#完全ノープラン艦これ与太話 【デス・スマイルズ・イン・ザ・ライト】　#1～#2

春魔解丼 @vespiking

怒号を飛ばしながら響の傷口を塞ぐ巡洋艦達。暴れる電を必死で取り押さえる駆逐艦達。そして、時雨と神通。異常な温度差。「ぽ、ぽいぃ……あぅ……」夕立は演習場近くの丘の上で、恐怖とも哀しみともつかぬ涙をこぼしてへたりこむ。ストレッチャーが到着した。自分達の出る幕はない。 #KZNPLN

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「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」諸手を挙げ、蒼白な顔でうわ言のように謝罪を続ける神通。その背にギリギリと砲口を捻じ込み、引金に力を込める時雨。指の力一つでヴァイタルパートを撃ち抜ける、生殺与奪の一切を握った状態にあってなお、時雨の汗は止まらない。 #KZNPLN

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「動くなよ……次に許可なく動いたら、躊躇なく殺す」「ごめんなさい……ごめんなさい……」時雨は砲口の震えを背に押し当てて殺し、横目で駆逐艦達の惨状を見やる。電は鎮静剤を投与され、虚ろな目で座り込んでいる。今はまだ辛うじて響である残骸が、演習場から運び出される。 #KZNPLN

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半狂乱になった暁の悲鳴が響く。雷はうずくまって泣き続けている。事態の一応の沈静化を確認した時雨は砲を下ろし、背に仕舞う。「……今日の演習は中断しろ。お前の処遇は総指令に任せる。……いいな」「はい……ごめんなさい……ごめんなさい」神通は未だ諸手を挙げている。 #KZNPLN

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時雨が神通に背を向け歩き去るその時、夕立の野生的聴覚は、確かに捉えた。謝罪に紛れた、神通の呟きを。「……ごめんなさい。この子ったら、興奮し過ぎちゃって……ちゃんと、叱っておきますから……」神通の口角が、鋭く上がったように見えたのは、夕立の恐怖心からくる、幻覚か。 #KZNPLN

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神通は、この鎮守府において水雷戦隊の旗艦を務める、駆逐艦達の教官である。ふだんの物腰こそ柔らかいが、過酷な実戦を強く想定したその演習は苛烈を極め、駆逐艦達からは『死神』と恐れられる。かの夕立とて例外ではなく、訓練生時代の恐怖は心に刷り込まれている。 #KZNPLN

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極限状態におかれた艦娘は、反復訓練によって刷り込まれた動きが反射的に出る。故に演習においては、過度の疲労状態に追い込んだ上で実戦的な戦闘行為を反復させるべし。――これが神通の訓練哲学である。だがその苛烈な訓練は時に、強力な催眠術めいて未熟な艦娘を狂わせる。 #KZNPLN

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夕立もまた、この催眠的過剰訓練に狂わされた過去を持つ。夕立は村雨を繰り返し殴打。結果、村雨は死亡。時雨と夕立の心はこの一件を境に捻じ曲がり、2隻共に常軌を逸した発狂状態に陥った。最悪の結末。そして今回、電がその犠牲となった。響の容態は予断を許さない。 #KZNPLN

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絶望的状況とはいえ、響がまだ命を繋いだ状態で入渠でき、電への暴行を伴わず事態を沈静化できたのは、不幸中の幸いか。入渠ドック内で俯く暁型の面々と、そして夕立と、北上。今回の事故を、村雨の時のような惨事にしたくない。その祈りは皆同じであった。 #KZNPLN

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皆が固唾を飲む入渠ドック入口。修復中のランプが、消えた。 #KZNPLN

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#完全ノープラン艦これ与太話 【デス・スマイルズ・イン・ザ・ライト】 #1終わり。 #2へ続く。 #KZNPLN

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#完全ノープラン艦これ与太話 【デス・スマイルズ・イン・ザ・ライト】 #2 #KZNPLN

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響の修復はひとまず成功し、一命をとりとめた。未だ予断を許さぬ状況ではあるが、ドックスタッフの懸命な処置と、彼女自身の強い意志力に支えられ、徐々に快方へと向かっていた。 #KZNPLN

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艦娘の船体（生体部）は、強力な艦霊の受け皿となり戦力を支える核であり、同時に最大の弱点でもある。バイオテックが異常発達し、食物の99%をクローン技術で無尽蔵に賄う大日本帝国であっても、致命的部位が損壊すれば生物は死ぬ。バイオ再生には多大な時間が必要なのだ。 #KZNPLN

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唯一例外となる夕張、彼女の不死身の船体は、莫大な費用をかけた狂気的研究の賜物である。無論霧島の独断であり、倫理的・コスト的観点から見ても、この先あのような蘇生修復が許可される事はまずありえない。致命的重傷の治療は、いまだローテックな医療技術に頼らざるをえないのだ。 #KZNPLN

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集中治療ドックで徐々に人の形を取り戻しつつある響の元には、毎日代わる代わるの顔ぶれが訪れた。僅かな意識があれば簡単な会話をし、意識がなければ手を握って語りかける。その面々は僚艦の暁型3隻であったり、夕立と北上であったり、そして、神通であったりした。 #KZNPLN

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神通は今回の事故の責任を問われ、3週間の謹慎処分を命じられている。任務の空きを縫って面会に来る他の艦と違い、任務のない神通は毎日顔を出し、謝罪し、励まし、日用品を替え、水雷戦隊の近況を伝えた。食事ができるまで回復すれば、僚艦からのオミマイ品などを持ち込んだ。 #KZNPLN

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「ごめんなさい。本当に……こんな事になってしまって……命が助かって、本当によかった」「いい、んだ。わたし、こそ、すまな、い。ふちゅうい、で、めいわくを、かけた」響は首から生えたチューブを上下させ、隙間風のような音でたどたどしく話す。「響さん……」 #KZNPLN

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緊急救命措置にこそ利用はできないが、ひとたび容態が安定すれば、バイオテックによる再生治療技術が活きる。響は徐々に快方へ向かい、3週間が経過する頃には、震える足で辛うじて歩行できるまでに回復した。その頃になると、神通の面会が減った。謹慎が解けたのだろう。 #KZNPLN

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「そうか。よかった。教官も任へ戻ったんだな」歩行サポート手すりに寄りかかり、響が暁型の面々と談笑している。「うん。今はTOKYOエクスプレスに乗ってるよ。私達もそっちへ行ってるの」「それはいいな。私も早く復帰しないと」「今の調子なら、もうすぐなのです！」 #KZNPLN

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南方海域を縦断し、燃料資源採取ポイントまで直通で走り抜ける、最新鋭の超弩級武装海上シンカンセン『TOKYOエクスプレス』！南方海域の制海権を奪取され、長らく運行が停止していたが、水雷戦隊の尽力により制海権奪還に成功。最近になり運行が再開したのだ。 #KZNPLN

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平時における水雷戦隊の主な任務は、この超弩級シンカンセンに乗り込み、南方の採取ポイントから燃料資源を持ち帰る事である。超長距離を走り抜ける鉄塊の中で、敵襲に備え的確な車両防衛を行う必要がある。ピクニック遠征めいた感覚も手伝って、駆逐艦達にとって憧れの任務だ。 #KZNPLN

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「それでね！横からザバーって出てきて……」「ハハハ、たのしみだな……」談笑する4隻を遠巻きに見ながら、夕立は安堵していた。電のショックははかりしれぬだろうが、今回は自分の時とは違う。響も生きている。神通へのわだかまりもない。それを確認し、夕立はドックを後にした。 #KZNPLN