名探偵と弟子さん

老名探偵さんとその弟子さんの平穏で不穏な日々。
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すわぞ @suwazo

#twnovel 老名探偵は病室へ向かう。少女はベッドで天井を見つめている。「君は事件で家族も何もかも失った。代わりに人間というものへの不信と憎悪を得た」ずっと考えていたと彼は言う。君を殺人犯にしないための方法を。「何かありました?」「私の弟子になりなさい。君は名探偵になるんだ」

2015-02-08 21:49:04
すわぞ @suwazo

弟子「おじさま、昨夜、殺人事件が起きたそうですわ」 名探偵「先生と呼びなさい。場所は?」 弟子「この事務所の隣の隣のビルです」 名探偵「……」 弟子「心配なさらなくても犯人は私ではありませんわ」 名探偵「それを聞いて安心した。ちょっと様子を見てくるか」 弟子「はい」

2015-02-11 17:12:54
すわぞ @suwazo

弟子「おじさま、あの依頼受けますの?」 名探偵「先生と呼びなさい。受けようと思っている。ちょうど暇だしね。君も一緒に行こう、色々と学べるだろう」 弟子「山奥の村の連続殺人でしたわね、確かに色々と学べそうですわ」 名探偵「探偵業の方をだよ?」 弟子「もちろん探偵業の方をですわ」

2015-02-11 19:14:11
すわぞ @suwazo

弟子「おじさま、お茶のおかわり如何です?」 名探偵「先生と呼びなさい。貰おう」 刑事「事務員さん雇われたんですか?」 名探偵「弟子です」 弟子「愛人です」 刑事「えっ」 弟子「隠し子です」 名探偵「冗談を真に受けないように」 弟子「この人、私のなりたいものにならせてくれませんの」

2015-02-11 19:48:04
すわぞ @suwazo

弟子「おじさま、犯人は奥様ではありませんわ」 名探偵「先生と呼びなさい。なぜそう思う? 伯爵を一番強く憎み恨んでいたのは彼女だ」 弟子「だからこそです。奥様でしたらあんな風に死体を偽装したりしません。堂々と犯人の名乗りをあげるでしょう」 名探偵「君がそう言うならそうなんだろうな」

2015-02-12 08:11:16
すわぞ @suwazo

弟子「おじさま、リンゴ頂いたんですけど如何です?」 名探偵「先生と呼びなさい。貰おうか」 弟子「じゃ今から剥きますわね」 名探偵「……」 弟子「どうかいたしました?」 名探偵「君は包丁の扱いが下手だね」 弟子「おじさまはその方が安心でしょう?」 名探偵「それが演技じゃなければね」

2015-02-12 19:17:24
すわぞ @suwazo

弟子「おじさま、何を読んでますの?」 名探偵「先生と呼びなさい。作家の友人がいてね、新刊を出すたび送ってくるんだ」 弟子「以前おじさまと事件の調査もされてた方?」 名探偵「そんなこともあったな」 弟子「……」 名探偵「女性みたいな名前だが男性だよ」 弟子「お茶を淹れますわね!」

2015-02-15 22:18:39
すわぞ @suwazo

名探偵「遺体は?」 刑事「こちらです。あ、君は見ちゃだめだ」 弟子「どうしてですの?」 刑事「君みたいな若い女の子が見るもんじゃない」 弟子「今更、知人でも友人でも家族でもない死体なんてどうってことありませんわ」 刑事「え?」 弟子「そのどれかが犯人な訳でもないし」 刑事「え?」

2015-02-16 17:35:24
すわぞ @suwazo

刑事「あの子は一体何者なんですか」 名探偵「前に依頼を受けた子でね。莫大な遺産を相続して命を狙われてると。そしてそれは本当だった」 刑事「はあ。犯人は誰だったんです?」 名探偵「君は『オリエント急行殺人事件』を読んだことがあるかい」 刑事「は? オリ?」 名探偵「ないならいい」

2015-02-16 18:08:16
すわぞ @suwazo

刑事「これは自殺に見せかけた殺人ですね」 名探偵「いや、逆だよ」 弟子「殺人に見せかけた自殺ですわ」 刑事「は?」 名探偵「彼女はあらゆる証拠を用意して死んだ。彼が犯人である証拠をね。自分の命を使ってでも、彼の人生を破滅させたかったんだろうね」 弟子「無理心中したかったのかしら」

2015-02-17 23:02:56
すわぞ @suwazo

刑事「あの子は先生のことが好きなんでしょう」 名探偵「私は本当は偏屈で性格も曲がってるんだけどね。 あの子は人間すべてが嫌いなんだ。好きで、信じられるのは私だけ。だが、私が好きで信じてる相手なら少しは」 刑事「……?」 名探偵「だから私は誰もを愛するいい人間でいなければならない」

2015-02-18 00:00:52
すわぞ @suwazo

刑事「今日はあの子いないんですか」 名探偵「君、最近何かと顔出すね。あの子なら学校だよ」 刑事「どこの大学なんですか?」 名探偵「大学じゃないよ」 刑事「あ、専門学校ですか」 弟子「おじさま、ただいま帰りました」 刑事「……なんで女子高の制服着てるの?」 弟子「制服だからですわ」

