次々と顔を現したのは探偵の苦手する警察の人間らだった。ひとりは警部でありこの度の捜査責任者である康一君。その後ろに付き従い剣呑な目つきで探偵を見るのはドットーレ巡査。
2014-02-19 21:28:31「随分と失礼な話だ」 と、康一君は憤慨する。それもそうだろうと探偵も内心同意する。警察が自殺と判じたのにだよもんは探偵を雇ったからだ。とはいえ、 「結局、お嬢さんの死は自殺でなかった」 と、ついうっかり皮肉を口にしてしまう。ドットーレが警棒に手をやるのを見ると探偵は首をすくめた。
2014-02-19 21:31:37結局のところ、警察は此度の自殺を先のものとは無関係。遺書は誰かの悪戯と思われるとだよもんに説明した。いくら面子があるかとて無茶な話だと探偵は思う。だよもんも、そして警察自身もそう思っているのだろう。だが臆面もなくそう言うのはそうすれば事が丸く収まるのだという事情も感じられた。
2014-02-19 21:35:08驚くことにだよもんは警察の弁を受け入れた。この町の顔役として、この町にまだ殺人者がのうのうと歩き回っているのを認めてはよろしくないというところで警察と同意したのだ。だが彼個人としては当然納得はいってない。彼は改めて探偵に言った。娘と妻、そして男を殺した犯人を見つけてくれと。
2014-02-19 21:38:41改めてだよもんの旦那から犯人探しを頼まれた探偵だが、とはいえ勝手もわからないのでひとまずは方々に話を聞いて回ることにする。まずは他の家族からと長男で旅館の番頭を務める孤高氏の元へと足を運んだが、彼は探偵を見るなり顔を真っ赤にし罵倒の限りを浴びせかけてきた。
2014-02-20 15:45:07探偵稼業をしていれば詰られるのは慣れている。冷たい廊下に出て肩をすくめていればそこにちょうど仲居が通りかかりこれ幸いにと探偵は彼女に話を聞いてみることにした。したのだが、この仲居少し様子がおかしい。様子がとはいうがそれそのままで、その仲居はメード服を着ていたのだ。
2014-02-20 15:49:30けろめというそのメードは仲居頭だという。どうして彼女だけがメード姿なのかは気になったが、それは置いて探偵は今しがたひどい剣幕を見せた孤高氏のことを彼女に聞いてみた。すると驚いたことに彼女は頬を朱に染め彼のことを褒めちぎる。やれ生真面目で仕事熱心で、等々。
2014-02-20 15:52:41