2015-02-18 20:56:46
すわぞ @suwazo

刑事「見間違いだろうか。君は笑顔だった」 弟子「ええ、私は笑顔を向けましたわ」 刑事「なぜ」 弟子「さいごのときくらい笑顔で送られた方が嬉しいと思いましたの」 崖から落下する寸前、女性は彼女を見た。ちょっと微笑んで、小さく手を振って、自ら落ちていった。連続殺人犯の最期だった。

2015-02-18 23:10:53
すわぞ @suwazo

老婦人「あら」 弟子「?」 老婦人「あらあら。あの人の娘さん……お孫さんかしら。可愛らしいこと」 弟子「どなたですか」 老婦人「あの人、留守なのね」 弟子「どなたですか」 老婦人「久しぶりに外に出たから挨拶をと思ったんだけど」 弟子「外?」 老婦人「塀のね。昔あの人に捕まったの」

2015-02-19 22:13:19
すわぞ @suwazo

弟子「おじさま、今日お客様がいらっしゃいましたの。おじさまがいないなら仕方ないとすぐ帰られましたけど」 名探偵「先生と呼びなさい。依頼人じゃなくて?」 弟子「……」 名探偵「何か怒ってる?」 弟子「綺麗な方でした」 名探偵「ほう」 弟子「また捕まえてくれるかしらと言ってました」

2015-02-19 22:21:50
すわぞ @suwazo

弟子「あら、かわいいぬいぐるみ」 刑事「この間ヒマだったから久しぶりにゲーセン行ってさ、試しにやったキャッチャーで取れたからあげるよ。子供っぽくていやかな」 弟子「嬉しいですわ。前はこういうの、いっぱい持ってました」 刑事「前?」 弟子「全部焼けてしましたの。何もかも」

2015-02-21 13:06:02
すわぞ @suwazo

弟子「私、少なくともおじさまが生きてる間は犯罪者にはならないつもりでいますの。でも」 刑事「でも?」 弟子「あの女性が羨ましいと思いました。おじさまが生きてるうちじゃないと、私はあの女性と同じ立場にはなれない。おじさまに捕まえて貰うことはできないんだと、気づいてしまいましたの」

2015-02-21 13:08:20
すわぞ @suwazo

店主「いらっしゃい」 名探偵「相変わらず客のいない店だね」 店主「引退老人が道楽でやってる喫茶店だからね、問題ない。それに客が増えたらあなた逆に来なくなるでしょ」 名探偵「かもね」 店主「若い女の子囲ってるって噂聞いたよ?」 名探偵「逆。囲われてるんだ」 店主「なに笑ってんの」

2015-02-21 22:36:44
すわぞ @suwazo

名探偵「そのうち連れてくるよ」 店主「おや珍しい。あなたここに誰かを連れてきたことなんてなかったのに」 名探偵「何度もあるよ」 店主「依頼人とかはね。個人的な友人知人を連れてきたことは一度もないね」 名探偵「リハビリ中で、修行中なんだ」 店主「なに?」 名探偵「弟子がね」

2015-02-21 22:50:51
すわぞ @suwazo

刑事「猫飼ったんですか」 名探偵「あの子が拾ってきてね」 猫「ニャー」 刑事「へえ、かわい……痛っ!」 名探偵「その猫、あの子以外に触られると暴れるんだよ」 刑事「先に言って下さいよ! て、何で先生の膝には乗るんですか!」 名探偵「触られるのは嫌だけど自分が触るのはいいらしいよ」

2015-02-24 21:19:17
すわぞ @suwazo

弟子「私、自分の年齢が恨めしい」 刑事「え?」 弟子「もっと年をとってたら、おじさまに抱きしめてもらえたかもしれないのに。それとももっと幼かったら、おじさまの膝の上で甘えられたかもしれないのに」 刑事「君はどっちがいいんだい?」 弟子「 」

2015-02-24 21:20:49
すわぞ @suwazo

#twnovel 歩き出した猫のあとを、探偵、弟子、当主、奥方、娘、執事、書生、メイドがついてゆく。猫はある部屋のドアの前でしきりに鳴く。「昨夜現れた『亡霊』に悪戯をしまして」と探偵。「『亡霊』の衣装にマタタビの粉をかけてみたのです」猫が鳴く。「さて、この部屋の持ち主は誰かな?」

2015-02-24 23:11:53
すわぞ @suwazo

刑事「今日は弟子さんは?」 名探偵「君ほんとに何しに来てるんだい。あの子は休み。昨夜は大変だったんだよ」 刑事「デートって言ってましたよ?」 名探偵「知り合いの会社の創立パーティーに招待されてね、社会勉強と潜入捜査の練習がてらドレスアップさせて連れて行ったんだけど」 刑事「はあ」

2015-03-06 23:10:23
すわぞ @suwazo

名探偵「近所の美容院でフルメイクしてもらったんだよね。会場ではちゃんとしてたんだけど、帰ってから鏡見て嘔吐しだして」 刑事「へっ」 名探偵「元々そうだったけど、化粧したら母親にますます瓜二つだったみたいでねえ」 刑事「それで嘔吐?」 名探偵「あ、ナンパすごかったよ」 刑事「……」

2015-03-06 23:11:06
すわぞ @suwazo

弟子「おじさまはどんな子供でしたの?」 名探偵「どこにでもいる、何の取り柄もないただの子供だよ。私が住んでいたのは地方の小さな田舎町でね。本当に何もない町だった。あるとき退屈の果てに同級生たちが『少年探偵団』とやらを結成してね。まあ、もちろんただの子供のお遊びなわけだが」

2015-03-07 17:48:45